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チートな男の娘ともっとチートな魔女(連載凍結中)  作者: フットサール
二章 闘技大会編
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三話 勘違い

「な……に……?」


 私には、目の前で起こっている事態が理解できなかった。

 突然空から降ってきた少女があっという間にボスオークとその子分七匹を倒して見せたのだから無理もない……と思いたい。


「今、鎖を外すね」


 オークの首を刎ねた彼女が私の手足の枷を慎重に剣―――いや、(やいば)が片方にしかついていないのを見る限り、刀か―――で切り裂いた。


「あ、あとこれ。着るといいよ」


 起き上がった私を見て顔を赤らめた彼女が自分の着ていたマントをわたしに差し出してくれた。


「あ、ありがとう……」


 このマントはどうやら寝袋と兼用していたらしく、大き目で彼女より背の高い私でもすっぽりと覆えるほどだった。


「あの……君は?」


「僕? 僕はカエデ。一応冒険者をやってるんだ」


 カエデ……いくら反芻しても聞き覚えのない名前だった。

 私よりも年下で(因みに私は十八歳だ)スマートゴブリンとオーク合計八匹をあそこまで容易く屠り、一人称が『僕』と言っている女性の冒険者など噂になるに違いないはずなのだが。


「所属ギルドは?」


「いや、どこにも入っていないよ。フリーでやってる」


 無所属冒険者。それを聞いて、ようやく私は納得した。なるほど腕の立つ冒険者ならギルドが率先して宣伝をしてくれるが、ギルドに所属していないなら話は別だ。


「フリーなのか……あ、申し遅れてすまない。私はカティア・ウォーディンドン。ギルド紅蓮の戦乙女クリムゾン・ヴァルキュリアに所属している。ランクはAだ」


「ランクA!? その年で!?」


 カエデはかなり驚いたようにこちらを見ている。

 当然だ。私のような若輩(じゃくはい)者でランクA冒険者など、めったにいるものじゃない。


「ああ。そうだ」


「強いんだね……それより、紅蓮の戦乙女クリムゾン・ヴァルキュリアって、女の人しか入れないっていう?」


「そうだ。メンバーには、たとえどんなときであろうと屈する事無く気高く清廉であることが求められ、同時にそれを美徳としている……だが、私は危うく屈しかけてしまった」


 先程までの恐怖と、屈してしまった自分への羞恥に思わず拳を固く握りしめる。


「カエデ、君が助けてくれたおかげで私は奴らに屈する事無く助かった。本当にありがとう、この礼は必ずする」


 そう言って私はカエデに頭を下げた。


「い、いいよ。たまたまだし」


 苦笑交じりにカエデがそう言う。しかし、それではいけないのだ。


「いや、紅蓮の戦乙女クリムゾン・ヴァルキュリアメンバーとして受けた恩を返さないわけにはいかない! ……そうだカエデ、君は確かフリーだったな?」


「え、うん」


 一つ、良いことを思いついたのだ。カエデにとってもきっとプラスになる。


「カエデ……君、紅蓮の戦乙女クリムゾン・ヴァルキュリアに入らないか?」



「え……?」


 今、カティアさんが僕を紅蓮の戦乙女クリムゾン・ヴァルキュリアに誘った?

 女の人しか入れないギルドに?

 まさか……


「どうだろうか? 入らないでも私と仕事をしないか? 冒険者は基本実力主義とは言え、女性には不利な場面も多いだろう。フリーだとなおさらだ。一緒にやってみないか」


 うわやっぱりだ。カティアさん、僕のこと女だと思ってるよ!

 どうしよう? 僕は男だと正直に言おうか? そうすれば、僕は入団規定上入れないのだから簡単に断れる。

 でも、さっきまで彼女は乱暴されかけていたわけだし僕が男だと知ると怖がられるんじゃないかな?




