第三話
僕は二十六にもなってまだ童貞だった。高校のときに何人かの女の子と付き合い、大学でも付き合った子はいたけど、セックスはしたことがなかった。マスターベーションを覚えずに高校生になった僕はあまり性欲が強くなかった。溜まった精子は、数か月ごとに思い出したように夢精し、それに数週間ごとに訪れる小規模な夢精が続き、また数か月ご無沙汰というサイクルで処理していた。精子は尿と一緒にある程度出るものだとも聞いていた。
高校生の時に焦ったのは友達の家に泊まりに行き、夕飯にうな重を取ってくれたときだ。うなぎは精がつくというし、僕はその晩夢精するんじゃないかと気が気でなかった。後日、それを僕が笑い話として皆に披露したこともあり、
「金井はオナニーしない(そして童貞)」
というのは僕の友人たちに知れ渡った。
そうはいっても性欲旺盛となる高校時代は、セックスをしたいとも思った。彼女も欲しかった。合コンにも積極的に参加したけど、僕はあまりモテなかった。やっとできたひとつ下の彼女は、ある有名な女子高に通うお嬢様で、高校卒業するまでセックスは待ってくれという。わかったと言いつつもカラオケに行くたびにネッキングに持ち込む僕は、半年ほどで彼女にフラれてしまった。高校三年のときに文化祭でナンパした彼女とは、クリスマスにホテルでお泊りする約束を取り付けたものの、クリスマス当日に喧嘩して別れてしまった。
大学に入ると、僕は性欲を昇華し、ストイックに勉強に打ち込むまじめな学生へと変貌した。付き合った彼女とはネッキングはしても、「待って」と言われれば待ってしまう。僕はその時には、せっかく性の悦楽を知らずにここまでやってきたのだから、このまま知らずにいた方が僕は出世するんじゃなかろうかという思いも持っていた。結局セックスしないまま別れることにした。
そんな僕だったが、時間と金もあるのだし、自分の世界を広げようと決意したからにはいつまでも童貞ではいられないだろうと一大決心をした。僕は六本木のリッツカールトンホテルにロシア人のターニャさんを呼び出した。