006 俺だけメニューが見える
アイラ神から手渡された銀色の球体に俺は目を凝らした。
「それがソウルオーブ。新品よ。装着してみて。装着の呪文は知ってるでしょ?」
たしかに装着の呪文は俺の〈知識〉にあった。魔法の呪文はすべて古代語だ。俺が呪文を唱えると、手のひらのオーブと繋がった感触が分かった。
おっ! 目の前に文字が浮かんできた。古代語の文字だ。〈知識〉のおかげで意味が分かる。ええと……、なんて書いてあるんだ?
〈ソウルオーブを装着しました。神族の許可を得ると、メニューとヘルプが使えるようになります〉
「どんな感じ? 繋がった?」
アイラ神が俺の顔を覗き込んでくる。俺がアイラ神のほうに視線を移すと文字は消えてしまった。
「あぁ、繋がったみたいだ。神族の許可を得るとメニューとヘルプが使えるって出たけど、どうやるんだ?」
「えっ? なんのこと?」
「ええと……、ソウルオーブを装着したらメッセージが出るだろ? そのメッセージにメニューとヘルプが使えるって書いてあるんだけど……」
「何を言ってるのか、ぜんぜん分からないのだけど……」
どうも話が噛み合わない。ひょっとすると、アイラ神たちにはメッセージが見えてないのだろうか……。
俺がオーブを装着したときにメッセージが現れたことと、その内容を説明すると、二人とも驚いた顔をしていた。
「やっぱり思っていたとおりだわ。あなたは初代の神族や人族と同じ特質を持っているのね。天の神様や初代の神族たちが異世界から来たことは知ってるでしょ? これはあたしの推測だけど、たぶん天の神様と同じ異世界で生まれたソウルを持つ人だけが、そのメッセージを見ることができると思うの。
そのメッセージを読めるのは、ダイル、あなただけよ。だから、あなたが自分で試してみるしかないわよ」
アイラ神たちは待っていてくれると言うので、俺は色々と試してみた。アイラ神もテオドもお茶を飲みながら俺の様子を見ている。
俺一人で色々やっても何も起こらなかった。これは、「神族の許可を得る」ってところができてないからだろうな。どうやるんだろ?
試しにアイラ神の手を取って『メニュー』と念じると新たなメッセージが現れた。
〈ソウルオーブのメニューを使うには神族の許可が必要です。神族はこの者がメニューを使うことを許可しますか?〉
俺にはメッセージが見えているが、アイラ神には見えてないらしい。それで、アイラ神の手を取ったままメッセージの内容を彼女に伝えた。
「許可するって念じてくれるか?」
俺の依頼にアイラ神は頷いて目を閉じた。
〈神族の許可が確認できました。これよりメニューが使えるようになります〉
やった! 俺だけがソウルオーブのメニューが見えるってことだ。
で、この後はどうやるんだろ?
それは簡単だった。古代語で『メニュー』と心の中で念じるだけで目の前にメニューが現れた。メニューには「魔法一覧」、「スキル一覧」、「ロードナイト機能一覧」、「契約済み魔具一覧」、「亜空間バッグ」、「マップ」、「補助脳」、「メモ」、「状態表示設定」、「難易度設定」という文字が表示されていた。どうやら、メニューは俺の脳内の視覚野に直接映し出されているようだ。メニューのほかにもボタンが何個か並んでいる。
「魔法一覧」を開くよう念じると、文字どおり魔法の一覧が表示された。魔法の用途や使い方は「ヘルプボタン」を選べば詳しい説明が表示された。その一覧で魔法を選ぶか心の中で魔法名を念じれば、その魔法が使えるようだ。魔力が足りなくて使えない魔法は暗い文字で表示されているから、自分がどの魔法を使えるかは一目瞭然だ。ただし普通にソウルオーブを装着するだけでは魔力が〈10〉にアップするだけだから大半の魔法は使えない。高度な魔法を使うには魔力が弱すぎるということだ。
