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004 この世界のどこかで迷子に

 ソウルオーブ、ロードオーブ、ロードナイト、天の神様……。言葉の羅列だけが上滑りして理解が追いついていかない。だが、イライラしてみても良いことはない。


 落ち着け。俺は自分にそう言い聞かせた。


 すると一つの神話が〈知識〉の中から浮かび上がってきた。


 ウィンキアの世界では子供でも知っている神話がある。俺の〈知識〉によると、ソウルオーブやロードナイトはこの神話と密接な関係があるらしい。「天の神様と大地の神様の争い」という神話だ。


 長い話は省略して端的に言うと、一万年ほど前に天の神様がどこかの異世界から人族をウィンキアへ連れてきて開拓に従事させたが、このウィンキアに宿っている大地の神様は人族の強引な侵略行為に激怒して、配下の魔族や魔物たちに人族の殲滅を命じたらしい。その戦いが今も続いているという話だ。


 人族が入植した当初はウィンキアの開拓は順調に進み始めて、人族は何百何千と増えていった。だがしばらくすると行き詰まってきた。ウェンキアには“大地の神様”と呼ばれている偉大な知性と能力を持ったソウルが宿っていて、異世界から来た人族たちを排除しようとしたからだ。ウィンキアの魔族や魔物たちは大地の神様の命令に従って人族たちを襲うようになったのだ。


 魔族や魔物たちに比べて人族はすごく弱い。あっと言う間に人族は殺され、その数は減っていった。


 天の神様は人族の中から優秀な者を選んで人族たちの指導者とし、この指導者たちに強力な魔力と魔法の力を与えた。この指導者たちが初代の神族である。


 さらに天の神様は人族が魔族や魔物たちと戦えるようにソウルオーブを発明した。この発明のおかげで人族はソウルオーブに魔力を蓄えて、魔法を使うことができるようになった。魔族や魔物と戦う力を得たのだった。


 なるほど……、そういうことか。俺は頭の中に流れ込んでくる神話を理解しながら、この話は大昔に実際に起こった出来事なのだろうと考えた。


 これは俺の推測だが、おそらく神話で「天の神様」と呼ばれていたのは、異空間のどこかの星に住んでいた種族だと思う。超進歩した種族だったのだろう。天の神様は一人らしいから、その超進歩した種族の最後の生き残りだろうな。そいつが異空間を渡る技術を使ってこのウィンキアという星に移り住もうとしたのだと思う。


 天の神様がどこかの異世界から連れてきた人族というのはウィンキアを開拓させるための労働者だろう。天の神様は人々が安心して幸せに暮らせる世界をこの地に作ると言ったらしいが、おそらく自分が住みやすい環境を作るために人族を連れてきたのだと思う。


 人族というのは地球の人間と同じような姿かたちをしている。もしかすると人族は地球から連れてこられた人間なのかもしれない。もしそうなら、今のウィンキアの人族は一万年ほど前の地球人の子孫ということになる。


 大地の神様というのはウィンキアソウルのことだ。このウィンキアという星に宿った知性と無尽蔵の魔力を持った偉大なソウルであり、我が物顔で侵略してきた人族や亜人を敵視している。


 ウィンキアソウルは人族や亜人を殲滅するために魔族や魔物を変異させて妖魔や魔獣を生み出した。その妖魔や魔獣に強力な力と無尽蔵の魔力を与えて、人族や亜人を襲わせているらしい。


 ふ~ん、そうなのか。妖魔や魔獣は魔族や魔物を強化した種族ってことのようだ。


 〈知識〉によると、妖魔や魔獣のソウルはウィンキアソウルと亜空間を通るパイプで常にリンクしている。そこからウィンキアソウルの魔力を尽きることなく取り出して使うことができるそうだから、この妖魔や魔獣というやつらは相当な“とんでも仕様”ってことだ。


 その妖魔や魔獣のソウルをソウルオーブに封じ込めて、そのウィンキアソウルの魔力を常時使えるようにしたのがロードオーブだ。当然これも天の神様の発明品らしい。おそらく天の神様は人族が妖魔や魔獣と互角に戦えるようにロードオーブを発明したのだろうな。


 そのロードオーブを装着した人族や亜人をロードナイトと呼ぶそうだが、なんとも話がややっこしい。


 手っ取り早く言えば、ロードナイトになったら魔力を尽きることなく使えるってことだ。そして、ロードナイトになれば妖魔や魔獣とそれなりに戦えるようになるのだろう。


 アイラ神はさっき、俺をすぐにでもロードナイトにしたいと言っていたが、それを素直に喜んでいいのか? いや、これは何かある。話がうますぎるぞ……。


「俺をロードナイトにしてくれるらしいが、なぜだ? なぜ、俺をロードナイトにしたいんだ? いや、それより先に聞きたいことがある。どうして俺をこの世界に連れてきたんだ? あんただろ!? 俺をこのウィンキアに連れてきたのは!」


 イライラした気持ちをアイラ神にぶつけた。


 俺の強い口調を受けて、アイラ神は悲しそうな顔をした。


「ごめんなさい。あなたを巻き込んでしまったことをお詫びします……。でも、あなたを別の世界からこのウィンキアに召喚したのはあたしではありません。あたしの姉なの。あたしも姉に頼まれて協力したけれど……。

