十七話 小部屋の開き方
閃光と塞いだ耳からも大音量で聞こえる爆音が部屋を包んだ。
リリアナから耳をふさげと言われていなかったら今頃ひどいことになっていたかもしれない。
光が収まった後、ゴーレムは大破して串刺しになり胸に赤い正多面体の結晶が露出していた。きっとあれが魔核だろう。
だが、
「うそだろう!?」
リリアナが絶叫した。
露出した魔核を覆うように、もう再生が始まっていたのだ。
「させるか!」
でもそれも僕の思ったとおりだ。
ゴーレムの再生速度はとても速い。でも、弱点がある。
前にリリアナに魔法について教わった時のことだ。
『魔法ってすごく便利だね。何でも出来るんだから』
『そんなわけないだろう』
『え?』
『魔法にも限界はある。その最たるものは、無から有を生むことはできないことだ』
『どういうこと?』
『例えばだ』
そう言うとリリアナは空中に手をかざした。
『アイスランス』
そうリリアナが唱えると、空中に白い靄がかかりその中から輝く槍が出現したのだ。
『これは空中にあると言われているとても小さい水をかき集めて創ったものなのだ』
『ふ~ん……あれ? それだとファイアボールとかは?』
『あれは魔力を燃料としているものだ。結局無から有を生んでいるわけではないのだよ』
『そうなんだ……』
僕が思い出したのは『無から有を生むことはできない』ということ。
つまり、やつは失った岩をどこからか補給して再生しているはずなのだ。
「足からね!」
再生するとき、いつもゴーレムの足は地面とくっつく。
その時だけはゴーレムは動けず、そしてダメージが大きければ大きいほど再生に時間がかかる。
そのスキをつけば魔核まで接近できるのだ。
「無理だカエデ! それは壊せないぞ!」
僕の考えたことが分かったのか、リリアナがそう叫ぶ。
もちろんだ。僕はこれを壊そうとしていない。
でも、
「ふんあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
僕は魔核を両手でつかむと全力で引っ張った。
メギメギと音が聞こえる。
少しずつ魔核がゴーレムの体から離れてく。この調子なら引き剥がすことだってできるはずだ。
「カエデさん!」
ジーナさんの叫びにハッとなって周りを見る。
「まずい!」
少しずつ周りが岩に囲まれていった。
魔核が抜けかけているせいか速度は遅かったが、着実に岩が僕を取り込もうとしているのだ。急がないと押しつぶされててしまう!
「抜けろおおおおおおおおお!!!」
全身の力を込めて魔核を抜こうとする。
だが、ぎりぎりで間に合いそうにない。
「くそおおおおおおおおお!!!」
もうだめかと思った。
「え?」
不意に、バキッと音を立てて魔核が外れたのだ
「無茶のし過ぎですよ。あなたもリリちゃんも!」
僕のおなかに腕がまわされていた。
「ジーナさん!」
ジーナさんが僕を引っ張ってくれたのだ。
「ありがとうございます! ジーナさん!」
「一旦離れましょう。ここだと危ないです」
ゴーレムだった岩の塊は、ガラガラと崩れていた。
そこから離れ、リリアナのところにいく。
「カエデ! 無茶なことを!」
リリアナが本気で怒って僕に怒鳴った。
「ごめんね、心配かけて」
「私がお前に能力を与えたとしても無茶なことだったんだぞ! 本当にわかっているのかバカ!」
「ごめんってば」
ぽかぽかとリリアナが僕を叩くが大して痛くない。
「まあまあリリちゃん。結果的にカエデさんが無事でよかったじゃないですか」
ジーナさんがそう言ってリリアナをなだめてくれたおかげで何とか機嫌を直すことができた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そういえばこれ、どうしよう……」
ふと思いつき、手の中に握りっぱなしだった赤い魔核を見る。
「地面には落とすなよ。石を巻き上げてまたゴーレムが出てくる」
リリアナが僕の手の中を覗き込んだ。
「やはりか……」
「何が?」
「魔核は必ず正多面体の結晶の形をしている。その面の数が多ければ多いほど高度で繊細な命令をこなしたり、性能の高いゴーレムを作る事が出来る。よく見てみろ」
