悩み相談
「どちら様?」
ドアを開けると1人の青年が立っていた。俺より少し若い外見をしている。
「ニュースさん…お願いします」
ニュースって誰?と思った俺だが、その名が示すのはこの体の持ち主だということは少し経って気づいた。
「どうかしました?」
青年が不安気な表情で俺を見た。
「ああ、悪い入ってくれ」
俺はそう言って青年を招き入れた。
青年はリーナを見て疑うように尋ねた。
「この方は?」
「リーナだ、昔からの知り合いだよ」
俺は適当に誤魔化し青年を席に座らせ、リーナを部屋の本棚の方に追いやった。
「ちょっとあの子誰?」
リーナが驚いたように訪ねてきた。
「多分、この体の持ち主の知り合いだよ。彼の要件はわかったからリーナはここで静かに待っててくれ」
「え、うん…」
「すぐ終わるよ」
俺はそう言って青年の正面に立った。
「どうしたのかな?」
「えっと、悩みというか、その聞いて欲しいことがあって…」
やはり、青年の要件というのは悩み相談だった。
俺は心でため息を吐きながら青年の話を聞いた。
「あいつ酷くないですか!」
興奮して話す青年に俺はまあまあとなだめる。
青年の話をまとめると、どうやら友人間でのトラブルらしい。まあ、友達と喧嘩したってことだろう。
青年は最初こそ静かに話していたが、だんだんと相手の方が悪いと言い張り、話していく内に口調が強気になっていた。
話の締め方も相手が悪いと強く決めつけるように言ってる。
こうなっては、俺が何を言っても考えを変えることは絶対にない。
どうせ、喧嘩相手も同じようなこと考えてるだろうな。
だったら…
「マジか、それは相手が悪いよな」
「そうですよね!あいつが悪いですよね!」
俺もそう思ってるよ、と青年に伝えると青年は喧嘩相手の愚痴をこぼして帰っていった。
「終わった?」
青年が家を出てからリーナは読んでいた本を閉じた。
俺と青年が話してる間、本棚の本を読んでいたらしかった。
「ああ、無事解決したよ」
「どこが?仲直りしてないじゃない、そもそもなんであんたは悩み相談ってわかったの?」
「わかった、一つ一つ説明する」
俺はリーナの疑問に答えるべく彼女のほうに向き直した。
「まず、青年が訪ねてきた理由がわかったのは目だよ」
「目?」
「そう、あの青年がしていた目は、悩みや、人を頼りたい時にする目だった。」
「よく分かるわね」
「まぁな…」
元の世界で俺は嫌という程見てきたからわかる、とは言えなかった。
「次に、青年は仲直りのアドバイスをもらいに来たわけじゃないということだ。彼は相手が悪いと口では言ってたものの、本心では自分が悪いと思ってるんだ。数日すれば仲直りなんてしてるよ」
「じゃあなんで相手が悪いなんて言ったの?」
「彼が俺に求めていたのは強がってる青年自身を知ってもらうことだったのさ、男ってのは自分が悪いと思っていても素直に謝れる生き物じゃないんだよ、だから自分自身に嘘を吐く、そしてその嘘を誰かに聞かせることで心を落ち着かせるんだよ」
「そうなの?」
「そういうもんさ、じゃなきゃこんな街外れの森の奥になんか来ないよ」
「面倒くさいわね人間って」
「まぁ、俺個人の意見としてだけどね。ところで、何読んでたの?」
俺は彼女が読んでいた本について質問した。本棚にある本は知らない文字ばかりで俺は全く読めなかった。
「これ?ニュースって人の日記よ。
この人、今みたいな悩み相談が毎日あったそうよ。ここは街の人にとって愚痴をこぼすような場所だったのね」
「…へぇ」
俺は他人事とは思えなかった。
他人の愚痴を聞く、悩みを聞く。
きっとニュースも周りから良い人だと言われてきたのだろう。
ニュースも俺と同じ感情だったのだろうか。
鬱陶しいと思ってたのだろうか
もしかしたら、俺より上手く悩みを聞いてあげてたのではないだろうか。
だったら何故俺はここにいるのか。
いけない、気を抜くとグルグルと考え事をしてしまう。
そう思ってるうちに再びドアがコンコンと叩かれた。
また青年が来たのかと思いドアを開けた。
しかし、そこには迷いの目でもなく、悩みの目でもないまっすぐとした目をこちらに向けた兵士が立っていた。
「…ご用件は?」
「貴様がニュースだな、街の人の悩みを解決してると聞いた。そのことで国王がお呼びだ、城まで来てもらう。」
そう言って兵士は俺を連れて行こうとする、俺は慌ててリーナの方を向くと兵士は彼女の存在に気づいたようで
「あいつは?」
「えっと助手です!」
「えっ!?」
俺が吐いた嘘にリーナは驚愕の表情を浮かべた。
そんなことにおかまいなく兵士は俺とリーナを馬車へと乗り込ませた。