十一話 天空の城
GWなので、二話ずつ三日間庭連投しようと思います。
次は七時ごろ投稿です。
ロズベリアを出て数週間。
僕らはそれよりもさらに大きな街であるサリビアに来ていた。
石造りの建物が多く、ロズベリアよりもさらに発展した街であることが分かる。
何より目を引くのは……。
「あれかな? 天空図書館って」
「ああ、間違いないだろう」
この街の名物。世界最大の蔵書数を誇り空中に浮かぶ城、天空図書館だ。
僕が帰るために必要そうな材料をここで調べるらしい。
「うわ~。おっきいね」
「蔵書資料総数は二億点を超えるらしい。世界が広くてもここより大量の資料がある場所はないだろう……ところでカエデ、何故あれは宙に浮いていると思う?」
「? わかんない」
「あれを作った魔法使いが、本の収納場所に困ったからだ。さらに言えば、彼女は重力操作魔法や飛行魔法にかけて右に出るものがないほどだからな。この街の長に掛け合って、あれを作ったそうだ」
「へ~、リリアナよりも?」
「悔しいが、私よりもだ」
じゃあ、やっぱりすごい人なのか。
いや、あれだけ大きな城を空に飛ばしている時点で僕でもすごいってわかるか。
「宿をとったらすぐに取り掛かるぞ」
「うん……あれ? そういえばリリアナ」
「なんだ」
「僕って字が読めないんだよね? じゃあ、今回は宿で留守番?」
リリアナのオリジナル魔法で呼ばれた僕はこの世界の字が読めない。
まして本を読むなんて無理だと思うんだけど……。
「いや、お前にも働いてもらう」
そう言うと、リリアナは紙片を取り出して文字を書き込み始めた。
「これと同じ文字が表紙に書かれている本を探してこい」
そう言うと紙片を僕に手渡した。
やっぱりぐにゃぐにゃとした線が書かれているようにしか見えない。
「なんて書いてあるの?」
一応聞いてみた。知っておいても損はないと思ったからだ。
「ショーンと書いてある。それが書かれている本を片っ端からもってこい」
ショーン? 誰だろう?
「そういえば、お前にはまだ話していなかったな。ショーンとは、百年程前に存在したと言われている魔法使いのことだ。本名はショーン・ヘルツォーク・フォン・アケーミャ」
「それって、名前・称号・フォン・姓の順?」
「よくわかったな」
「お母さんがそれに近い名前なんだ」
余談だが、ドイツ人の王侯貴族は今みたいな名前を付ける。
もちろん現代の地球のドイツに貴族制度なんてないけど、お母さんの先祖が貴族だったらしく、たまに冗談でそう名乗っていたのを思い出した。
「その人って、人間?」
「ああ。人間だが、今から三代前の魔族の王から称号を授かったらしい。当時はまだ今ほど魔族と人間族の仲も悪くなかったそうだしな」
「今は戦争してるんだっけ?」
「ああ……話を戻そう。彼の魔法は当時としては考えられないほど高い水準にだったらしい……だが」
「だが?」
「どういう訳か、彼の記した物は魔導書もメモの一片たりとて残ってないのだ。焼失したとか破棄されたとか、そういった記録も一切が無い。あまりの技術水準の高さゆえに故意にすべてを消されたとも、そもそもそんな人物などいない魔族の作り話ともいわれている」
「……現実感のない話だね」
都市伝説みたいだ。
「挙句それを秘密裏に隠し持っている国まであるという噂があるからな……まあ私たちはおとぎ話の様な物だと考えれば良い。実際、見つかるだろう書物もほとんどおとぎ話だろうしな」
「意味あるの? それ」
作り話なんて探してどうするの?
ジト目でリリアナを見る。
「ある。この世界の伝承は実際にあった事件を壮大に書いているケースが多いのだ。実際、おとぎ話を基盤に制作された魔法もある。おとぎ話と言えどきちんとした資料なのだ」
「へぇ~」
「さて、そろそろ行くぞ……そうだ、カエデ」
「なに?」
いたく神妙な顔で、リリアナが僕を見た。
愛らしい顔に二つあるとても真剣な紅い瞳が、僕の瞳を真正面から捉える。
ちょっとドキっとした。
「な、なに?」
「図書館についたら真っ先に本を探しに行け。そして私が行くまで私を探すな。おとぎ話は基本子供向けだから一階右のソファが多く置いてある所の近くにある。いいな?」
一気にそうまくしたててきた。
「え? え?」
流石に混乱してしまう、何だか必至だし。
「理由は聞くな。聞かないほうがいい。行くぞ」
そう言ってさっさと行ってしまった。
「あ、まっ待ってよ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「わぁ~」
宿屋をとった後、早速僕たちは天空図書館に来ていた。
因みに天空図書館はなかなかの高度にあり、来る為には真下にある転移魔法陣を通るしかないらしい。空中から飛んで入ろうとしても防御結界で叩き落されるそうだ。
そして肝心の図書館内部は僕が知っている現代の物とは違う、宮殿とかそういう言い方のほうが正しそうだった。
柱にはすべてギリシャ神殿にありそうな彫刻が施され、天井には女の人が天と海に手をかざす宗教画のような絵が描かれている。
前に聞かせてもらった蒼き女神なんだろうか。
でも、何より驚いたのは
「う、うわ……」
本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本
見渡す限りの本棚、いや本の壁だった。というか、ちょっと引いた。
あの高いところにあるのなんかどうやってとるのかな。
「見とれていないでさっさと本を探しに行って来い」
リリアナに小突かれ、メモを渡された。
「三角形が書かれている方が上だ。私が呼びに行くまで動くな。いいな? 動くなよ」
「しつこいな。分かったよ」
くちびるをとがらせてそういうと、リリアナはさっさと行ってしまった。
「さて、と」
早速メモを片手に絵本らしきものが並べられているコーナーへ行く。
背表紙にタイトルが書かれた薄い絵本が棚に並べられていた。
「こ、こんなに……」
ただそこも大量にあった。
とは言え、子供に圧迫感を与えないための配慮かその量は少ない。
「よし、頑張るぞ」
数時間後……。
「え~ん、多すぎるよぅ……」
僕は半泣き、いや五分の四泣きになっていた。
絵本に絞ったとしても本は山となっていたのだ。
大体こんな量の本の山から有るかどうかも分からない本を探すなんてそもそも無茶苦茶で。
僕一人でやるなんてそれこそ無理無体……僕一人?