言われて僕はもう一度正多面体を見てみた。よく見ると、それは正二十面体をしていた。
「この魔核は正二十面体をしている。ジーナ、お前今までで見てきた魔核の中でこんなの見たことあるか?」
「いえ……私も、正十二面体までなら何度か見た覚えはありますが正二十面体となると……」
どうやら千年近く生き続けているジーナさんですら見覚えがないらしい。そのことからも、これがどれだけ珍しいものなのかわかる。
「私が全力で魔核を作るとしても、正八面体。上手くいっても正十二面体が限界だ。魔核で正二十面体など聞いたこともない! すごい、すごいぞこれは」
だんだんとリリアナのテンションが上がっていった。鼻息も荒くなっている。
「リ、リリアナ?」
「リリちゃんは魔法が大好きですからねぇ。こういう高度な魔法や珍しい魔法具を見ると興奮しちゃうんですよ……まあ、それも可愛いんですけどね」
こっちの鼻息も荒くなっていた。
「ちょ、ちょっと二人とも! それを調べるのは後にして奥に進もうよ」
別々の理由で鼻息を荒くする二人を引きずって、僕は最下層へ進んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ゴーレムの魔核私が持っていた魔封じの革袋の中に保管することになった。
これの中に入れている限り、中の物の効力を無効化してくれる優れものなのだ。
辿り着いた最下層は、それまでの迷路や大部屋とは違ってこじんまりとした小部屋だった。
中は静かで魔物の気配もない。
「ここが最下層です。ほら、あそこに扉がありますよね」
ジーナが指さした場所を見る。なるほど確かに扉があり、見慣れない文字が彫り込まれていた。
「なるほど……確かに、これは知らない文字だな」
私も魔法を修めるものとして、古代の文字や教会の高位聖職者が使うような神聖文字の心得がある。
だが、これは見たこともない文字だった。
複数の文字や言語が入り混じっているようにも見える。
「これは壊してしまっていいのか?」
「これはこれで紙に絵として写していますので大丈夫です」
「そうか……カエデ? 何をしている」
カエデがまじまじと扉を見つめていた。
「…………」
「おい、カエデ! 聞いているのか!」
そう怒鳴るが、カエデはきいていない。少し思い知らせる必要があるらしいな。
杖を振り上げ、カエデを殴ろうとしたが不意にカエデは部屋の隅へと歩いて行ってしまった。
「おい、カエデ?」
少し様子がおかしい。何か信じられないというような表情をしていた。
カエデはしゃがみこみ、何かをいじっている。
ガチャリ
不意に、扉から音がした。
「は?」
ガタゴトガタゴトと、何かの仕掛けが作動する音が鳴り響く。
「リ、リリちゃん! カエデさん! 扉が開いていきます!」
砂埃を上げて、扉がゆっくりと上にせり上がっていった。
カエデのほうを見る。相変わらず間抜けな顔をしていた。
「カエデ……お前、いったい何をした?」
茫然と、いつの間にか私はそう呟いていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うそ……」
僕はせり上がる扉を茫然と見ていた。
ジーナさんが言っていた通り、扉には文字が彫られていた。
「なるほど……確かに、これは知らない文字だな」
リリアナがそう呟いた。
「これは壊してしまっていいのか?」
「これはこれで紙に絵として写していますので大丈夫です」
ならその紙を見せてもらっても良かったような気がする。
でもジーナさんも読めない文字を……いや、読めると知らない文字を見せようとは思わなかったんだろう。
「そうか……カエデ? 何をしている」
茫然と、僕はそれを眺めていた。リリアナにも、ジーナさんにも読めないこの中で僕だけが読める文字を。
『この文字が分かる人へ。部屋の右隅の下から二番目、左から三番目のブロックを押すと扉が開くよ』
扉に彫られていたのは、その扉の開き方。
それが、見間違えようの無い日本語で彫られていたのだ。