 と言うか、姉は、ある特定の人だけを召喚するつもりだったのね。でも、その人を召喚するときに、あなたや他の人たちを巻き込んでしまったの」


「と言うことは、俺は間違ってこの世界に召喚されたってことか?」


「えぇ……」


 アイラ神は困ったような表情で顔を伏せた。


 召喚されたのは、きっとあのときだ。あのバスの中で急ブレーキが掛かったとき、俺と優羽奈は体が前に投げ出されて……。記憶は曖昧だが、俺は優羽奈の手を握っていたと思う。


「ユウナは……、優羽奈はどうなった? ええと、優羽奈っていうのは俺の婚約者の名前だ。俺と一緒にいたから、たぶん召喚に巻き込まれたはずなんだ」


「あなたの婚約者……、ユウナさん……」


 アイラ神は目を伏せて呟いた。優羽奈を知っているようだ。ということは、優羽奈は無事だっていうことか? それにしてはアイラ神の表情が暗いな。


 驚いたことにアイラ神は涙を浮かべていた。なぜ、そんな悲しそうな顔をする? 優羽奈に何かあったのか? 俺はそれを言葉にできないまま、アイラ神が口を開くのを待った。



 ――――――― アイラ神 ―――――――


 ここで泣いてはいけない。そんなことは分かっているけど、自分が泣きそうになっていることが分かる。神族のくせに幾つになっても感情をコントロールできないって、また、ミレイ姉さんに笑われそう……。


 でも、あの女性……、ユウナさんには本当に申し訳ないことをしてしまった。あのとき、ミレイ姉さんはユウナさんの体に他人のソウルを入れたけど、ソウル交換魔法を失敗してユウナさんを浮遊ソウルにしてしまった。ユウナさんのソウルを死なせてしまったのだ。しかも、姉さんはそんな失敗を気にすることもなく、自分の卵子をユウナさんの体に入れて代理出産をさせてしまった。


 あれから2年が経って、ミレイ姉さんが望んでいたとおり、神族の赤ちゃんが生まれた。その間、ミレイ姉さんは事の発覚を恐れて、ここにいるダイルや召喚してきた人たちを石化して手元に置いていた。


 だから、ダイルは何も知らない。ユウナさんの体は生きているけれど、そのソウルは浮遊ソウルになって死んでしまったことも、ダイル自身は2年間石化されていて、最近になって石化が解除されて目覚めたことも、何も知らないのだ。


 ダイルになんて説明しよう……。いや、こんなことは説明できない。


 こんなことになったのはミレイ姉さんが悪いし、身勝手過ぎる。でも、あたしもその場にいて、ソウル交換をしようとする姉さんを止めることができなかった。


 だから、あたしにも責任がある。ここでダイルに本当のことが言えたらどんなに楽だろう……。


 いっそ、正直に何もかも話してしまおうか。いや……、ダメ。そんなことはできない。また、涙が溢れてきた……。


 今のダイルは弱々しくて無力だ。今、この男に本当のことを話したら、きっと生きていく気力を無くしてしまうだろう。そうなったらダイルはこの世界では生きていけないかもしれない。だから今は本当のことを言ってはダメだ。ユウナさんはこの世界のどこかで迷子になっていると言うしかない。


 でも、恋人が迷子になっていると知ったら、ダイルはきっと行方不明の恋人を捜そうとするだろう。それなら、いつの日かダイルがもっと強くなったときに、レングランで結婚して幸せに暮らしているユウナさんに引き合わせよう。そして、その後どうするかはダイルの判断に任せるのだ。


 あたしがダイルを姉さんから引き取ったのは、せめてもの罪滅ぼしのため。ユウナさんが愛したこの男を強くすることで、あたしなりの償いをしたい……。


 それは償いのためでもあるけれど、あたしが自分を傷付けたくないためにしていることかもしれない。姉さんが見抜いていたように、異世界から来た男に興味もある。けっしてイヤらしいことを考えているのではない。


 この異世界人たちは初代の神族と同じ特質を持っているはずだ。だから、異世界人を育ててみたい。能力をどこまで高めることができるのか極めさせてみたい。そして、できれば自分の仲間にしたい。認めたくないけれど、そういう思いが自分のどこかにあるのだ。


 いや。ダメだ。見返りを求めてはいけない。


 あたしは……、自分の心の中を覗いて、また自分が嫌になってきた。懲りてない自分がここにいるから。


 今は余計なことを考えてはダメ。自分の欲望は抑えないといけない。だから、あたしなりに心を込めて精いっぱいの償いをしよう。ユウナさんのために……。



 ――――――― ダイル ―――――――


 アイラ神は目じりに溜まった涙をそっと拭って俺に顔を向けた。


「ユウナさんはあなたの婚約者で、召喚のときに一緒にいたのね?」


「そうだ。あのとき、優羽奈は俺と一緒にいたんだ」


「召喚魔法に巻き込まれた人たちには、この世界で生きていくのに十分な知識と財産が姉から与えられて、この世界で新たな生活を始めているわ。でも、ユウナという女性はその中にはいなかったのよ。後で分かったのだけど、召喚されてきた人たちの中で行方不明になった人が何人かいたの。その一人がユウナさんだと思う。魔法が完全ではなかったのよ。たぶん……、この世界のどこかで迷子になっているはず……。

 姉に代ってお詫びします。本当にごめんなさい……」


「迷子になってるって!? ごめんなさいでは済まされないだろ!」


 優羽奈が行方不明……。どうすれば……、どうすればいいんだ!?


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