013 ラストアタックで私がロードナイトになる
―――― フィルナ(前エピソードからの続き) ――――
私は一瞬で悟った。私が一緒だとダリナ先生は私を守りながら敵と戦うことになる。本来の攻撃ができないから先生は悲鳴を上げてテオドさんに知らせたのだ。
「仲間がいたのか? おい! あいつを殺せ!」
手下の半数、十人ほどがテオドさんに向かっていった。
「そっちの女がマイダールの娘だな? ということは、おまえはメイドか? いや、女の護衛だな?」
「違うと言ったでしょ!」
「よし、この二人を捕らえろ! 護衛もできるだけ傷付けるな。いい女だからなぁ」
イヤらしい男たち! こんな男たちにダリナ先生は絶対に負けない! 海賊たちはソウルオーブを装着しているかもしれないが、先生は魔力が〈150〉のロードナイトだもの。それにテオドさんも助けてくれる。なにしろ彼はダリナ先生よりもずっと強いそうだ。ダイルのほうは全然頼りないけど。
海賊たちは先生や私に向かって斧や剣を振り上げて威嚇してくるが、それほど怖くない。さっきまでは、あれほど怖かったのに。
脅しが効かないことに海賊たちは苛立ったのだろう。一人が先生目掛けて斧を叩き付けた。しかしその攻撃は先生のバリアが難なく弾いた。それを見た海賊たちが斧や剣で一斉にダリナ先生に攻撃を始めた。
先生も私も同じ場所から動いてない。先生は海賊たちが仕掛けてくるのを待っていたようだ。向かってきた相手をダリナ先生は剣で次々と突き倒していく。彼女は左手で私の手を掴み、右手は剣で相手の急所を一突きにしていた。
ダリナ先生の手の動きは、私にはほとんど見えなかった。速すぎるのだ。きっと魔法で体の動きを速くしているのだと思う。
海賊たちもそれに気付いたのだろう。五人が倒された後、残りの海賊たちは攻撃をして来なくなった。
「アニキ! こいつ、アニキと同じだ。魔闘士だぜ。とてもじゃないが、おれたちじゃ倒せない。アニキがなんとかしてくれ」
手下たちはリーダーに泣き付いて後ろに下がった。
「女に後れを取るとは情けないヤロウどもだ!」
アニキと呼ばれていた海賊のリーダーがダリナ先生に向かって剣を構えた。このリーダーは魔闘士らしい。つまり、先生と同じロードナイトだ。先生は勝てるだろうか? 私はちょっと不安になってきた。
そのとき、テオドさんが駆け寄ってきた。彼に向かっていった海賊たちを全員討ち取ったみたいだ。
「フィルナ。手を離すわよ。あたしはテオドさんと一緒にこの海賊たちを倒すから、あなたは自分でバリアを張って身を守りなさい」
「わかった。気を付けて! 先生」
私がバリア魔法の呪文を唱えるのを聞いて、先生は手を離した。と思ったら、一気に加速して海賊のリーダーの後ろに回り込んだ。相手の男はその動きに付いていけない。剣がバリアを叩く音がした後、よろけるように相手の男が倒れた。
たった数秒の戦いだった。それを見た手下たちは逃げ始めたが、ダリナ先生とテオドさんによってあっと言う間に倒されていった。先生はやっぱり強い。
「フィルナ、こっちに来て!」
ダリナ先生に呼ばれて、私は恐る恐る海賊たちが倒れているところに近付いた。
「このロードナイトは虫の息です。あなたがトドメを刺すのよ!」
そういうこと!? 先生は私にラストアタックを取れと言ってるのだ。
ラストアタックとは相手に最後の一撃を加えてトドメを刺すことだ。倒した相手が魔獣の場合は、ラストアタックを取った者だけが殺した魔獣のソウルをソウルオーブに格納できる。できあがったロードオーブを装着すれば、その者はロードナイトになり、格段の魔力を得ることができるのだ。
倒した相手がロードナイトの場合は、ラストアタックを取った者は相手のロードオーブに格納されているソウルを自分のソウルオーブに移し替えることができる。魔力はそのままの大きさで引き継がれるのだ。
つまり、目の前で死にかけているロードナイトを私が殺せば、この男がロードオーブに閉じ込めていたソウルは私のものになる。私もロードナイトになれるってことだ。
問題は、私がロードナイトになるには、自分の手でこの男を殺さなければならないということだ。それが私にできるだろうか?
