SCENE3
霧島写真館(2年後・冬)
湊の死から2年(本編から7年)。
プロのカメラマンとして活動する大石(24)。
久しぶりに霧島写真館を訪れている。
霧島玲子が、大石の最新の写真集をめくっている。
霧島「……技術は上がったわね。でも」
霧島、写真集を閉じる。
霧島「写真が泣いてるわ」
大石「……え?」
霧島「被写体への愛がない。ただ『綺麗に撮ろう』としてるだけ。……湊くんを撮ってた時のあなたは、もっと必死で、もっと優しかった」
大石、苦笑いしてコーヒーを飲む。
大石「しゃあないですよ。……俺の『太陽』は沈んでしもうたんですから」
「あいつがおらん世界で、俺だけヘラヘラ笑って生きるんが……時々、申し訳なくなるんです」
霧島、鋭い目つきで大石を射抜く。
霧島「バカなこと言わないで」
「あなたが笑わなくなったら、湊くんが生きた証拠が『悲しい思い出』になっちゃうじゃない」
「彼が愛したあなたの笑顔を、あなたが守らなくてどうするの」
大石、ハッとする。
その時、店のドアが開く。
一人の男子高校生が入ってくる。制服は着崩し、目つきは鋭いが、どこか孤独な空気を纏っている。
かつて「問題児」と呼ばれていた頃の湊に、少し似ていた。
少年「……ここ、写真撮ってくれますか」
霧島「ええ。どんな写真?」
少年「……遺影、みたいなやつ。僕、もう消えたいんで」
大石、少年の言葉に反応する。
霧島が大石を見る。
「ほら、出番よ」という目。
写真館近くの海の堤防
大石、少年の隣に座っている。
少年は、家庭の事情や孤独を吐露し終えたところ。
少年「……だから、僕なんかが生きてても、何も残らないんです。記憶にも残らない」
大石、海風を感じながら、懐かしそうに目を細める。
大石「……君、名前は?」
少年「……翔です」
大石「そか。ええ名前や」
大石、ファインダー越しに夕日を見る。
大石「残るで」
少年「え?」
大石「お前が忘れても、世界から消えても……誰かが覚えとる。俺が覚えといたる」
少年、驚いて大石を見る。
大石はカメラを下ろし、優しく、力強く微笑む。
それはかつて、湊を救ったあの太陽のような笑顔。
大石「昔な、俺の親友が言うてん。『写真はいい。裏切らないから』って」
「お前のその辛い気持ちも、いつか大事な記憶になる。……俺が保証したるわ」
少年の瞳から涙がこぼれる。
大石は、空を見上げる。
雲の隙間から、一筋の光が差し込んでいる。湊が見ている気がした。
大石(なぁ湊。俺、また『お節介』焼いてもうたわ)
(お前がくれた光、ちゃんと次の奴に渡したるからな)
大石、少年にレンズを向ける。
大石「ほら、翔! 泣き止んで前向け! ……笑え! お前は生きてるんや!」
少年、涙を拭い、ぎこちなく、でも生きたいと願うように微笑む。
カシャッ!