「スキル一覧」を開くと「登録されたスキルはありません」と表示された。ヘルプによると、スキルというのはソウルオーブに登録されている自分が得意な武器や魔法の技能と、それを使った必殺技や極め技のことだそうだ。技能や技を人から教えられたり自分で編み出したりして、ソウルオーブにスキル名を付けて登録するものらしい。戦闘の技能や極め技だけでなく、鍛冶や調理などもスキルとして登録できるようだ。スキルを発動するとソウルオーブが技能や技の動作を魔力でアシストして何倍か何十倍かに増幅してくれる。つまりソウルオーブにスキルを登録すればその技能や技のスピード・威力などが格段に高まるってことだ。
「ロードナイト機能一覧」は暗い文字で表示されていて、今はその内容を見ることができない。ロードナイトになったときに使えるようになる機能が色々あるらしい。このメニューでは一覧の中から使う機能を選んだり設定したりするのだろう。今は関係ないからスルーしよう。
「契約済み魔具一覧」を開くと「契約済みの魔具はありません」と表示された。ヘルプによると、魔法が付呪された武器や防具、道具などは総称して魔具と呼ばれているらしい。その魔具に妖魔や魔獣のソウルを封じ込めて、ウィンキアソウルの魔力を常時使えるようにしたものをロード化魔具と呼ぶそうだ。そのロード化魔具を使うには魔具との契約が必要らしい。だが、ヘルプを読んだだけではロード化魔具がどういう物なのかイマイチ分からない。とりあえずこれも今は関係ないから放っておこう。
「亜空間バッグ」も暗い文字で表示されている。今は使えないようだ。この機能はロードナイトだけが使えるらしい。文字通り亜空間にあるバッグであり、これが使えれば旅で大きな袋を持ち歩く必要がなくなる。俺の〈知識〉によると、亜空間というのは今俺たちがいる空間に隣接する一種の別空間で、目には見えない。その亜空間を少しだけ間借りをしてバッグ代わりに使うらしい。魔力の強さでそのサイズが決まるようだ。大きくても数メートル四方ということなので、大きな物は入らない。ゲームやファンタジー小説でよく出てくるアイテムバッグのようなものだろう。ともかく今はこの機能は使えないが、使えるようになればかなり便利だと思う。
「補助脳」を開くと「オンにしますか?」というメッセージが現れた。ヘルプで調べると、オンにしている状態で補助脳に何かの質問や要求を入力すると最適解を返してくれるらしい。ただし、初期状態では補助脳は古代語を知っているだけで、それ以外は何の知識も無い。だから学習をさせなければいけないとヘルプには書いてあった。補助脳は自ら言語を理解し学習を行う能力を持っているので、適切に学習を続けさせれば、補助脳は適切な判断や推論が行えるようになるそうだ。ヘルプにはそう書いてあった。はっきり言ってこの機能は使えない。古代語で補助脳に学習させるなんてできないし、そんな時間もない。この機能はオフのままスルーだ。
「マップ」は文字どおり地図だった。と言うか上空から撮影した航空写真だな。地図上で自分の現在地と向いている方角が分かるし、拡大縮小もできる。ただし1万年くらい昔の航空写真らしいから、街や街道、地名などは載っていない。大凡の自分の位置を掴むのには使えそうだ。ヘルプを読むと、この機能をオンにしておくと、自分が移動した場所はマップを最新の状態に更新してくれるらしい。これは便利だ。
「メモ」を開くと「新しい記録を作成しますか?」と表示された。ここは文字どおり何かのメモを作成して保存しておく場所なのだろう。今は使わないから閉じておこう。
「状態表示設定」は通常はオフになっている。これをオンにしてみると、視野の下の方に青色の棒グラフが現れた。どうやらゲームでよくあるMP表示のようなものらしい。ソウルオーブの魔力残量を示すMPバーだな。現在は満タンだ。その近くの数字は自分の魔力値だ。今は〈10〉という数字が表示されている。視野の上の方には数字が表示されていて、刻々と変わっている。これは時刻表示のようだ。
驚いたのは「難易度設定」だ。難易度の〈ハード〉か〈イージー〉のどちらかを選ぶようになっている。ヘルプをざっと読んで分かったが、この設定を変更することで魔法やスキル登録の難易度が変わるようだ。まるでゲームじゃん。
もしかしたら俺はゲームの世界に入ってしまったのかぁ?




