第9話 大量の弾丸の使い道
「あああああ!!」
亡者がこちらへと駆け込んでくる。
命からがらチェーンソーの怪人を倒し、一息付く間も無く亡者の群れが襲い掛かってきた!
ショットガンが間断なく火を噴く!
数は50体といったところか、リボルバーなら手こずったが対面制圧力のあるショットガンが亡者どもを蹂躙する。
7発撃ったところでリロード。
その隙をついて亡者どもが寄ってくる。
退がろうにも後ろは崖だ。
退がれないなら、ここで迎え撃つしかない!
群がってくる亡者どもを蹴りで牽制し、充填完了。
1弾12発、7連続で計84発の散弾が見えない津波のように亡者たちを押し戻す!
正面に立っていた亡者たちは手足、首をざんばらに引きちぎられ、黒い泥へと変貌していく。
亡者たちに現れる一瞬の怯え。
ここが勝負だ。
ショットガンをアイテムボックスに仕舞い、こちらから突っ込む!
一息に駆け寄り、大きく腕を振っての……左ストレート!右ストレート!左フック!
亡者が車に撥ね飛ばされたかのように吹っ飛んでいく。
正面の3体を殴り飛ばし、さらに1体首を掴んで引き寄せ。
両手で上に持ち上げ、ぶん投げる!
先頭の亡者の群れがドミノ倒しのように折り重なった。
ここで一歩後退。
すぐにショットガンを取り出して、装填開始。
後方の亡者たちが寄ってこようとするが、倒れた前方の亡者が邪魔で寄ってこれない。
そこにショットガンの連撃を叩き込む!
撃つ、リロード、撃つ、リロードと繰り返し、咳き込む竜の息吹の如く蹂躙していく。
寄せる隙も見せない連射に亡者たちは黒い泥へと変わっていき、40発近く撃ち尽くしたころには正面に黒い泥の池が出来ていた。
使った分、ショットガンに装填していく。
正面は真っ黒だが、ポツポツと青い水溜りがあちらこちらにある。
俺が最初に撃ち込んだウィルスの成長した姿。
触って見ると透け、青い光で出来たホログラフィティのようだ。
ウィルスの繁殖は思ったより早いな。
だが、これでもまだ全然足りないだろうから、もっと撃たないとな。
アイテムチェック、使った弾薬の確認をする。
■ハンドガン
・M686マグナムリボルバー
・ベレッタM92F x 10丁
・レミントンM870ショットガン x 5丁
■弾薬 《補充速度 1秒間に1.5発》
・.357マグナム弾 2182発
・9mm弾 1840発
・12ゲージショットシェル 900発
■アイテム
・メディカルキット 60個
・通信機(PDA)
・信号弾 30発
・発射機
・食料 140食
銃弾の数がかなり増えていた。
俺しか使わないマグナム弾がこんなにあっても弾の持ち腐れだ。
マグナム弾の補充を止めて、その分他の弾が増えるように設定を調整する。
弾の補充速度も前に見たときは1.1/sだったのが1.5/sにまで成長したようだ。
足元の水溜りを見ながら思う。
辺りにマグナム弾を撃ち込みながら、学校へと戻る。
「キョーちゃん!」
さやかが駆け寄ってくる。
校舎の前でクマダさんと一緒に待っていたようだ。
「にいさん、無事のようだな。良かったぜ。
で、奴は殺れたのか?」
「ええ、谷底へと突き落としてやりましたよ。
底が見えなかったから、多分這い上がれないでしょう。
這い上がれたとしても時間が掛かれば撃ち込んだウィルスの餌食です」
「そうか。じゃ、中へ入ろうぜ。
亡者が出てくるんじゃないかとここで待つのはヒヤヒヤしたぜ」
「中で待っててくれて良かったんですが……」
「そうしようとしたんだが……、こっちの嬢ちゃんがな」
「だって……、キョーちゃんにだけ大変な思いさせて自分だけ安全なところで待ってるなんて出来ないよ」
「そうか……、心配駆けたな。さぁ、中へ入ろう」
さやかの頭を撫で、バリケードの撤去された入り口へと向かう。
アラキさんやナナコさんたちと再会し、それぞれの情報を交換していく。
あれから新たな亡者の襲来は無く、アイテムコンテナのアイテムもまだ手を付けていないらしい。
来たらすぐ対応できるようにコンテナの前に陣取っていたみたいだ。
アラキさんから提案があり、武器を放出していく。
校舎に居る125人の中から志願した人の内、15人を選別し武器を持たせる。
ハンドガンのベレッタM92f10丁にレミントンM870ショットガン5丁をこの15人に手渡していく。
この内、ハンドガンを持った人とショットガンを持った人を組ませて、ペアを5組作る。
この5組が捜索隊となり、まだ生き残ってる人を校舎にまで誘導する。
残ったハンドガンの5人は校舎に残り、ここの防衛に当たる。
それぞれに弾を150発ずつ、メディカルキットを2つ持たせる。
メディカルキットは自身用と要救助者用だ。
もし使う事態になったら、すぐに校舎まで助けを呼びに来るよう言い聞かせておく。
捜索組が校舎を出、アラキさんとクマダさんは校舎の防衛に残るようだ。
俺はさやかを連れて屋上へと向かう。
屋上で信号弾を上げる。
青い光球が空に輝く。
これを見てココを目指してくれる人がいればいいが……
「それじゃ、コレの練習をしてみようか」
さやかにリボルバーを渡す。
「う、うん!」
少し緊張しているようだが、射撃姿勢の練習をしているうちに解れてきた。
外の林に向かって撃ってみる。
ダンッ!とマグナム弾の発砲音が遮るものの無い空に広がり……
「ひゃっ!?」
さやかはびびっている。
おっかなびっくりという体で続けざまに撃つが……目標とした木からは大分外れているようだ。
撃った反動で腕が跳ね上がっている。
反動をまったく抑えていないようだ。
完全に抑える必要は無いのだが、弾が銃身を出て行くまでは抑える必要がある。
「もっと強く握るんだ」
「う、うん」
やはりマグナムは反動がきついか。
でも、さっきよりは安定してきたかな?