「ごめん、僕は訳があってフリーでいなくちゃいけないんだ。だから、ギルドには入れない」


 とりあえず僕が女の子だとごまかしつつ断ることにした。


「そうか……君の都合も考えずに誘ってしまってすまなかった」


 カティアさんはしょんぼりしてしまった。確かに、恩人に何もお礼ができないのが辛いのは分かる。


「そうだ、だったらこの近くにエリエントっていう町があるはずなんだけど案内してくれないかな」


「……それでいいのか?」


「うん。お願いします」


 カティアさんはそれでは物足りない様子だったが、渋々といった様子で、


「わかった。それでいいなら」


 と承諾してくれた。


「ありがとう! そうだ、僕いっしょに旅をしている人がいるんだけどその人を待ってもいいかな?」


「なに!?」


「そろそろ来ると思……」


「駄目だ! まだほかにもゴブリンがいる! すぐに離れるぞ!」


「え? え?」


 カティアさんは血相を変えるとそのまま僕を引っ張っていった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 カティアさんが叫んだとおり砦にはまだうじゃうじゃゴブリンがいて、さすがにすべてを相手にするのは大変そうだった。

 どうしても立ちふさがる者は斬り捨てたけど、それでも結構大変だった。

 それに、カティアさんはいまマントを一枚羽織っているだけでほとんど裸なのだ。攻撃を受けたら大怪我は間違いない。


「ここまでくれば……奴らも追っては来ないだろう」


 息も絶え絶えにカティアさんが言う。


「連れのことなら心配はいらない。ここがゴブリンの根城だというのは有名な話だから、近寄ろうとは思わないだろう」


「……そうかな」


「すまない、やはり心配か?」


「いえ、大丈夫だとは思いますけど……」


 また勝手なことをしたと怒られそうで怖いのだ。

 雷が落ちるとはいうが、リリアナの場合本当に雷を落としてきそうで怖い。


「そういえば、なんでカティアさんあんなところに捕まってたの? Aランク冒険者になってるくらいならすごく強いと思うんだけど」


「それが……分からないんだ」


「わからない? どういう事?」


「私はいつものように仕事をしていた。奴らを切り伏せていたのだが、突然意識が途切れてしまったのだ。そして気づいたらベッドの上で襲われかけていたという訳だ……いや」


 カティアさんはふと思い出したように首筋に手を当てた。


「そういえば、意識が途切れる直前に何かが首に刺さったような気がするな……」


「ひょっとして、麻酔付きの吹き矢とか?」


 迷いの森(ロスト・フォレスト)の軍隊モンキーも、同じようなことをしていた。もっとも、あいつらが射かけてきたのは触れただけで即死する凶悪極まりない毒だったけど。


「そうかもしれない。だとしたら、なんとしてもギルドに報告して被害を防がねば……」


 カティアさんは特に気にしていなかったけど、僕には気になることがあった。

 リリアナから聞いた話だが、魔族(ヴァイス)の住む大陸に生息するゴブリン系の魔物以外は道具を作成するときに既に作成された物を参考にして作成するらしい。

 要するに人間の物をパクるのだがここでさっきの推測と食い違う点が出て来る。

 連中が吹き矢を使ったという点だ。

 すでに吹き矢を知っていたと言われればそれまでだが、カティアさんの言っていることを聞く限りでは連中は吹き矢を今まで使わなかったということになる。

 ……うーん、どういう事だろう? 誰かが教えた? いや、そんな危険なことしても何の得もない。


「……あとで考えよう」


 この森はスマートゴブリンしかいないという訳ではない。僕一人なら問題無いが、カティアさんを守らなくてはいけない以上警戒はしなくては。

 気を引き締めて、僕は歩き続けた。






















 カエデたちが砦を出ていってしばらくした後。

 自分たちの首魁たるオークの安否を確認しようと複数のゴブリンたちが部屋にいた。

 幸運にもカエデたちと遭遇する事無く済んだ者たちだ。

 いや、()()()()と言った方がいいかもしれない。

 なぜなら、彼らはこれから死ぬからだ。


「コ、コレハイッタイ……」


「ダメダ! ボスガコロサレテル!!」


「ココデナニガ……!?」


