純粋な感謝
1章純粋な感謝
特色化選抜が終わり、結果が出た2月の下旬。今日は2月23日。そんな難しい環境の中で共に生活をしている3年生。特色化選抜は大体半分が受かり、半分は一般選抜に向けて既に準備を進める。そんな中での生活は、当然のように上手くいくものではない。
「落ちたものの本当の悔しさは受かったものには分からない」先生は言った。どうすれば上手くいくのだろうか……一番悩んでいたのは議員である達寛と真穂だった。合格・不合格によって3Aが今まで築いてきた絆が壊れてしまうのだとしたら、そんなに悲しいことはないと思った。
達寛「真穂……どうしたら前みたいにみんなで楽しく過ごせるのかな……」
真穂「私にも分かんない。こういう時は会長でしょ」真穂はそういうと、生徒会長の大輔に助けを求めた。
大輔「そういうことか……まぁ俺も落ちた中の1人だからね。でもみんな切り替えてると思うし、逆に合格勝ち取った方がナーバスになり過ぎてるかもしれない。ここで提案なんだけどさ……」 そういうと、大輔は議員に加えて教長を呼び、5人で話し合いを始めた。
福美「どうしたの?」
達寛「最近クラスのムード良くないよな……なんでだと思う?」
陽一「僕はやっぱり受検のことが大きいと思うよ。だから解決は難しいんじゃ……」
教長の福美と陽一の意見を聞いたところで、大輔が話を続けた。
大輔「クラス状態が良くても悪くても、卒業は今も近づいてる。今のクラスを一言で表すと、バラバラ。受検がみんなを神経質にしてるってのもあるけど……何よりずっと大切にしてきた仲間意識がないと思う。3Aのいいところって仲が良くて明るくて……変なこと言う人もいるけどみんなで笑い合って過ごせるところだと思うんだよね」
真穂「だったら……もう一回原点に戻ってクラスを1つにするってこと?」
福美「5人で話しててもしょうがないじゃん。みんな集めて意見聞こうよ」
そうした発案があって、翌日の朝、3A全員に意見を聞くことになった。
大輔「みんないるかな……ちょっと聞いて欲しいことがあって集まってもらった。みんな、今のこのクラスどう思ってる……?自分は今のままじゃあまりにも悲しいなって思う。3Aのみんなとの思い出が、ほんの些細なことで壊れていくのは見たくない……」
ザワつく教室。そんな中で1人口を開いたのが章弘だった。
章弘「まだ壊れてない。いや、壊さない。思い出は……俺たちの最高の思い出はそんな簡単に壊れていいもんじゃないし。でも今のムードが悪いってのはみんな思ってる。どうにかしたいけど、出来ないんだ……落ちたとか受かったとかそういうのもあるかもしれないけど、周りにはいつも支えてくれる仲間がいてくれる。だから頑張れる」
公太「簡単に言うと、3Aがもう一回1つになって何かやろうって事だな」
莉央「それいいと思うよ、私は賛成」
美紅「私も。卒業まであと少しだけど、まだ思い出いっぱい作りたいよね」
「いいと思う」「俺も賛成」「私も」「いいんじゃない?」
クラスの思いを確認したところで、具体的に何をするのか、どうすればいいのか……についても考えた。誰からも出た意見としては、「先生に何かサプライズをしたい」ということだった。3年間お世話になった鷲見先生へ……。クラスのためにどんなことでもしてくれた先生であり、厳しいがいつも自分たちのことを考えてくれた先生へ。この意見に異論を唱える生徒はいなかったため、鷲見先生に何らかのサプライズを用意しようという結論で、話し合いは終わった。
龍壱「サプライズって……考えれば考えるだけ難しいよな」
拓矢「そうだけど……要するに気持ちの問題だと思う。心からのありがとうを伝えられれば、きっと先生は喜んでくれるよ」
汐織「サプライズはお金じゃないと思うよ。自分たちで考えて、企画して。そして3Aがもっといいクラスになったら先生も嬉しいよ、きっと。だから私たちは、お金じゃ買えないありがとうを届けようね」
それぞれの話題は鷲見先生へのサプライズで持ちきりとなった。話し合いの成果だろうか、ついさっきまであった薄暗いもやもやは、嵐のあとの晴れ空のようにキレイさっぱり吹き飛んでいた気がする。
善真「みんな!このことは鷲見先生にはナイショだよ」
鷲見先生「ん?善真何がナイショだって?」
善真「あっ、先生……おはようございます……」
既にやらかしてしまった善真には大きな笑いが起こったが、どうやら先生は気付いていないようだった。
颯槻「善真が一番危ないしっ。気をつけろよ」
3Aとしての原点。それは仲間の存在だ。37人揃って初めて3A。この37人、いや先生含めて38人全員で作ってきた生活が、輝きを取り戻そうとしている。そして彼らが、ある大きな計画を企画することを、まだ先生は知らないのだった。




