第5話 残された人々
校舎の階段を駆け上る。
3階の出口に二つの青白い人影。
マグナムが火を噴く!
胸を撃ち抜かれた亡者がこちらへと落ちてくるのを煩わしげに押し返し、3階へ。
3階の廊下には亡者の群れが奥を目指してたむろっている。
その数、十数体。
幸い、廊下には人影が無い。
なら、やる事は決まっている。
マグナムリボルバーを向ける。
教室から締め出され、所在無さげにうろついているような亡者どもへマグナム弾を乱射!
鮫が小魚の群れを食い散らかすかのように、マグナム弾の暴威が吹き荒れる。
途中から9mm弾の鋭い連射も入り、廊下に火線が飛び交う。
それにしても音の反響が酷い。
外と違い校内は音が壁で反射されて、射撃音が鼓膜を直撃する。
耳がキンキンと鳴る。
10秒ほどの嵐が過ぎ去り、静けさの戻った廊下を埋めるように黒い泥が溢れ、消えていく。
そこに差し込む鋭い悲鳴。
「奥の教室だ!」
クマダさんが言うや否や、駆け出す。
閉じられたドアに体当たりをして、強引にこじ開ける!
中には、窓際に体を小さくして身を寄せ合う子供たちに、それに襲いかかろうとする亡者が6体。
メガネを掛けた男とロングヘアの女性が手製の槍で牽制しているが、防ぎきれていない。
槍を掻い潜った亡者が子供たちへと襲い掛かる!
撃つには…子供たちが近い!
「うぉぉぉ!!」
クマダさんが猛然とそれに突っ込む!
亡者2体に腕を引っ掛け、倒れこんだ。
俺も銃を腰に仕舞い、ナイフを逆手に突き進む。
手前に居た亡者の首めがけ、右フック!
ナイフの刃が抵抗無く肉に沈み、骨を断ち切る。
「あああああ!!」
右手側から亡者が襲い掛かってくる。
振り切った右手を振り返し、亡者の胸にナイフを突き立てる!
刺され、唖然としてる亡者を押して、転がし。
さらにこちらへと駆け込んでくる2体の亡者を双手突きで押し倒す。
相手が立ち上がるより早く、腰のリボルバーを抜き、連射!
クマダさんは?と、見れば。
ところどころ齧られながらも亡者2体をなんとか抑えている。
1体ずつ引き剥がし、マグナムで頭を吹き飛ばす。
「クマダさん! 大丈夫ですか?」
すぐにメディカルキットを渡す。
「おお、すまねぇな。……と、これで大丈夫だ」
メディカルキットを打ち、ケガが消えた。
「権造さん!」
女性の方がクマダさんに駆け寄る。
知り合いだろうか?
「助けてくれてありがとうございます。
あの……あなたは一体?」
残された男の方が俺に話しかけてくる。
「トオノと言います。クマダさんに聞いて救援に駆けつけました」
「これは、どうも。失礼しました、自分は荒木と言います。」
「残された人達はこれで……全部ですか?」
教室内に居るのは、クマダさんから聞いてた人数よりもずいぶん少ない。
「いえ、大半の人達は亡者どもが校内に入ってきたときに屋上まで避難しています。
自分も含め、ここに居るのは遅れ、取り残された人たちです」
教室内には15人の子供たちが取り残されていた。
「では、今すぐ屋上へ」
教室を出て行こうとするが……
「いえ……、屋上は封鎖されたはずです。
全員を受け入れるだけの時間が無かったために、自分が命じました」
アラキさんが毅然とした態度で話すが槍を持つ手には力が入っているように見えた。
「……解除条件は?」
「安全が確認されたらです」
「なら簡単ですね。クマダさん!」
「おう! やるか」
「待ってください! 権造さんは噛まれたんですよ?
病化の進行を抑えるためにもおとなしくしないと……」
「ナナコさん、それなら大丈夫だ。そっちのにいさんから薬をもらえたんだ」
「薬! ですか?」
アラキさんが驚いている。
「ええ、メディカルキットっていうケガや、おそらくアバターの状態そのものを治す薬を持っています。
他にもケガした人たちが?」
「ええ、病化した人たちが20人いるんです。」
「病化とは?」
「亡者どもに噛まれるとその部分から痩せ細り、やがて亡者となります。
貴重な物だとはわかるのですが、なんとか譲ってもらえませんか?」
「構いませんよ、いくらでも手に入りますから」
アイテムボックスを開いて、在庫を調べる。
■ハンドガン
・M686マグナムリボルバー
・ベレッタM92F x 2丁
■弾薬 《補充速度 1秒間に1.1発》
・.357マグナム弾 682発
・9mm弾 340発
■アイテム
・メディカルキット 24個
・通信機(PDA)
・信号弾・発射機
・食料 20食
弾が大分増えたな。
ベレッタも1丁追加された。
メディカルキットも1つ、自分用に残して残りは全部渡してしまおう。
メディカルキットをアイテムボックスから取り出すが、事情を知らないアラキさんたちから見れば虚空から取り出したように見えるだろう。
「どうぞ」
「え? あ、ありがとうございます!
