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秘密の計画

2章秘密の計画 

あれから1週間が経った。あの話し合いからはや一週間が経過しようとしている。あれからというもの、クラスの空気は良くなったものの、明らかに以前とは違う状況が待っていた。それはある作戦を決行していたからだった。

佑斗「なんだよ、急にぶつかってきて」

拳弥「は?それこっちの台詞。ジャマなんだよ」

竜太郎「2人ともやめろって」

……クラスの中の喧嘩が増えたのだ。卒業が近づくにつれてストレスなどが溜まってきているのかもしれないと思い、先生はあまり深く考えていなかった。しかし、次第に回数を増す喧嘩を見て、明らかな不仲を思わずにはいられず。とうとう3Aの「クラス不仲説」は教室を越え、職員室の先生の耳にも入るようになった。

 そんな噂が立ち始めた日の翌日。帰りの会で鷲見先生はクラス全員に向けてこう言った。

鷲見先生「今はなかなか感情のコントロールが難しい時期。だが今のこのクラスの状況は心配しなければならんと思った。この3Aは仲のいいクラスだと思っていたが、それは今も変わらない。もう一度自分の周りを見直してみてほしい。なにか気付くことがあるはず。担任として何も出来ず凄く申し訳ないが、心配しているよ」

 それ以降はピタリと喧嘩は止み、いつもの落ち着きを取り戻したかに見えたため、先生も安心していた。しかし、それは単なる思い過ごしでしかなかった。喧嘩の絶えなかった生活の後は、何もない、平穏なクラスになり、以前とは比べ物にならないくらいうんと静かになったのだ。当然、先生の心配は尽きることがない。しかし、先生としてもどうしていいのかは分からず、ただただ時間だけが過ぎていった。どうしてこうなってしまったのだろう。原因は残念ながら何一つとして見当たらなかった。

 1日、2日、3日……静かな生活が始まる。いつしか教室に戻るとカバンを片付け、すぐに席に着いて静かに自分のことをするといった行動パターンが日常的になっていた。3月になる。卒業式までは10日を切っていた。

愛菜「あと5日だね……このままでいいの?」

少しずつ高まる緊張感を持ちながら、昼休みの彼女たちの話題は自然とサプライズの件についてだった。

万里奈「いいと思う。前日までは……」

真穂「今は職員室の先生も何がどうなっているのか心配って声があるくらいだから、かなりいいんじゃないかな?ここまでやったからには最後までやり通すでしょ。逆にこの緊張感が楽しかったりしてね……」

莉央「だってさ、このクラスの雰囲気とか全部が先生へのサプライズだなんて先生が知ったら、絶対鷲見先生喜ぶよ……」

莉央は笑って隣を振り向く。すると隣には美紅ではなく奥村先生の姿があった。

「先生…!!」

奥村先生「みんな、今の本当なの…?」

「あっ……」しまったという素振りを見せるが、既に手遅れだ。肝心なところで、痛恨のミス。ここでこのことが先生に知られてしまったら、今までの努力は水の泡で、鷲見先生のありがたいお話が延々と続くことは目に見えている。その場にいた生徒は、全員が心を1つにして奥村先生を引き止めた。

祥代「先生、これは言っちゃダメ。だって、これは鷲見先生へのサプライズの1つで…」

奈菜依「私たちは、先生に喜んでもらいたいだけなんです」

彩乃「だから……このことは内緒にしてもらえませんか?」

先生は教師としての立場と生徒の思いの両方をよくよく考えた上で、腕を組みながらこう答えた。

奥村先生「私は教師として言わないわけにはいきませんね。私が美山中学校の教師なら、このことはすぐに先生に知らせなければならないことです…けど」

希恵「けど?」

奥村先生「でも私は何も見てないですから」

先生のその言葉を聞いて、生徒はホッと息をついた。

留奈「よかった……」

奥村先生「でも、私にも何か協力できることあったら言ってくださいね」

先生はそう言うと、その場から嬉しそうに去っていった。

あすか「奥村先生っていい先生だね」

 卒業式を間近に控える中で3Aの生徒の力で決行した作戦、それはクラスのギクシャクした雰囲気そのものだったのだ。

万結「今頃、きっと音楽室で歌ってるよ?みんなも早く行かなきゃ」

一瞬ドキリとしたハプニングはあったものの、ホッとして音楽室へと走っていった。


 その頃、音楽室は合唱の練習や色紙の作成、更には一言メッセージの録音など、完全なサプライズ準備室と化していた。というのも、駿太や章弘、和弥など男子の森島先生への懇願により、森島先生もこのサプライズに協力してくれることになったのだ。

裕一「先生、ここの音程教えて」

森島先生「えっとここは…シャープだから…」

先生もこの企画を楽しんでいるのだろうか、時折笑顔を見せている。教室内では暗い生徒を“演じている”男子からすると、いつものテンションで過ごせるこの昼休みをとても大切にしていた。鷲見先生に見つかるというリスクはあったものの、これ以外にはいい方法は見つからなかったのだ。

万結「お待たせー。今ね、奥村先生にこの計画のこと聞かれちゃって。けど先生は協力してくれるっていってた。あっ、CD持ってきたから始めよっか」

森島先生「それじゃ、早速録音しましょうか。桜ノ雨で…いいのかな?」

梶浦「先生、空も飛べるはずと2曲歌いたいです」

祐也「僕も2曲がいいと思います」

涼太「先生、最大何曲入る?」

森島先生「10曲は入ると思うよ」

高彰「だったら歌える曲どんどん入れてこうよ。たくさんあったほうがいいしさ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そんなこんなで本格的に始まったサプライズへの準備は、奥村先生、森島先生を除く学校中には知られることなく、影で盛大に行われていたのだった。


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