第4話 校舎
校舎に立て篭もっている人たちがいるらしく、救助に向かうことにした。
「そう言えば名乗ってなかったな。俺はクマダだ、熊田権造」
その厳つい容貌に似合った渋い声だ。
「俺は遠野京司です」
「それにしても、にいさんのくれた銃すごいな。攻撃力が300もあるぞ!」
クマダさんのアバターだと武器の攻撃力なんかも読めるらしい。
俺のは外から侵入してきたアバターだから、そこまでシステムに適応してないので読めないのだ。
「それってすごいんですか?」
「そりゃ、すごいよ。見てくれ、俺が使ってたナイフ。
これ、攻撃力30だぜ?」
クマダさんが取り出したのは果物ナイフだ。
「え? そんなのであの化け物たちと戦えるんですか?」
「いやー、きついね。これだと5、6回は刺さないと倒せないからさ。
それで武器を探しに出たんだが、まさか銃をもらえるとわな」
そう言って、ニッカリ笑う。
「弾薬が足りなくなったら言ってください。今も次々と振り込まれていますので」
「そりゃ、ありがたい! 噂のチェーンソーなんかより銃の方がずっと良いしな」
「チェーンソー?」
「ああ、誰かがチェーンソーを持ち歩いているのを見かけたらしい。
それで武器が何処かに隠されているって噂になってたんだよ」
「へー」
「初期装備が酷くってなぁ。果物ナイフにリュックサック、それと3日分の食料だけだぜ?
っと、こんなこと話してる場合じゃないな」
「じゃ、行きましょうか。校舎までの道案内お願いします」
「ああ、こっちだ」
林道を早足で進む。
道すがらこの世界の事情を聞けば、この村のエリアに居る人達は300から500人ぐらいらしい。
校舎に立て篭もっているのは120人程で、それ以外の人たちのことはわからないそうだ。
デスゲームに巻き込まれた人たちが最大で1万人居るって話だから、もしかしたらこのエリアにさやかが居ないかも?
もしそうだとしたら、どうしたら?
教授に相談した方がいいな。
「……教授、聞こえますか?」
虚空に向かって小声で呟く。
このアバターは常に教授側のチェックを受けている、ちょっとした独り言も拾われるはずだ。
『なんだね?』
目の前に透明な板に書かれたメッセージが現れた。
内部と外部で時間差があるから、音声通信は出来ないか。
「デスゲームの被害者たちが複数のエリアに分けられているみたいで。
さやかがこのエリアに居ない可能性が出てきました」
『それなら大丈夫だ。君に届いたメールを遡って逆探知した。
彼女のメールは間違いなく、そのエリアから発信された物だよ』
「なるほど! ありがとうございます!」
『それと補助アイテムをいくつか作った。
リストを送っておく、通信機もその一つだ。
今後はそれを操作して補給アイテムの優先順位や希望を聞ける様になる』
「わかりました」
『こちらもサブサーバーにハッキングを仕掛け、得たIPアドレスで偽装したX01でサブサーバーの仕事を奪っているところだ。
だが、メインサーバーのセキュリティが堅く、手間取っている。
そちらで管理ユーザー権限かそれに繋がるパスをウィルスで侵して、バックドアを作ってくれれば一瞬で仕事が終わる。
引き続き、そちら側の侵食活動を頼む』
「了解です」
通信を終える。
新たなアイテムリストは、と。
通信機となるPDAに信号弾や食料か。
「にいさん、今誰と喋ってたんだ?」
「きょ……、いや、外部の協力者だよ」
教授の名前を出して迷惑を掛けるわけにはいかない。
「とにかく急ごう」
「お、おう!」
林道を進む。
それから10分ほど進んだところで大きな木造の建物が見えてきた。
「あれが校舎だ」
校舎はコンクリートの3階建てで頑丈そうだが、その周りで多数の人影が蠢いている。
「クソ! もう亡者共が集っていやがる!」
あの動く死体みたいなのをクマダさんたちは亡者と呼んでいるらしい。
そんなことより、入り口がすでに破られたようだ。
中へと入り込んで行っている!
