10年後、また会う日まで——。
こんにちは! 3年前から温めていたアイディア、とくとご覧あれ!
『大丈夫。いつか帰ってくる。君とまた会えるよ。この空は、世界のどこまでもつながってる。』
『いやよ、私! アキラがいたから、親のことも耐えられたのに………。』
『大丈夫。君ならできる。あと、ごめん。長くなるけど、10年は帰ってこれない。君と会えないのが恋しいよ。』
『お願い! 行かないで………。』
『ユア………。ごめん。子供の力じゃ、何にもできなくって。』
『一つ約束して。10年後の今日に、このくすの木の下で会うと誓って。』
『うん。絶対に守るよ。』
——こんな逢瀬をしたのはいったいいつだっただろうか。指折り数えてため息をつく。
約束の日まであと3ヶ月。彼はどうなっているのだろうか。
9年と7ヶ月前。私がまだ15歳だったとき。中学3年生の、ひ弱な青春の思い出。
アキラは転校生。中学3年生の2学期で転校してきた。背が高くて責任感があると、半ば押し付けられた学級委員の仕事をこなすのに精一杯だった私は、また仕事が増えたとネガティブに考えるほかなかった。
『まあまあカッコいいんじゃない?』
『それなー。あとは学力か。おんなじ学校いけなきゃ、恋したって無駄無駄。』
色素の薄い焦茶の大きな瞳は、見つめるたびに女子を虜にしていくようだった。
学級委員として付き合っていくにつれて、彼の家庭についても少しずつわかってきた。
ご両親は中小企業の管理職で、裕福な暮らしをしていること。お母さんは単身赴任で海外にいること。クォーターだから色素が薄い見た目をしていること。
共働きということに、少しだけ共感を覚えた。
でも、やっぱり違う。
私の両親も共働きだ。その分、家計に余裕があるのも事実。
——彼のような、愛にあふれた環境に生まれられなかったのも、事実。
私の両親は毒親だ。余裕のある家計に反比例するかのように、心に余裕のない2人。世間一般から見れば十分な稼ぎを『足りない』と言い、この先訪れるかもわからない未来を憂う。その2人は娘を利用することに決めた。幸いなことに、娘は美しく素直だった。彼らは娘を利用して安心を得ようとした。全ての進学先を決め、言葉遣いも決め、結婚相手も決めようとしている。
いい加減、心が死にそうだった。
アキラはいつも物腰が柔らかい。愛されて育ったとわかる、おっとりと落ち着いた口調。凍てついた心は、少しずつときほぐれていった。
光に救われた心は、光に憧れを抱くようになる。いともかんたんに、学年が終わる3ヶ月前、私は彼に恋をした。
「アキラ君は、どこの学校に行くの?」
「うーん。ここから一番近い進学校に行きたいんだ。模試での成績もA判定だったし、大学の付属校だからエスカレーター形式で最終学歴もゲットできるしな。」
「そうなんだ。私もそこが本命なんだ。」
「おんなじじゃん! お互いがんばろうな。」
「うん!」
親が決めた場所に行きたいと言う、鎖で繋がれた犬の私だけど、少しでも希望が見出せた。勉強にモチベーションも加わり、一層身がはいった。
そうして卒業式の日。私たちは無事第一志望に合格。ここから楽しい高校生活が始まる——はずだった。
「ユア。話したいことがあるんだ。」
「アキラ、どうしたの?」
「式の後、七色公園のくすの木の下に来て。」
「う、うん。」
一体なんなんだろう。もしかして、両思いだったのかな?
