十三話 変態司書の依頼
「ある書物?」
「はい。この町の近郊にあるダンジョン、ルブラの魔窟の最下層にとても珍しい古代の書物が眠っているという噂があるのですよ」
ダンジョン。
これも異世界ではお約束なものだが、リリアナ曰く魔物が特に頻出する一定の地域全般を魔物頻出危険地帯と言うらしい。
これに当てはまるなら海の上にあろうが空中にあろうがダンジョンと呼ばれるのだ。
「お前ほどの実力なら一人でもできるだろう。それほど危険なダンジョンなのか?」
「いえ、ダンジョン自体はBランクの冒険者がパーティーを組んでいけば問題ない程度なのですが……」
それって十分危険なんじゃないかな? Bランクってベテランじゃなかったっけ?
「私も最下層の二十階までは言ったのですが、その最下層の奥にある小部屋の扉の仕掛けがよくわからないのですよ」
「仕掛け?」
「何やら言語が記されているのですが、その言語が読めないので困っているのです」
「千年以上生きているお前が読めない言語が存在するのか?」
「句読点の様な物や、全く同じ文字があるのでどうやら言語らしいというのは分かるのですが、その先はさっぱりなのです」
「それで? お前にすら読めない文字をまさか読めと?」
疑わしげにリリアナが言う。それが無理だというのは、僕にもわかることだ。
「いえ、その扉自体を破壊してしまおうかと思います。私一人では魔法の調整ができず小部屋の書物ごと吹き飛ばしてしまいかねないですので細かい魔法操作の特異なリリちゃんにも協力してほしいのです」
ジーナさんは強大な魔法こそ使えるものの、精密な操作は苦手で実験も空中図書館のような巨大なものを浮かばせたりといった大味なものばかりらしい。それで、自分よりも精密に魔法を捜査でき手実力のある知り合い……つまり、リリアナを頼ろうとしたというわけだ。
それより壊しちゃうんだ、いいのかな。
「なるほど理解した。その扉の破壊に協力すれば私たちの求める本を貰えるのだな?」
「はい。ぜひ協力してほしいのです。明日にでも出発したいのですが、よろしいですか?」
「わかった。カエデ、協力するぞ」
「え?」
「心配はいらん。お前はエースタイガーを一人で倒せるのだから、命を落とす心配はない」
「いや、でも……」
まだダンジョンに向かうことを渋る僕に、リリアナはとどめを刺すように言った。
「私たちが一か月で抜けた迷いの森だがな、あれはSランクの冒険者が複数組むかあるいは王立騎士団の精鋭が向かわねば簡単に命を落とすような世界七大危険地帯に数えられる魔物頻出危険地帯だぞ」
「え……」
こうして、僕たちのルブラの魔窟行きが決定した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そうそう、カエデさんには私のステータスをお教えしておきますね」
「ステータス?」
ジーナさんの言うステータスは、僕の思ったとおり攻撃力とかがわかりやすく表示されるやつだった。
「ステータスプレート……便利ですね、これ」
「はい、それの表示については説明したとおりです」
そう言ってジーナさんが金属板を持つと、それが発光した。
「どうぞ」
手渡されたステータスプレートを僕は見てみた。
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名前 ジーナ・フラーヴィ
HP 4456/4456
MP 3472/3696
ATK 1298
DEF 813
AGI 532
INT 2613
MGR 2504
使用可能スキル
《魔法》
《重力操作魔法一覧▼》
《飛行魔法一覧▼》
《魔法一覧▼》
称号
虚空の魔女
本好き
天空図書館館長
ショタコン
ロリコン
残念美女
着せ替え愛好家
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「一覧?」
表示がざっくりしすぎな気がして、ついそんな声が出た。
「使える魔法が一定数を超えるとそういう表示になるんですよ。得意な魔法だと区分けしてくれるんです」
ジーナさんが補足してくれた。
……称号に変なものがあるのはきかないでおこう。(怖いし……)
「そうだ、ジーナさん。これって僕は使えないんですか?」
僕自身のステータスも見て見たい。
そう思って、聞いてみた
「使えますよ。それを持ってステータスと心の中で念じればいいんです」
「そうですか、じゃあさっそく……」
「カエデのステータスは、すべて1000でそろえているぞ」
そう言って僕の楽しみを妨害したのはリリアナだった。
「リリアナ! なんで言っちゃうの!?」
「どうせなら教えておこうと思ってな。手間が省けただろうよ」
「うわーん! リリアナのバカァ!」
半泣きになって僕はそう叫んだ。
「はぁ……はぁ……カエデさん! 私の胸に飛び込んで泣いてもいいんですよ!」
その一言で僕がすぐ泣き止んだのは言うまでもない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一人身もだえるジーナさんに明日の集合場所を教えて逃げ出したときには、すっかり日が暮れていた。
宿に帰り、ご飯(この日はパンとビーフシチューのようなものだった)を食べてベッドに入る。もうお風呂に入れないのには慣れていた。
「ねえ、リリアナ」
ロズベリア村でもそうだったが、経費節減のために僕とリリアナは相部屋で寝ている。
曰く、僕がリリアナを襲っても実力上僕が半殺しにあって終わりだからだそうだ。
まあ、それが無くても襲わないけど。
「なんだ」
眠たいのか、そっけなくそう答えるリリアナ。
「あのね……例の送還魔法って僕一人しか還せないの?」
「は? どういうことだ」
一見不可解な質問に、リリアナが身を起こして僕を覗き込む。
「この前、グレンベルト王国が勇者召喚の儀に成功したって言ってたでしょ」
「ああ、それがどうした」
「記事を見ちゃったんだけど、呼ばれたのは多分僕の知り合いだと思うんだ」
それを聞いたリリアナがあきれたように言った。
「だから? その者たちも元の世界に還してほしいと? 私が責任を持つのはあくまでお前一人だ、カエデ。お前の知り合いが呼ばれたとして私は知らん」
「そんな事言わないでよ、お願いできないかな? 送還魔法を教えるだけでいいんだ」
ハル君―――本当はシュンだけど僕は呼びやすい訓読みで呼んでいる―――は僕の幼馴染だ。彼とは家族ぐるみの付き合いだし、彼の家族や僕の家族も心配しているはずなんだ。
「……私が今作ろうとしているのはあくまで一人用、まとめて複数人を還すのは無理だ。材料も並みの物ではない。私はお前一人を還してそれで終わりだ。奴らがそれを盗み見ようが私は知らん。パクれるならパクってみるがいいさ」
「じゃあ!」
「もう寝ろ、うるさい奴め」
リリアナはそう吐き捨ててさっさと寝てしまった。
「……ありがとう、リリアナ」
もう寝てしまったリリアナの背中にそう呟き、僕も毛布をかぶって目を閉じた。
次は七時ごろ投稿です。




