第6話 足取り
廊下の亡者どもを撃退した。
2階と3階の廊下を見回るが他の亡者の影はなく、窓から外を見ても入り口に集っていた亡者どもの影もない。
これでひとまず安心のようだ。
教室へと戻る。
「みなさん! 無事ですか?」
教室へと戻ると、子供たちの世話をしていた女性が話しかけてくる。
「ナナコさん、俺たちは大丈夫だ!
子供たちの様子はどうだ?」
クマダさんが親しげに返す。
「ええ、もらった薬のおかげで病化の傾向があった子もこの通り、元通りに回復しましたよ!」
ナナコさんの指差す先に10歳ぐらいの女の子が座っている。
その子は恥ずかしそうにはにかむと俺に頭を下げてきた。
元の状態を見てないので、病化というのがまだよくわからないが。
メディカルキットで治療できるというのがわかった。
「さて、これからですが。とりあえず屋上の封鎖を解除しますか」
アラキさんが提案するが。
「ちょっと待ってくれ、その前に聞きたいことがあるんだ。
凪原さやかという女の子を知らないか? 年は20歳で髪型はショートカットなんだが」
「うーん、自分は心当たりが……」
アラキさんは首を振る。
「もしかして……」
ナナコさんは心当たりがありそうだ!
「知っていますか!?」
「前に亡者たちから逃げている時に知り合った子がサヤカって名前で髪型もショートだったわ。
ここから西に行ったところにあるバス停がセーフティエリアになっていた時に知り合ったんだけど」
「西のバス停……、それからどうなったんですか?」
「セーフティエリアの時間が切れて、それからはバラバラに逃げたんだけど……
もしかして君がキョーちゃん?
彼女、幼馴染の彼氏にメールを出したとか話してたわ。
まさか、こんなところにまで助けに来るなんてね。
きゃー、お姉さん感動しちゃうわ!」
ナナコさんがおどけてくるが、それを真似して子供たちまでキャー、キャー言い出す。
クマダさんも肩を叩いてきて、やるじゃねぇかとでも言うような目線を送ってくる。
なにこれ、恥ずかしい。
とりあえず、情報は手に入った。
最後に見かけたのは西のバス停。
ここから何処へ向かったかだが……
その時、通信機が鳴る。
教授からメールが届いたようだ。
『君のスマホに新たなメールが届いた。
そちらに転送する』
『キョーちゃんへ、私はまだなんとか生きています。
でも、そろそろマズイかな…?
腕が変になってきちゃった。
いろいろ逃げ回って、今は病院みたいなところにいるけど。
そろそろ青い光が消えそうです。
落ち着いたら、またメールするね』
「病院! 病院の場所、知っていますか!?」
「病院だったら…、それっぽいのが北西にあったな」
北西、さやかは西のバス停から北上して病院に向かったのか?
それなら足取りも説明がつく。
いそいで教室を出ようとしたが、頼りなさげな彼らのことが気に掛かる。
ここには力の無い子供たちも大勢居る。
彼らを放っておくわけにもいかない。
「にいさん、俺らなら大丈夫だ。
彼女さんを助けに行ってやんな」
クマダさんがそう言ってくれるが。
「ちょっと待ってください」
通信機を操作する。
すぐに教授が応えてくれて、新たなアイテムが転送されてくる。
出てきたのはオレンジ色の箱。
これは俺のアイテムボックスに繋がっていて、俺以外でも中のアイテムを取り出せるようになる。
アイテムボックスと区別するために名前はアイテムコンテナだ。
コンテナというには小さく、幅50cmほどのクーラーボックス程度の大きさだが。
今はまだウィルスの侵食度が低いので大きなものは送れないのだ。
「これを使ってください。これは俺のアイテムボックスに繋がっていて、中のアイテムを取り出せます。
中の銃器や弾薬、薬は自由に使ってください。どんどん補充されますので」
「お、おい? 良いのか?
そんなことしたらにいさんが困らないか?」
「マグナム弾とショットガンの弾、それに薬を少し残してもらえれば俺の方は大丈夫ですよ。
それじゃ!」
教室を飛び出る。
後ろからクマダさんが困惑した声を掛けてくるが振り切った。
廊下を駆け、階段を飛び降りる。
階段の踊り場を抜け、2階へと向けば。
2階の降り口付近にまだ亡者が残っていた。
その数、5体。
見逃していたか。
すぐにショットガンを乱射!
空気を揺さぶるような衝撃、轟音が連続して広がり、その先に居た亡者たちをバラバラに引きちぎる!
残ったのは1体。
階段を落ちるように駆け下りる。
廊下に着地、体が慣性の力で沈み込もうとする。
それを踏ん張り、足の力で強引に前へと進む力に転換。
足の裏でタイルが割れる感触。
爆発するような脚力で、砲弾のように体ごと撃ちだした、左ストレート!
亡者の顔面を捉えた、ゴムボールを思い切り叩いたような手ごたえ。
亡者が窓ガラスを割りながら、勢い良く外に放り出される。
俺もそれに続いて窓から飛び出し、着地!
亡者は地面の上で顔を潰され、黒い泥へと変わっていく。
北西はこっちか?
小高い丘の上に建物が見える。
すぐにそちらへ向かって駆け出した!
待ってろ、今助けに行くからな!
明日は時間が取れないので休みます。