呑気なことを考えながら、公園までの道を踏みしめた。
卒業証書を片手に彼は待っていた。
「ごめん、待った?」
「全然。3分前に着いたばっかりさ。」
「もう中学校ともお別れか〜。高校でも一緒に頑張ろうね。」
「それなんだけど………。実は、話さないといけないことが2つあるんだ。」
彼は少し顔が赤い。
「う、うん」
「実は………。高校、おんなじところに行けなくなったんだ。」
「え?」
「母さんが単身赴任で海外にいること、話したと思うんだけど、次は父さんも行かなくちゃならなくって。子供1人を日本に置いて行けないって、連れて行かれることになった。そこの国の高校の編入試験受けることになってさ。」
「嘘……でしょ? 私、アキラがいたから頑張れたのに! こんなの、聞いてないよ。」
「大丈夫。いつか帰ってくる。君とまた会えるよ。この空は、世界のどこまでもつながってる。」
「いやよ、私! アキラがいたから、親のことも耐えられたのに………。」
「大丈夫。君ならできる。あと、ごめん。長くなるけど、10年は帰ってこれない。君と会えないのが恋しいよ。」
「お願い! 行かないで………。」
「ユア………。ごめん。子供の力じゃ、何にもできなくって。」
「一つ約束して。10年後の今日に、このくすの木の下で会うと誓って。」
「うん。絶対に守るよ。」
悲劇は突然襲ってくる。涙のせいで視界がぼやけてくる。
「あと、もう一つ言うことがあって……。」
「?」
「ユア、君が好きだ。」
「え?」
「ずっと前から好きだ。世界で一番。僕と付き合ってください。」
さっきまでは悲しい涙だったのに、温かい涙がこぼれ落ちてくる。
「ご、ごめん! 泣かせちゃった?」
「ち、がうの……。嬉しくって……。」
私は涙をブレザーの袖で拭うと、できる限りの笑顔でこう言った。
「私からも、お願いします!」
アキラと笑顔で抱き合った。そんな、甘酸っぱくてベタで、ひ弱な青春——。
月日は流れ、私ももう25歳。あの附属高校から大学へと進学し、卒業。今は両親の手によって、数々のパーティーに出席させられる日々だ。
(あと、3ヶ月……。)
希望は打ち砕かれることを忘れている愚か者が、夢を見たのがいけなかった。
「ユア? 入るわよ。」
私の母親だ。傍目から見ればバリバリ働くキャリアウーマンだが、その中身は高慢なエゴイスト。今日も私の婚約相手を探しに、パーティーに付き添うところだ。
「あら、そのドレスにしたの? あんたは暖色よりも寒色の方似合うんだから、こっちになさい。まったく、顔は私に似てくれたけど、センスは遺伝しなかったわね。」
可愛いと思ったドレスを無理やり着替えさせられる。少し不機嫌な顔になってしまった後に後悔した。
「こら! そんな不機嫌な顔して! しっかりとあんたの躾をしてやったのは、どこの誰だと思っているんだい!」
せっかくキレイに整えた髪を掴んで揺さぶられる。
「すみませんでした。私の考えが至らず、申し訳ございません。」
繰り返し謝ると、少しは気分も落ち着いたらしい。ふうと息をつくと、甘ったるい声で母は言った。
「あなたのことをもらいたいとおっしゃるお方がいるの。大会社のおぼっちゃんでねぇ。これで私たち夫婦も安心して暮らせるわ。お見合いの日程も決まっているし、楽しみにするのよ。」
息が止まりそうだった。彼を裏切ることになってしまう。
「お母様、お願いです。どうか、あと3ヶ月待ってくださいませんか。それ以上は望みません。どうか、お慈悲をお願いします。」
母は先ほどのような形相に戻って言った。
「あんたは何を考えているの?! 私たちの子供のくせに! 人生経験も浅い分際で、親に反抗するなんてどういうわけ! あんたはねえ! 私たちのお人形なのよ! 人形は人形らしく、大人しく座っていればいいの!!!」
ヒステリックモードに入った母は、私の言うことなぞ聞かないだろう。それでいい。私も母の言うことを聞く必要はなくなった。
「構いません。もう、あなたたちのマリオネットじゃありませんから。」
私は私服を引っ掴むと、リビングまで走り、素早く着替えた。そして家を飛び出す。
「こら! あんた! 勝手なことすんじゃないわよ!!」
もういい。私は自由なのだから。
祖父母の家にかくまって貰えばいいだろう。祖父母は両親の独裁的な教育姿勢を嫌っているから。
ああ、鳥になった気分。
——そうして3ヶ月。約束の日がやってきた。できる限りのオシャレをして、くすの木の下で待つ。
ああ、色素の薄い男性が遠くから見える。その左手には花束があった。
私は彼に飛びついた。
どうでしょうか? 純文学らしさを大切に書きました。 またのご縁をお待ちしております♪




