1 中学最後の野球
昔から野球が好きで、少し関連した話を・・・・・
気軽に読んでみてください。
周りを囲むのは山と田んぼ。
そんな田舎町に育った子供たちは、大抵地元の小学校・中学校に通うのが普通だった。
だから、会わせる顔ぶれはいつも同じ。いつもの日常が過ぎていった。
▽
中学3年生の夏、中原まいは自分のユニホームに縫い付けられた『10』という数字を見ていた。
お母さんが自分のために洗ってくれた野球のユニホーム。
これを着るのも今日で最後。
「もう来てたのか」
いつのまに背後に来たのか、チームメートの小林大地が立っていた。野球部のキャプテンをしていて、守備はキャッチャーだった。
せも、正式な野球部ではない。人数が足りなくて、結局夏の大会には選手登録することができなかった。
「今日で、最後かもしれないから」
他校との練習試合。これが、たぶん最後の試合になるはずだった。
野球部にとっても、まいにとっても。
小さい頃から野球が大好きだった。
お父さんと初めてキャッチボールをやったときから、野球の虜になっていた。
小学校では地元のリトルリーグに入り、ピッチャーになった。レギュラーにはなれなかったけれど、すごく楽しかった。
それも、今日で最後だ。
「お前、野球やめんのかよ」
着ていた体操着を脱ぎながら、大地は尋ねる。
まいは無言を返事にした。
「なんでやめんだよ・・・高校でだって続けりゃいいだろ」
「女は試合には出してもらえないんだよ。やってたって意味がない」
「試合に出ることだけが野球じゃないだろ!」
強い言葉に思わずまいはびくっとなる。普段は温厚の大地は、野球のことになると自分にも他人にも厳しくなる。
「大地はいいよね。生まれたときから甲子園に出れる権利持ってるんだから」
▽
試合が始まった。相手は市内の強豪校だった。
今日が最後の試合だからといってもまいが出してもらえるとは限らなない。エースのピンチに出るのだ。
ここまで8回。強豪校相手に4対3で勝っていた。
勝てる・・・自然と拳を強く握る。
もちろん、試合には出たかった。だけど、それよりも勝ちたかった。
と、そのときだ。
「タイム!!」
相手の打ったボールが、ピッチャーの足に当たったらしく、審判がタイムを言い放った。
先生が慌てて駆け寄る。相当痛むのか、ピッチャーの武本はうずくまったまま動こうとはしなかった。
まいは、急に心臓が緊張するのを感じた。
「中原」
呼ばれた瞬間、心臓の鼓動がより高鳴った。
「交代だ。アップしてきてくれ」
まいは力強く頷いた。
マウンドに上がると、キャッチャーの大地が待っていた。彼は右手でボールを渡す。
「一泡吹かせてやろうぜ!」
リトルリーグの頃からずっと気にかけてくれ、今でも補欠のまいともバッテリーを組んでくえた大地。まいにとって、最高の恋女房だった。
受け取ったボールを右手でしっかりと持つ。
そして、ホームに座った大地に向かって、今までで最高のピッチングを披露した。
▽
野球部どころか、全校生徒が帰ったと思われる時間、まいは1人でボールを投げていた。
ただ、黙々と。ネットに向かって。
何かを考えていたような気もする。今までの野球人生について考えていたのかもしれない。だけど、何も考えていなかったのかもしれない。
何球目になっただろうか。ふと人の気配を感じた。
最初は先生かと思ったが、まいはその正体になんとなく気づいていた。
そして、その人物はネットまで歩いてきて、しゃがみこんだ。
「つきあうから。投げろよ」
まいは今日の試合の光景を思い出した。
9回ウラ。
まいは打たれた。
甘く入ったボールを完璧すぎるほど捕らえられた。3ランホームランで逆転された。
初めて勝てると思った強豪校にあっさりと負けてしまった。
自分のミスで。
「自分のミスだって思ってねぇだろうな?」
心の中を見透かされたのかと思って、思わずどきっとした。
ちょうど自分のグラブにボールが入ったときだ。まいは無言でボールを投げ返した。
「あれは俺のリードミスだ。お前のせいじゃないよ」
大地のミットにボールが入る。
「中原のせいじゃない」
まいのグラブにボールが入る。まいはそれを取って、投げ返そうとして・・・・・右手を下げた。
「帰る」
これ以上ここにいたら、後ろ髪を引かれてしまうのがわかった。
早足で運動場を横切っていく。もうこれで、野球部としてここに立つことはない。
だけど、だけど・・・・・・・・・・
「野球やめんじゃねーぞ!!!」
そんなこと言うな。大地のバカヤロー。
「高校行っても一緒にやろうぜ!野球!お前いないとつまんねぇんだよ!!」
投げられたボール。反射的にそれを受け取ると、大地はダッシュで走り去ってしまった。
そのとき、ボールに何かが書かれていることに気づいた。
『野球好きだろ!?』
好きだよ。好きに決まってんじゃんかよ。
星空ってこんなににじんで見えたっけ?
違う。涙がにじんでるからだ。
大地の言葉を思い出した。お前のせいじゃない。
そう言ってくれた。チームメートも誰もまいを責めなかった。
だけど、やっぱり、
「勝ちたかったんだ・・・・・」
中学最後の夏が終わった。
こんな経験ありませんか?
自分は、小学校のときのフットの試合で強豪チームに
負けて泣いた記憶があります。
当時の思い出が懐かしいです。