SCENE1
この話は、前作「一瞬の永遠 -君が明日を忘れても-」のアフターストーリーです。
ホスピス・個室(夜明け前)
静寂。心電図の音だけが響く。
大石陽向(22)は、パイプ椅子に座り、福田湊(22)の手を握り続けている。
湊はもう3年間、言葉を発していない。
その時、奇跡が起きる。
湊の目がゆっくりと開き、焦点を結ぶ。
湊「……陽向」
酸素マスク越しの、懐かしい声。
大石、弾かれたように顔を上げる。
大石「……湊!? 俺が、わかるんか?」
湊「……わかるよ。ちょっと老けたね。……髪、ボサボサだ」
最期の灯火(中途覚醒)。
湊は、夢の中でずっと「オレンジ色の光」を見ていたと語る。
湊「……ねえ、最期にお願いがあるんだ」
「写真を、撮ってくれないかな。……僕が、君を覚えていた証拠を」
大石、涙でぐしゃぐしゃになりながらカメラを構える。
湊「……笑って、陽向。君は僕の太陽なんだから」
大石「……おう! 任せとき! ……はい、チーズ!」
カシャッ。
シャッター音と共に、湊の目が閉じ、手の力が抜ける。
モニターの警告音が、別れを告げる。
カシャッ。
シャッター音が余韻を残して消える。
ファインダーを覗いていた大石(22)は、満足げに微笑んだままカメラを下ろす。
大石「……ええ顔、撮れたで。……おい、湊?」
湊(22)は目を閉じ、首を横に傾けている。
握っていた手の力が抜け、大石の手からスルリと落ちる。
ベッドの脇に落ちる腕。
大石「……おい。寝るなや、まだ話……」
ピーーーーーーーーー……
突如、心電図モニターの警告音が鳴り響く。
波形が一直線になる。
大石の笑顔が凍りつく。
大石「……は?」
大石、カメラを放り出し、湊の肩を揺さぶる。
大石「湊! おい、起きろや! 今、笑うてたやんか!」
「ドッキリはいらんて! なぁ、湊!!」
湊の頭がガクガクと揺れるだけ。体温が、急速に遠のいていく感覚。
大石の顔色が蒼白になる。
大石「嘘やろ……なぁ、嘘や言うてくれよ……!」
ガラッ!!
警告音を聞きつけた看護師と医師が駆け込んでくる。
医師「大石さん、離れてください!」
大石「嫌や! あかん! まだこいつ、俺と喋って……!」
看護師に体を引き剥がされる。
医師が湊の瞳孔を確認し、聴診器を当てる。
大石は壁際に押しやられ、腰が抜けたように座り込む。
震える手で、湊の方へ伸ばす。
大石「湊……湊……っ」
医師がゆっくりと体を起こし、時計を見る。
事務的で、残酷な静寂。
医師「……ご臨終です。12月×日、午前5時42分」
その言葉が、大石の理性を断ち切る。
大石「ああああああああああっ!!!!」
大石、獣のような咆哮を上げる。
床を拳で殴りつける。何度も、何度も。
大石「なんでやねん!! お前、光になるんちゃうかったんか!!」
「置いてくなよぉ……!! 俺を一人にすなよぉぉぉっ!!!」
大石の絶叫が、夜明けのホスピスに響き渡る。
ベッドの上の湊は、ただ穏やかに、全てから解き放たれた顔で眠り続けている。
その対比が、あまりに残酷だった。




