表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

二話・〝祭〟直前

 くれないおうぎが舞う。ひらりひらりとあでやかなちょうのように、風に舞う花びらのように。


 母のシヅネの舞う姿は美しい。シヅネは娘のアヤネから見ても誰よりキレイな人だが、舞を始めると格別に人を惹きつける。

 

 体重をまるで感じさせない、しなやかな足運び。美しくそろえた白い指先、流し目。シヅネの動きに合わせて流れる黒髪までもが、計算しつくされたように洗練されて、見る者の心をつかんで彼女が舞い終わるまで離さない。


 シヅネの舞が終わると、ほう、と〝祭〟の準備をしていた者たちが感嘆のため息をついた。

 広場の中心でシヅネが舞の練習を始めたときから、彼らの手は止まってしまっていた。


 その場の誰よりも先に、アヤネは大好きな母に駆け寄った。


「かあさん、きれい! すごい!」


 紅に白い桜の散る扇を閉じ、シズネは着物のふところに仕舞った。


「ありがとう、アヤネ」


 柔らかな娘の髪をなでる。声をあげて笑うアヤネを見ると、改めて愛おしさがこみあげた。

 少し前まで赤ちゃんだった気がするのに、アヤネはもう4歳だ。ふっくらとしたほおや短い手足が年相応としそうおうであどけないけれど、顔つきに少女らしさが現れている。


 〝祭〟は今夜行われる。


 黒いしめ縄やたくさんの派手な色の提灯ちょうちんが飾られるなど、村の中心にある広場の様子がすっかり〝祭〟のために整い、今は村人たちが最後の準備をしている。シヅネはアヤネを連れて、今夜に披露ひろうする舞の練習をする、という理由をつけて広場の様子を見に来た。


 どこかに準備不足や誤りがないかと期待していたのだが、村長が厳格げんかくな人物であるためか、非の打ち所がない。


 悔しいが、〝祭〟はとどこおりなく行われるだろう。


 村を出る事が出来なかったシヅネは舞手まいてとして〝祭〟に出ることになった。

 それをシヅネは受け入れた。


 手を繋いで、母娘が暮らす土間どまと板の間しかない小さな家に向かう。


 〝祭〟の準備で忙しい村人たちの視線が彼女たちから切れたのを見計らい、シヅネは立ち止まり、アヤネの前にしゃがんだ。幼いアヤネと視線を合わせて、小さなかわいい両手を、包み込んで握った。


「アヤネ、母さんと約束して」


「なあに?」


 ふわ、と小首をかしげるアヤネ。


 一方でシヅネは真剣そのもので、思いつめた雰囲気すらあった。


「今夜の〝祭〟が始まったら、絶対に家からでないこと」


「え……」


 アヤネの顔がくもった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