良い人と呼ばれる男
「新井さんって、やっぱ良い人っすわ。」
そう言って後輩くんは晴れ晴れとした表情で俺に礼を言った。
「今日は相談に乗ってもらってありがとうございました。」
その言葉を聞くのは今月何度目だろう。
「ああ、またなんかあったら相談してよ」
この言葉を言うのは今月何度目だろう
そんなやりとりをして、俺らは喫茶店を出て別方向に歩き出した。
「はぁ...」
自然とため息が出る。
今月は何度相談に乗ったのだろう。
昨日は友人、一昨日はバイト仲間、一週間前にいたっては先輩に相談されるなど、老若男女構わず俺に相談してくる。
そして決まって彼らは言うのだ
「お前は良い人だよな、相談に乗ってくれてありがとう」
彼らに悪意は無く、本当に感謝してるということはわかっている。
俺だって最初は人に必要とされていて、「良い人だね」なんて言われたら、嬉しく感じていた。
でも最近、相談してくる多さに鬱陶しさを覚えてくる。
「自分で解決できんだろうが、クソが」
帰りの電車を待つホームで、誰にも聞かれないように愚痴る。
彼らの悩みといえば、その内容は人間関係についてがほとんどで、友人や恋人、先輩後輩とギスギスしている状況をどうにかしてほしいと言うのだ。
でも、俺は話を聞くだけでもっともらしいアドバイスなんてしたことがない。
彼らは俺に「答え」を求めてるのではない「自分に言ってほしい言葉」を求めているのだ。
俺はそれを話の中から見つけ出して、喋っているだけにすぎない。
「はぁ...」
今日二度目のため息をついたところで電車がホームに滑り込んできた。
暖かく見守って下さると幸いです。