 口々にわめく声が、不意に途切れた。


「……ナ、ナンダ……?」


 かろうじて絞り出された声が差すもの。

 それは、彼らの頭上から降りてきた天使……あるいは妖精と形容するのがふさわしいほどに美しい少女だった。

 彼らは人型の雌であれば何物にも欲情する性質(たち)を持っている。

 そんな彼らの美意識や基準というのは大体人間と同じだが、どうしても美しいと思うよりも交尾したいという獣欲の方が勝る。

 だが、そんな彼らを見とれさせるほどに少女は美しかった。

 少女が降りたち、ゴブリンたちに目を向け、口を開く。


「お前たち、ここに人間の少年が来なかったか?」


「ナ……?」


 ゴブリンたちは見とれて声も出せない。

 だが、


「オ、オソエ! ボスガイナイイジョウ(以上)シソン(子孫)ヲノコスノダ!」


 一匹のゴブリンが叫んだ。やはり獣欲が勝ったのだ。


「ソ、ソウダ!」


「ヨクカンガエリャコンナオンナヲオカセルンダ! ラッキーダゼ!」


「オソエ! オソエ!」


 叫びが伝染し、ゴブリンが一斉に襲い掛かった。


「グギャッ!!」


 だが、一匹が見えない重力という力に潰され肉塊と化す。


「グア!」


「ギャアアアアア!!」


「アヂイ! アヂイ!」


 同時に、炎や雷や氷など様々な攻撃魔法がゴブリンたちに襲い掛かった。

 それらすべてが強大な魔法であり、少女の腕前を物語っていた。


「……残りもいるか」


 彼女はほかにもゴブリンの気配を感知して(かんじて)いた。


「潰しておくか……」


 指先からうねる炎や雷が放たれる。

 砦中から悲鳴が響く。

 それらすべてが収まった後、彼女は何もない様に見える空間に目を向けた。


「いるのだろう? 出てこい」


 直後、羽の生えた小さな人間が空間に出現した。

 一人ではない。複数の色とりどりの服や透き通る羽を持った男女さまざまな者たち。


「妖精とは本当に引っ込み思案なのだな。面倒なものだ」


「あなたのような乱暴な者に引きずり出される妖精たちの身になってはいかがです?」


 また声がした。

 少女の前に青いドレスを纏った今度は成人女性並みの大きさのやはり透き通る羽を持った存在が現れる。


「我々妖精にこのような乱暴をしますか? 普通」


 そう、彼らは妖精。

 人前にはめったに姿を現さないこの世界で最も魔法に長けた、いや魔法()()()()ともいうべき存在。

 そして彼女の目の前にいるのは主に炎系の魔法をつかさどる妖精たちの長……大妖精だった。


「することに抵抗できないお前たちが悪い。それより、ここに少年が来たはずだ。答えないならひどいぞ」


 再び少女の指先に魔力が集中していく。


「そ、それを収めなさい! 答えますから!」


 妖精は慌てて言った。その後ろに、大勢の小さな妖精たちをかばって。


「少年ですね? それなら先程、この砦を出ていきましたよ」


「……そうか。あいつめ、また勝手なことを……」


 少女は魔力を収めると妖精たちに背を向けた。


「待ちなさい」


 その背に、妖精は声をかけた。


「あなた……森から出てきてまさか王都に行くのではないでしょうね」


「……今のところその予定はない」


 少女が振り向かずに答える。


「そうですか……ならいいです」


「そうか」


 少女は興味なさげに呟き、そのまま部屋を出ていった。








「だいようせいさま、あれなに?」


 舌ったらずな声で、大妖精のドレスの裾を引っ張るいまだ幼い妖精が聞いた。

 妖精といえどさまざまな大きさのものが降り、二十センチほどの小さいものから今質問した幼子ほどの大きさのまでいる。

 そして、妖精たちを牽引する存在を大妖精という。


「あれですか? あれは……」


 幼い妖精が()()といった意味。この子も感じたのだろうと大妖精はそう考えた。

 そして大妖精は思い返す。十六年前に妖精たちの住まう世界妖精の園(フェアリーガーデン)で起きた史上最悪の事件を。

 妖精王の娘が誘拐された事件を。


「あれは、黄金の落胤(らくいん)。できるなら、この世界にはいない方が良い存在ですよ。さ、帰りましょう」


 苦々しげにそう呟くと、大妖精の姿も妖精たちの姿もなくなっていた。

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