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4  高校の野球部

 一之瀬高校に入学して、すぐにまいは野球部に入った。

 予想通り女子部員はいないようだが、もともと部員も少ないからか歓迎されてしまった。

 そう、思った以上に人数が少なかった。



「中原まいです。中学までは投手をやってました。よろしくお願いします」

「おおおぉぉぉ!!ただでさえ人数が少ない野球部に美人が来たー!それにピッチャー!」

 後に知る三坂(みさか)という丸坊主の先輩は、細い目をこれでもかと言うほど見開いて大声をあげる。

 ふと、その言葉の意味が気になった。

「ああ、ピッチャーはもう卒業していないんだ。今年入った新入部員では中原さんが初めて」

「ピッチャー?」

 その声に反応したのは、三坂よりも奥にいた小柄な男子だった。

 まいは彼の姿を見た。

 後にバッテリーを組むことになる川口修斗(しゅうと)だった。


          ▽


 さすがに市内トップなだけある。日々の勉強についていくだけでも苦労した。

 国語、数学、英語。中学とは段違いだ。

 同じ中学出身の人は他にも2,3人いたが、まいにとっては関わりのなかった人たちで、新しい友達が必要だった。

 でも、席の近くなった女の子と仲良くなれて、少しほっとした。

 こんなとき思う。

 山瀬高校の友達はどうしてるんだろうか。

 ・・・・・大地は元気でやってるんだろうか・・・


          ▽


「中原さん、部活!」

 1番仲良くなったのは、川口修斗かもしれない。

 同じクラスだからか、あるいはバッテリーを組んでいるからか、よく喋るようになったのだ。

「さん付けじゃなくていいよ。中原ーとか呼び捨てがいいなぁ」

「呼び捨てって苦手なんだよね・・・でもわかった。徐々にそうしてみる」

 川口は、三坂先輩とは正反対のタイプの男だった。

 背もまいより少ししか高くなく、色も黒くなく、スポーツが苦手そうな印象を受けるのだが、体育で川口を見たときには驚いた。スポーツテストで、学年1位を記録したのだ。



「ねぇ、中原さ・・・中原はなんで野球しようと思ったの?」

 お互いにキャッチボールをしているとき、川口は当然気になる質問をしてきた。

 まいは、右手でボールをもてあそびながら考える。

「んー・・・最初はお父さんとキャッチボールをしておもしろいって思ったからかな・・・なんか結構飛ばせるみたいで、リトルに入った」

「中学は?シニア?」

「ううん。近くにシニアがなくて、学校の野球部に入ったの。そこで・・・」

 そこまで言いかけて、まいは口ごもる。

 大地のことを思い出した。

 今の自分がいるのは、大地のおかげである。

「中原?」

 心配して川口が駆け寄ってきた。

「ううん。なんでもない」

 少しだけ寂しさを感じた。



 今日の練習が終わってから、部員みんなで片づけをしているとき、ボールを拾いながら川口はぽつりと呟いた。

「俺、中原のこと知ってたよ」

「え・・?」

「中学のときから」

 思わず中腰の姿勢のまま固まってしまう。

 急いで記憶を探ってみたが、まいには川口に対する記憶がなかった。

「3年の夏・・・練習試合やったんだ。覚えてないかな?西中って」

 忘れるわけがない。それは、まいにとって最後の野球になるはずだった試合だ。

 あのとき、自分の投げたボールが完璧に捕らえられる瞬間を思い出した。

 そういえば、あれって・・・・確か、背番号2の人だったような・・・・・



「思い出した?」

 物思いから引っ張り出されて、まいははっとした。

「・・・あのとき、西中の4番キャッチャーに打たれた・・・・それが川口君だったんだ」

「あ、うん・・・」

 決まり悪そうに頷く川口。

「でも、いくら軟式だからって、西中の4番だったらスカウトと来たんじゃない?どうしてこの高校にしたの?」

「家が近かったから」

 なるほど。確かに、立派な理由だ。

 まいが納得していると、川口は少し困ったように笑った。

「でも、ここに合格して良かった。中原とバッテリー組めるから」

 その意味深なセリフの意味をまいが知るのはもう少し先になる。


          ▽


 野球部に入った理由はもちろん野球が好きだからだが、大地たちのいる山瀬高校と試合ができるかもしれないという淡い期待があった。

 しかし、その機会はなかなか訪れない。



 やがて、夏がやって来た。

 一之瀬高校は予選1回戦で敗退してしまったが、驚いたことにそれほど強くなかった山瀬高校が4回戦まで勝ち残った。

 新聞に大地の名前が控え選手として掲載されたいた。


          ▽


「だいぶ速くなったよ。マックス120ちょいくらい」

「うっそ・・・そんなに?」

 2年生の春頃、川口にそう言われたときは子供のように喜んだ。

「これに中原の変化球でそうそう打たれないよ」

 川口も喜んでいる。

 いつも部活終了後、まいの居残り練習に川口はつきあってくれた。

 そのおかげでボールは速くなり、多彩な変化球を覚えることができた。

 公式戦に出れないのに、川口は親身になってつきあってくれた。それが、すごく嬉しかった。

「ありがとう、いつもつきあってくれて。今日はこれくらいにしよっか」

「あのさ・・・中原」

「ん?なに?」

 何も知らずにまいは振り返った。


          ▽


 ようやく念願が叶ったのは、3年生になる少し前の春休みだった。

「今度山瀬高校と練習試合をすることになった」

 先生の一言にまいはすぐに反応した。

 この日をずっと待っていた。

 やっと戦えるんだ・・・!

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