くそったれ!と叫び、クマダさんが走る。
俺もリボルバーのロックを外しながら、追いかけた。
校舎の入り口前に銃声が連続して響き渡る!
6発撃っては素早くリロードしてと、撃ち続ける。
クマダさんも亡者の群れに向かって、ひたすら水平に連射し続け。
弾が出なくなったら弾倉を替えるといった始末でとにかく撃ち続けているのだが、それ以上に数が多い。
もうすでに30体は倒しているのだが、見えるだけでも50体以上残っている。
気を抜けば左右に回り込んでこちらを包囲してこようとするので、入り口で足止めを喰らってしまった。
「クソ、切りがねぇ!」
クマダさんが焦っているが俺も同意だ。
こうしている間にも上の方から、悲鳴と争う音が聞こえてくる。
「クマダさん! 一度、離れよう。別の入り口を探すんだ!」
「わかった!」
その場を脱出し、裏口へと回るがそちらも亡者どもで埋まっている。
「クソ! 他に入り口はもうねぇぞ!?」
2つの入り口が埋まり、他に入り込める場所はと探す。
1階の窓は全て、内側から板張りがされていて入れない。
上を見る。
2階の窓まで3m……ちょい、か?
「クマダさん! 2階の窓だ。ちょっと足場になってくれ!」
「! わかった」
壁に寄り、しゃがんだクマダさんの肩に足を掛ける。
そのまま立ってもらい、俺が手を伸ばせばなんとか窓枠に手が届いた。
すぐによじ登る。
窓から中に入ったところ、左右には亡者が1体ずつ。
「ああああ!!」
亡者が気づき、襲い掛かってくる!
すぐさま左の亡者に向かってリボルバーが火を噴く。
マグナム弾が力強く胸を撃ち抜き、亡者が背から崩れ落ちる!
右のが距離を詰めてくる、とっさに蹴り飛ばし距離を取る。
蹴り飛ばされた亡者は3mも吹っ飛び、床の上で痙攣していた。
とっさの事で加減をしなかったとはいえ、その力に自分自身びっくりする。
呆けてる暇は無い、トドメを刺す。
廊下にマグナムの轟音が響く。
「クマダさん! 掴まれ!」
片手で窓枠を掴み、もう片方の手を眼下のクマダさんに差し出す。
「無理だ、俺は重い! 別の入り口を探す!」
「早くしてくれ! 何とかするから!」
銃声を聞きつけたのか、廊下の端から亡者どもが湧き出てきた。
「……腕が引っこ抜けても知らんぞ!」
クマダさんが助走をつけて飛び上がって手を伸ばす。
その手を掴むが、確かに重い。
手が肩から引っこ抜けそうだ。
だが、これは自分の体ではない。
化け物と戦うために教授が用意したアバターだ。
今まで自分の意識がリミッターとなっていた気がする。
それを解き放ち、全力を出す。
ミシリ……と窓枠を掴む左手がめり込む。
右手はショベルカーの様に力強く引き上げる。
「……にいさん、すげぇ力だな」
「どうも、と! 来ましたよ」
亡者どもがすぐ近くまで駆け込んで来ていた!
「だな!」
クマダさんがベレッタを撃ち放つ!
俺も亡者の群れに向かって撃ち続ける!
廊下に十数発の火線と轟音が響き渡る。
群れの数は10体。
大半は撃たれ倒れたが、中には飛び掛ってくるのもいた。
そんなのは前蹴りでカウンターを入れ、倒れたところにトドメを刺す。
硝煙の香りを残し、亡者どもは黒い泥へと還り、消え行く。
廊下の亡者どもを倒したが、争う声は上から聞こえてくる。
3階に繋がる階段に向けて、急いだ!