海賊のリーダーは今は地面に倒れ伏して痛みのせいで悶え苦しんでいる。ダリナ先生に両腕と両脚の腱を切られ、腹を切り裂かれている状態だ。はみ出た内臓と溢れ出た血で無残な姿を曝している。殺すとしても、こんなに酷く傷付けなきゃいけないの?
「この男を殺して、あなたがロードナイトになるのよ! そして、あなたが殺そうとしているこの男の姿を目に焼き付けておくのです!」
私は頷いた。これは、先生がわざと私のためにやったのだ。そう直感した。
人には言えない事情があって、ダリナ先生は私の家庭教師となり、護衛も兼ねてくれている。小さいころから私は先生に厳しく育てられてきた。そして、今も先生は私に何かを教えようとしている。
「分かるわね? 弱いロードナイトはこうやって殺されて、ロードオーブのソウルを奪われるの。フィルナ、あなたがこの男と同じように無残な死に方をしないためには、あなたはもっと強くなるのよ。だから、目を閉じて殺しちゃいけない。しっかり目を開けて殺しなさい!」
私はもう一度頷いた。ダリナ先生からもらった短剣を右手に構えて、一歩ずつ男に近付いた。男はうつ伏せになってもがいている。
私は血だまりの中に跪き、力を振り絞って男を押さえ込んだ。右手の短剣を振り上げた。でも、そこで固まった。剣が振り下ろせない……。
本当に殺せる? 心の中で自分の声が木霊する。涙が止まらない。でも、私は目を閉じない! 絶対に自分に負けない!
反動を付けて短剣を男の背中に突き通した。短剣は革の上着を貫通して男の急所に突き刺さった。そのまま自分の体重を掛けた。返り血が顔に掛かったが、目は閉じない。
男は痙攣していたがやがて動かなくなった。
「やったわね。次はソウル格納よ。ソウルオーブを持ってソウル格納の魔法を唱えるのよ。呪文は覚えている?」
「いえ……、忘れてしまった……」
声が震えてかすれている。自分の声じゃないみたい。
ダリナ先生が呪文を教えてくれた。短い呪文だ。私がそれを唱えると、持っていたソウルオーブが金色に輝きだした。私は自分のロードオーブを手に入れたのだ。
「亜空間バッグに入っていた箱が出てきたわ。中を見てみましょ」
男が死んだから、男の亜空間バッグが解放されて箱が現れたのだ。手に持てるくらいの小さな木箱だった。先生が蓋を開けると、中には中古のソウルオーブが3個と大金貨が12枚入っていた。
「この木箱と中身はラストアタックを取ったフィルナの物よ。木箱は亜空間バッグの保管用として、そのままあなたが使えばいいわね」
こうして私はロードナイトになり、亜空間バッグも手に入れた。
きっと私は今の瞬間を忘れることはないだろう。このロードオーブの輝きとあの男がもがく姿を……。
――――――― ダイル ―――――――
海賊の一人が俺の方に走ってくる! それに気付いて、俺は慌てて立ち上がった。テオドが討ち漏らしたヤツがいたのだ。
そいつは後ろを振り返ってテオドが追ってこないことを確かめた。
「くそっ! とんでもなく強いヤツだぜ。仲間があっと言う間に殺られちまった」
ぼやきながら、その海賊は俺の前で立ち止まった。身長は190センチくらい。プロレスラーのような体格だ。
「オメェーもアイツの仲間か?」
斧を構えながら俺に問いかけてきた。なんて答えればいいんだ? 考えが浮かばないまま俺は剣を構えた。アイラ神からもらった鉄剣だ。
「おれに剣を向けるっつうことはオメェーは村の人間じゃねぇな。アイツの仲間らしいが、オメェーは弱そうだ」
そう言われてドキッとした。剣の構えから俺が弱いことが分かるのだろうか? そんなことを考えている場合じゃないのだが、現実感が湧いてこない。
髭面の海賊がニタッと笑った。と思ったら、いきなり「うりゃー!」と叫びながら斧を打ち込んできた。俺はその迫力に体が痺れたようになって身動きができない。




