足りないもの
彼女は数分間俺に手をかざしてから、拘束魔法を解除した。
「あなたの言うことは本当だったようね、まぁ今回は被害者の立場だから、見逃してあげる。」
「本当か!?処罰とやらは無いんだな?」
俺の質問に彼女は頷いた。
「やった、じゃあほら早く」
「?」
「俺を元の世界にもどせるんだろ?」
処罰は逃れられたがそれでは終わらない。元の世界に戻らなければ。
そうして、急かすように質問する俺に、彼女は冷静に答えた。
「無理よ」
「はぁ?」
「あなたの話で疑ってたのは異世界という部分、記憶を見してもらって私が見たこと無い場所や、道具、服装が確認できたわ。だから、あなたの話が本当だって事がわかった。
でも...」
そう言って彼女は困惑と驚愕を混ぜたような声で話を続けた。
「この世界に、異世界と繋がる魔法なんて存在しないのよ」
「えっ?」
「つまり、あなたの体の持ち主が史上初、異世界と繋がる魔法を発明したって事になるの。」
「神様の力をもってしても、戻れないのか?」
「うん...」
戻れない、その言葉が頭の中で繰り返し流れ、脳内を満たしていった。
「残念だけど、これが現実よ、同情するわ...」
「まぁ、どうにかなるしょ」
「へっ?」
心配する彼女を横目に、俺は軽く伸びをしながら言った。
「終わったこと悔やんでもしょうがないからな、それよりこれからどうやって生きてくか考えるか...ってどうした?」
危機感無く喋る俺は、隣で彼女がプルプルと震えだす。
「おーい、どうした大丈夫か?」
また、泣き出してしまうのかと心配した直後、彼女の右ストレートが俺の顔に直撃した。
「っっって!?」
いきなりのことで倒れる俺に、彼女は声を張り上げた。
「決めたわ!今からここを私の住処とする!」
「はああああ!?何勝手なこと決めてんだ!」
「異世界に繋がる魔法を知る手がかりを知るためよ。今のところ手がかりはあんたぐらいしか居ないけどね」
「そんなこと知ってどうすんだよ」
「異世界の発達した情報を独占して人々におしえるのよ!そして、私は人々に崇められてウハウハよ」
「私欲まるだしだなあんた!」
「当たり前よ!あなたも手伝いなさい、もしかしたらあなたの世界に戻せるかもよ」
そう言われては協力しないわけにはいかない。
「ちっ、わかったよ協力すればいいんだろ。」
元の世界に戻る為だ、背に腹は変えられん。
俺が渋々承諾すると、早速、彼女は俺に命令しだした。
「よし、じゃあ決定ね。
はぁ〜大声出したらお腹空いちゃった、あんた何か作りなさいよ。」
「無理だな、ここにある物は見た事ない物ばかりで調理方法が全くわからない」
「えー使えないわね、じゃあお風呂沸かして」
「そんな物この家には無かった。」
「はぁ?どんな家よ、どうやって今まで生活してきたのかしら?
じゃあ寝るしかないわね、ベットはどこ?仕方ないから布団でも許してあげるわ。」
「...無い」
「えっ...嘘でしょ」
二人の間に沈黙が続いた。
この体の持ち主は、風呂も寝具を使わずどうやって過ごしてきたのだろう
「買いに行こうにも、もう夜だしどうすんだ?」
「私に聞かないでよ」
「とりあえず、俺は床で寝るよ」
「私は?」
「...椅子とかどう?」
「神である私が椅子で寝るなんて屈辱だわ...」
彼女は消えてしまいそうな声で呟いた。
「明日買いに行こうな」
「うん...」
そう言って俺が横になると、彼女はちゃっかり拘束魔法を俺にかけて眠りだした。