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投資家奇譚   作者: d.f
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第一話

田原は、最後に会ったとき、

「夏休みに船で中国に行き、モンゴルをまわってマカオへ行く」と言っていたので、僕と友人たちは、奴はマカオでエイズにかかって死んだのだと思っていた。

田原が新橋で飲もうと言うので行ってみると、連れて行かれたお店はアメリカのチアガールのような格好をした若い女の子たちがウェイトレスで、ちょっとしたダンスショーなんかもする店だった。店内にいくつかあるモニターではアメフトの試合が映されていて、三十代から五十代くらいのサラリーマンでにぎわっていた。なかには女性客もいて、七時を過ぎると並ばないと入れないのだと聞いた。

田原は浜松町にある大手鉄鋼メーカーで経理をしているとのことだった。

「そういえば公認会計士を目指していたよな」

「公認会計士は試験受かっても就職浪人している時代だからな。日本の会計基準も国際会計基準に収斂しつつあるし、いまは米国公認会計士を目指してる。二科目は科目合格しているんだ。でも米国公認会計士取っても月に五千円の手当しかつかないんだよ」と田原はぼやいた。「さすがにやることはやっていやがる」と思っていると、

「俺いま副業やってるんだよね」と言ってきた。

「さすがは不良サラリーマン田原だな。何やってんの?」

「婚活パーティ主催してる。今週末男の参加者足りてないんだけど、来ない?」

田原らしいしょうもない副業に僕は笑った。

「いいよ、僕ひまなんだ」

「よし!来てくれるとおもったぜ。しかし、笑いやがったな。俺はこれけっこういけると思ってるんだよ。男女合わせて十五人で一回一万円くらいの儲けだけどさ、毎週土日やれば月八万円。いまは全部俺が幹事やってるけど、いずれバイトに幹事やらせようと思ってるから、そしたら一度に二、三個パーティ主催して本業の給料と五分五分まで持っていきたいんだよね」

働きながら土日は婚活パーティー主催して、よくも米国公認会計士の勉強できてるなと感嘆しつつ、

「それだけ集客できればな」と僕は言った。

「だからこうして頼んでるんだろ。ここは俺がおごるから。それにホームページも自分でバナー作ったり、けっこう手が込んでるんだぜ。ほれ、みてくれよ」

田原とは高校時代にナンパ目的で文化祭めぐりをしたり、徹麻を幾度となくした気のおけない仲。僕はすっかり楽しい気分になった。そこで、

「六本木に行こう。今度は僕がおごるぜ」と言ってみた。キャバクラに行ってみたいと思ったのだ。田原は何回も行ったことがあるようで、ただ一言、

「いいねぇ」と乗ってきた。

六本木の交差点でタクシーを降りると、すぐ何人かの客引きが寄ってきて、側頭部にコウモリのタトゥーの入ったスキンヘッドの、しかし笑顔が人懐こそうな男と田原は慣れた口調で値段交渉を始めた。僕らはミッドタウンの近くにあるSというキャバクラに連れて行かれた。席に案内されると、まずボーイが料金システムの説明をし、

「自動延長制ですが、一時間経つごとにご案内しましょうか」と言ってきた。案外親切なんだなと思いつつ、僕らはそのようにお願いした。

少し経つと女の子が二人来て、僕らの隣に座った。田原の隣に座った子は、テレビで見るハーフのアイドルを少しギャルっぽくして、疲れさせたような感じだった。明るい茶色の髪はアップにしていて、丈の短い白いドレスを着ていた。僕の隣に来た子は、元ヤンですか、という感じの切れ長の目をした長身の美女だった。ハウスボトルのウィスキーを注ごうとする彼女を制止して、僕は五万円くらいのシャンパンを頼んでもらった。どうせなら一旦会計を締めてから本指名をしてボトルを入れてあげればいいものを、当時の僕にそんな知恵があるはずもなかった。

「ありがとう~」という女の子たちに、

「いいんだよ、この人お金持ちなんだから」と田原が言った。田原にはタクシーの中で僕が投資で儲けていることを話してあった。田原は、「マジか!?」と身を乗り出して驚いたすこしあとには、

「一生ついていきます~、ゲハハ」と揉み手で下卑た笑い声を立てていた。

何を話したのかはあんまり覚えていないけれど、歳がいくつに見える~?とか、どんなお客さんが来るの?とか、最近おいしいもの食べた?とか、そんなことだったと思う。飲み始めた十分後には田原は、

「二の腕までならOK」と言いながら女の子にさわりはじめ、なにやら愚痴り始めたようだった。僕の隣の女の子は指名が入ったとかで名刺を僕に渡していなくなり、少しすると違う女の子がやってきた。

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