「そうだ! 司書さんに聞けばいいんだ!」
ここが図書館なら当然司書さんもいるはずだ!
な~んだ! 最初からそうすればよかったんじゃないか!
しかも都合よくあそこに職員っぽい服を着たお姉さんが!
早速聞いてみよう!
「あれ?」
でも、ふと脳裏にある疑問がよぎった。
「なんでリリアナは最初からそれをしないんだろう? ……まいっか!」
気にせず僕はお姉さんに話しかけた。
「すいませ~ん。聞きたいんですけど」
「はい?」
お姉さんが振り返った。
長い薄桃色の長い髪がなびく。
その貌は精緻を体現したような造り。
ただリリアナを愛らしい西洋人形とするなら、お姉さんは美という概念を模す彫像。
顔のすべてのパーツと体のラインを理想的にしたらきっとこうなるんだろう。そう思った。
「っ……」
声をかけたのに思わず黙ってしまう。
「あの、どうかしましたか……っ!!」
お姉さんが戸惑ったように、綺麗な黄玉色の瞳を向けた。
(……?)
何だろうその瞳が……何だろう? 火が付いたように見える。
まるで、獲物を見つけた腹ペコの野獣のような……!?
「カッ」
か?
「可愛いです――――――――ッッッ!!!!」
「うわああああ!?」
お姉さんは雄叫びをあげると僕に抱き付いて来た。
「なんですかなんなんですかこれ可愛いですこれお持ち帰りして着せ替えしたいですふりふりの服を着せたいですメイドとかゴスロリとかもう二つ合わせてゴスロリメイドとかどうですかお嫌いですかああこの娘とあの人二人セットでお着替えとかできたらいいんですけどあの人厳しいし嫌がるし魔法ぶっ放してくるしああでも私にあの人を押さえつけるだけの実力があれば涙目美少女が拝めるのにでもこの娘もなかなかグヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ」
「ひいいいいいいっ!」
怖い! 怖いようこの人!
いろんな大切なものを獲られちゃうよう!
「だ、誰か! 誰かぁ!」
「無駄ですよ今は平日の昼間で子供も大人も誰も居ません助けを求めても誰もこたえてくれませんさあお姉さんといいことをしましょうあの人がいればパーフェクトなのですが!」
「あの人とはだれかね?」
「もちろんリリちゃんのことです! あのお人形さんより可愛いリリちゃんがいればもう死んでも良かったのですがさすがにこれをリリちゃんに見られると口をきいてもらえなさそうですしッ」
「そんなことしなくても私は口などききたくないのだが?」
「そんなこと言わないで下さいよリリちゃん! …………リリちゃん?」
ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ
錆びたブリキの人形の首が少しずつ回るような、そんな動作でお姉さんが振り返るその先に、
「リリ……ちゃ……ん……?」
リリアナがいた。
形の良い眉をひそめ、紅い瞳に侮蔑どころか嫌悪を宿して。
というか、まるで汚物を見る目でお姉さんを見ていた。
「あ……あはは……リ、リリちゃん。ハロー……」
何で英語?
すっと、リリアナが持っていた杖を構えた。
「「あ、あわわわわ」」
お姉さんと僕は二人揃ってそんな声を上げた。
幸い、お姉さんの腕が緩んでいたので僕は抜け出しそそくさと逃げる。
「安心しろ……本は傷つけない」
本以外は?
そう心の中で突っ込んだ。
「ひゃ……ひゃわあわ」
「エアロブラスト」
「ああああああああああああ!!」
ブオオォ!
リリアナが突き出した杖から突風が吹き出し、もろに受けたお姉さんは本棚に激突して、
「きゅうう……」
気を失ってしまった。
5/17 表記を一部訂正




