四話 エースタイガー
「グオアアアアアアア!!」
エースタイガーが全身をばねのように跳ねさせてとびかかってきた。
そのままなら普通はペチャンコに潰されてしまうだろうそれを、僕はあえて正面から受け止める。
「うっ!」
僕がリリアナからもらった力がどのくらいの物なのかを僕はまだ知らない。
せいぜい巨木に風穴を開ける事が出来る事を知っているくらいだ。
だから、それを知るためにもあえて正面から受け止めた。
「うううっ」
エースタイガーは身体も大きく、また筋力も強いのかかなりの重圧で僕を押しつぶそうとする。
「でも、耐えられないほどじゃない!」
それが分かったところで、僕は全身の力を使ってエースタイガーの前足を押しのけた。
「ウガッ!?」
僕のような小さい存在に前足をそらされたのが意外だったのか、一瞬動きが止まった。
「そりゃ!」
自分でも思いのほか冷静に、僕は機を逃すことなく抜きっぱなしだった刀で前足を切り上げた。
バシュッ!
切った前足から鮮血が噴き出る。
どうやらこの刀は問題なくエースタイガーを斬れるらしい。
「ウガアアアア!!」
エースタイガーが咆哮し、斬られてないほうの前足の爪で僕を切り裂こうとしてきた。
「うわっ!?」
流石に受け止めないほうがいいと思い、それを紙一重で躱す。
その直後、エースタイガーは後ろに跳躍して。
「ウグオオオオ!!」
再び跳躍を繰り出してきた。
「おんなじ手を何度やってもダメだよ!」
実際の戦闘なんて僕はこれが始めてだけど、そのくらい僕にもわかる。
同じように受け止めて違う足をどれか斬ろうと、そう思った。
「うぐっ!?」
それが甘いと思い知らされたのは、受け止めた後だった。
明らかに威力も、押しつぶそうとする力も上がっているのだ。
流石にまずいと思い、今度は押しのけて後ろに下がる。
「なんだ……あれ?」
見ると、エースタイガーの顔は最初に見た時よりも歪み、目に宿っているのはまるで怒りの炎だった。
「まさか、怒った?」
だとしたらまずい。狂暴化したら当然危険度も増すし、さっきも実感したけど筋力もきっと増している。
何にもこっちに良い事が無い。
「グアアア!」
そう咆哮し、エースタイガーがこっちに距離を詰めてきた。
「まずっ!?」
観察をしていた僕は、反応が遅れてしまう。
今度は跳躍ではなく、前足を使った蹴りだった。
「うがっ……」
もろにそれを喰らい、背後にある木に叩きつけられてしまった。
「……ガッッ!? はあ……!?」
一瞬呼吸が詰まる。
リリアナからもらった力のおかげか、衝撃はあっても体のダメージは軽減されているようだった。
それでも呼吸が苦しいし、打ち所が悪かったり、急所にあたったら死ぬかもしれない。
「いっそ……幸運かな……?」
すごい力をもらった。でもそれは万能じゃない。
エースタイガーといい、初めて会った日のリリアナといい、よく教えてもらっている。
ひょっとしたら、僕はこの力に舞い上がって足元を掬われるかもしれなかったんだから。
「はぁ……よ……こいしょ……」
おっさん臭い台詞を吐きながら、僕は何とか立ち上がれた。
エースタイガーは今の一撃を僕が耐えたことに驚いたようだったが、またすぐ跳躍をしようと全身の筋肉を縮めている。
ただそれが今度は異様にそれをする時間が長い。
(力をためている……?)
よく見ると、エースタイガーの足元の地面にはひびが入り、足から爪が飛び出していた。
脚の筋肉も膨れ上がっている。
流石にこれを喰らうとひとたまりもなさそうだ。
(……そうだ!)
すごくベタな方法だが、僕は今背にしているものを思い出して打開策を見出した。
ただ勝負は一瞬。できるのか。
(ううん、やるんだ)
ここで負けるわけにはいかないのだから。
「ウグオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
最大級の咆哮を上げて、エースタイガーが僕に襲い掛かる。
鋭い爪と、鋼の筋肉が僕の命を潰そうと迫った。
見てからじゃたぶん反応できなかっただろうそれを、僕は
「はあああああああああ!!」
見る前に回避していた。
ギリギリで気づいたが、エースタイガーは跳躍する前に必ず咆哮するのだ。
つまりそれを合図に僕は跳躍を回避したのだ。
種を明かせばそんなところで、更に言えば。
「ゴアア!?」
僕に襲い掛かるはずだった爪は僕の背後にあった巨木に突き刺さった。
深く食い込みすぎたのか、本人(虎?)ですら抜けないほどに。
「おわりだああああああ!!」
僕は刀を真っ直ぐに突き出してリリアナからもらった身体強化の恩恵で高く飛び上がり、そのままの勢いで
「グアアアアアアアアアアアアア!!!!????」
エースタイガーの……いや、ほとんどの生物の急所であろう、のどを突き刺した。