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『最後の審判』

作者: 中之 吹録

 ある傲慢で大金持ちの男が突然心臓発作で亡くなった。坊さんが5人でお経を唱え、葬儀は盛大に行われ、戒名も最高級のものが与えられた。

 男は、自分の葬式を見ていた。ちょうど司会者の後方、2mくらいの高の所から泣いて悲しむ家族の姿や、遺産が転がり込むのを想像していたのだろうか、うつむいて笑みを浮かべながらお経を聞いている者もいた。

 「あの野郎!絶対祟ってやるからな!」。などと思いつつ、暫く様子を眺めていた。


 暫くすると、後ろで男を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、白j装束に身を纏った若い男性が立っていた。彼は手招きをしてこちらに来るように促した。男はだんだん意識が遠くなり、呼ばれるがままにその男の後についていった。

 「さあ、着きましたよ。」。白装束の男は、男を呼び起こした。

 「ここはどこだ?天国か?地獄か?」。真っ白い部屋に真っ白なベッドと寝具。その上で男は目を覚ました。

 「いえ、まだその前の段階です。ここで最初の審判が行われ、天国への扉へ進むか地獄への扉へ進むかが決められます。」。白装束の男は答えた。

 「俺は天国に決まってるだろう!金も名誉もある!戒名だって最高級のものをもらった。これで十分だろう!さあ、早く天国行く扉を早く開けろ!」。男は自身ありげに答えた。

 「いえ、そうはいきません。審判を待つのです。」

 「うるさい!どけ!この野郎!」。白装束の男の制止を振り切って片方のドアを開けようとしたが、ドアは頑丈で鍵が掛かっていて、開けることは出来なかった。


 間もなく男の名前がどこからとも無く呼ばれた。そして、お告げのようなものが聞こえてきた。

 「貴方は天国への扉に入る事を許されました。お入り下さい。」

 「そうだろう。当たり前だ!俺を誰だと思っている!どっちだ?右か?左か?」。男は急かすようにお告げが聞こえた方向に向かって叫んだ。

 「それは、貴方が決めてください。そして、中に進む毎に扉が1つづつ現れます。質問には正直に答え、神の求めるものは全て差し出して下さい。」。白装束の男は、注意を促した。

 「おお!もう死んでるからな。懺悔でも現金でもなんでもしてやるよ。」。男は2つ並んだ扉の前まで進んでいった。

 「仏教か何かで、”左手は不浄”とか言ってたな。よし、右の扉にするか。」。男は右の扉を選び、中へと進んでいった。


 少し歩くと、1つ目の扉が見えてきた。

 「そこで立ち止まりなさい。」。声が聞こえた。

 「ここか?」。男は確認するようにその場所で止まった。

 「貴方は今まで悪いことをしてきましたか?」。声が質問してきた。

 「ああ、いっぱいやったさ。数え切れないくらいだ。記憶に無いものも一杯あるだろうさ。」。男は答えた。

 「正直で宜しいですね。。では、次の扉に進んで下さい。」。男は言われるがままに、次の扉を開けた。


 また少し歩くと、2つ目の扉が見えてきた。

 「そこで立ち止まりなさい。」。また、声が聞こえた。男は立ち止まり、次の質問を待った。

 「貴方は家族を大事にしてきましたか?」。声が質問してきた。

 「う~ん・・・」。男は少し考えていた。家族には裕福で贅沢な暮らしはさせていたが、スキンシップや家族と共に過ごしたという点では、今更ながら若干の後悔はあった。

 「どちらとも言えん。何不自由ない生活は送らせたが、共に過ごした時間は少なかった。これが正直な答えだ。これでいいか?」。男は正直に答えた。

 「正直で宜しいですね。。では、次の扉に進んで下さい。」。男は言われるがままに、次の扉を開けた。


 また少し歩いた。扉が見えてきた。しかし、今度は少し様子が違った。扉が2つあった。その片方の扉の横に円柱型のテーブルのようなものが置いてあった。

 「そこで立ち止まりなさい。」。また、声が聞こえた。男は立ち止まり、次の質問を待った。

 「では、これが最後の扉になります。今度は質問ではなく、お願いになります。聞き入れられないならば、テーブルの無い扉が開きます。こちらは地獄行きの扉です。聞き入れられたならば、反対側の扉が開きます。こちらは天国行きの扉です。宜しいですね。」

 「おお!お願いでも命令でも何でも言ってくれよ。俺に出来ない事は無い!」。少しイラついた口調で男は返事をした。

 「では、お願いを致します。そのテーブルの上に、現金1000万円を積み上げてください。」

 「チッ・・・地獄の沙汰も金次第か!1000万かたったそれだけか?すぐ用意してやるよ。待ってろ!持ってきた袋の中に現金がたくさんある。賽銭替りに少し分けてやるよ!」。男は来た道を戻ろうと振り返ったが、もうそこには扉は見えなかった。

 「おいおい!ちょっと待ってくれよ。戻らないと1000万は取って来られないぞ!それでもいいいのか?扉を出してすぐに開けろ!」。男は恫喝するかのように声に向かって怒鳴り散らした。


 少し経って、また声が聞こえてきた。

 「貴方は最後に嘘をつきましたね。天国に行くにはお金は必要ありません。そして死人は生前に身に着けていたものや現金を持ってここに来る事は出来ないのです。貴方の地獄行きが決定しました。」

 「なにぉ~!ふざけんな!この馬鹿野郎!さっさと来た道に帰せよ!」。男は興奮しきっていた。

 その時、1つの扉が開いた。その奥は真っ暗で、人の嗚咽や逃げ惑う叫び、断末魔が聞こえてきた。男は恐怖心で一杯になり、走ってその場を逃げようとした。が、開いた扉がまるで真空状態のように空気を勢い良く吸い込み、男はだんだんとその扉に吸い寄せられていった。

 「あ~!!!!」。男は激しく抵抗したが、最後には地獄へと落ちていった。そして引き寄せる風が止み、扉は静かに閉まっていった。


 「残念です。最後のお願いは、人間の”欲”を試すものだったのですが・・・現金は無いと正直に答えれば、天国行きだったのですがね。」

 地獄の沙汰も金次第だった。だが、それは下界だけの話。死人は物を持って旅立つことは、決して無い。

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