あの……あなたは一体?」
「俺は外からハッキングを仕掛けて内部へと潜入してきました。
この装備も外のゲームの設定を基にしたものです」
「ゲーム……もしかしてパウダーフィールドですか?」
「ええ、確かそんな名前だったかと」
「やっぱし! 格好を見てそうじゃないかと思ったんですよ」
アラキさんはゲームに結構詳しそうだ。
「ところでその左手と左目は?」
俺の包帯に包まれた部分を指す。
「ああ、これは切り札です。今は封印しています」
「あ……、そういう感性って大人になっても無くならないものですよね。
わかります」
アラキさんの目が優しい。
勘違いを正したいところだが、廊下の方からペタペタと走ってくる音がする。
第2陣が来たか。
アラキさんにベレッタと弾薬を200発渡し、残りはクマダさんに。
廊下へと出て、マグナム弾をぶち撒ける!
二人も俺に続き、廊下に出て連射する。
アラキさんは自衛隊の予備役に就いており、銃の扱いは慣れているようだ。
廊下を轟音と火線が支配するが、数が多い!
外をうろついていた亡者が全て入ってきたようだ。
亡者を撃ち倒しても、消えるまでに時間がかかる。
そのタイムラグを利用して消え行く亡者を盾に、後続の亡者どもが押しかかってくる。
徐々に距離を詰められる……
「おい! なんかやばそうだぞ!」
「マズイですね……、このままだと押し込まれそうです」
二人も危機感を募らせているようだ。
「ちょっとの間だけ、時間稼ぎおねがいします!」
二人がうなずくと同時にPDAを取り出す。
もっとパワーのある銃が要る。
アイテム希望欄で新しい武器を書き込む。
弾薬やアイテムの補充が一旦止まり、すぐに新しい武器が送られてくる。
送られてきた武器を両手で掲げポンプで弾薬を装填、肩付けで撃ち込む!
ダンッッ!!と大きく空気が抜けるような火薬音が響き、散弾が発射される。
先頭の亡者を吹き飛ばす!
それに当たり、後続でも倒れるのが出た。
呼び出された武器はレミントンM870ショットガン。
アメリカの警察で使われていることで有名な銃で、その銃身は黒く太い。
1mほどの長さにその太さは成人男性の手首ほど。
これを連射していく!
亡者どもを押し返す。
射撃音はそこまで大きくなく、マグナムの方がよっぽどうるさい。
これは単純に銃口の大きさが違うからだろう。
ショットガンの方が銃口が大きい分、空気と音の抜けが良く、響かない。
ショットガンの暴威に押され、亡者どもがたたらを踏む。
7発撃ったところで弾切れ、リロードをしなければいけないのだが……
装填口は何処だ?
「トリガーの手前だ!」
アラキさんから助言が飛ぶ。
銃を返し見れば、銃身の下部、引き金の先にバネ仕掛けの装填口が開いている。
指で押しただけでパカパカ開く、頼りなさそうな装填口に弾を詰めていく。
ショットガンの弾が優先的に補給されているようで、弾は30発ある。
1つずつ押し込んでいくが……マズイ、時間が掛かる。
前を見れば、また亡者どもが詰めて来ている。
「直接、弾を転移できれば……」
そう考えるが、それだと暴発とか起こりそうだ。
いや、アイテムボックスから取り出す場所とかも変更できるか?
試しに親指の先に弾が出てくるように念じる。
出てきた!
これなら……
装填口に親指を入れ、弾を出す。
出たら親指を動かして装填。
親指を前後に動かすのに合わせて弾を取り出すだけで簡単に装填できた。
装填速度は1秒に2つは入れられるぞ。
廊下を散弾の波が襲う。
狭い廊下だ、何処に撃っても当たる。
ただ、ひたすら連射することに集中して撃っていく。
1発撃つたびにポンプで装弾しないといけないが、狙いを付けずに連射に徹するなら1秒に2発は撃てる。
撃ち終わったら、秒間2発のスピード装填。
そして、また連射!
間断なく打ち込まれる散弾は亡者どもを引きちぎり、黒い血しぶきが視界を埋め、抗うことを許さない。
30発撃ち終わる頃には廊下は黒い泥で埋め尽くされていた。
ショットガンの発射音が難しい。
自分の耳にはタァ!ッッ!……と聞こえる。
海外の射撃場で撃ったこともあるんですけど、以外に音はそこまでうるさくないんですよね。
空気の抜けが良いので音も前へきれいに飛んで行き、音の篭りが無く余韻が長い……
そろそろ擬音も卒業するべき頃だろうか。