「もっと強く握るんだ、反動を腕の中で抑えこむように。
ただし、抑えるのは弾に火が着いて銃身を抜けるまでの間だけでいい。
それ以上は抑えても命中精度には関わらないし、疲れるからね」
「弾が抜けるまでってのがわからないよ?」
「弾が抜けるのは一瞬だけど、その一瞬の振動をきちんと抑えないといけないんだ。
タイミングとしては、火薬に火が着き振動した後、銃口が上へと跳ね上げられる力が加わった時。
この時にはもう弾は抜けていると考えていい」
「弾が抜けると銃口は上に上がるの?」
「なんでそうなるかまでは知らないけど、そうみたい。
多分、弾が抜ける時に燃焼したガスも一気に抜けて出て行くから、それに銃口が煽られて持ち手を支点に銃口が上へと跳ね上がるんじゃないかな?」
「へー」
「ただ、これも弾によっては遅い、速いがあって。
火薬をいっぱい使ってるマグナム弾は速いから銃口の跳ね上がりと同時に力を抜いても大丈夫だけど。
火薬が少なくて遅い9mm弾だと、反動がきて一瞬抑えてから、力を抜くという形になる。
反動と同時に力を抜くと弾が上にずれるんだよね」
「へー」
あ、これ右から左に聞き流しているときの反応だ。
ここまで話していたところで、興味があるのか10人ほど後ろに集まってきていた。
女性が3人に男性が7人。
女性は大人1人に女子高生が2人。
男性は中高生1人ずつに小学生が5人。
希望者には銃の撃ち方を教えると言ったところ、全員が志願してきた。
ただ、小学生にはマグナムはきついので信号弾と発射機を渡す。
これも少し反動があるが、寝そべって真上に向かって両手で構えて撃てばどうということはない程度だ。
信号弾は1発5分程度発光するので、残り29発全て渡し。
消えるたびに撃ちなおしてくれるよう頼む。
快く受けてもらい、仲間内でわいわいやっている。
残り5人とさやかには1人300発ずつマグナム弾を渡し、練習だ。
林や村の中、人の居ないところに向かってウィルスをばら撒いてくれるよう頼んだ。
「屋上からじゃ難しいと思うけど、亡者を倒せばレベルアップするから積極的に狙って見てね」
「うっす! ガンバルっす」
坊主頭の男子高校生が元気よく返事を返す。
「お、やる気あるねぇ」
「うっす、オレ捜索隊に志願したんすけど大人が優先で弾かれちゃったから。
その分、ココでガンバルッス」
「あたしたちもそうだよ。大人の男ばっかし優先でさ。」
志願者の選別はアラキさんに任せていて知らなかったのだが、結構やる気というか負けん気のある人居たんだな。
ここまで亡者どもに一方的に追いかけられ続けてたから、鬱憤が溜まっているようだ。
屋上は彼らに任せ、ショットガン片手に俺も捜索隊に加わる。
夕方まで捜索は続き、自力で校舎まで辿り着いた人も合わせ、新たに86名が加わった。
校舎の人数は俺とさやかを含め213名になる。
ウィルスの侵食作業も順調だ。
弾の補充速度も1.5/sだったのが5.0/sにまで上がった。
校舎の周りにも水溜りが無数に出来ている。
武器もこの5時間ほどで大分貯まった。
中身を整理しようとした時。
ドズン…ズン……、ドズン…ズン……と重いものが落ちたような音と振動が伝わってきた。
アラキさんが教室に慌てて駆け込んでくる。
「大変だ! 亡者の軍団と何かでっかいのが来たぞ!」
外を見れば無数の亡者の群れに、毛の生えた巨大なクモのようなものが1体。
顔が牛のようだから牛鬼といったところか?
のっぺりとしたおもちゃのような質感の表情に、口元には横一文字に深いヒビが走っている。
ヒビの合間からは乱雑に生えた鋭い牙がびっしりと生えているのが見える。
正面から見て横幅10m、高さ7m、全長は20mほどあるのだろうか。
その頭の頭頂部は校舎の3階まで達しそうだ。
あああああ!!……
ぎぃぃ!!……
牛鬼の足元でおもいおもいに亡者どもが叫ぶ。
牛鬼のぐぉぉぉ……という吠え声を合図に亡者の軍団が走り寄ってきた!
明日は忙しいので休みます。
続きは金曜日に間に合えば。