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012 お嬢さん、そりゃとんでもない誤解だ

 誰かが俺の肩を揺すっている。


「ダイル! しっかりしろ!」


 テオドの声だ。あれ? 俺は気を失ってたのか……。


 目を開けると目の前にテオドの顔があって、その横からフィルナが覗き込んでいた。ダリナさんの顔も見える。


「大丈夫か?」


 テオドにそう言われて、自分の下半身が焼けるように痛いことに気が付いた。


 そうだった! 俺はさっきスキルを発動したときに、何かを間違って、こんな状態になったのだ。


「つッ! いや……、大丈夫じゃないみたいだ。痛いんだ」


「どこ? どこが痛いの? 見せなさい」


 心配そうな顔をしてフィルナが横から口を出してきた。


「ど、どこって……? 見たいのか?」


 俺は指で自分の痛い所を示した。


「そ……、そんな汚いとこ、見たいはずないじゃない!」


 フィルナは真っ赤な顔をしている。


「今から……自分のそこを調べる。おまえはあっちを向いてろ。見るなよ!」


「見ないわよ!」


 フィルナが向こうを向いたのを見定めて俺はズボンを下ろした。俺は目を疑った。自分のじゃないみたいに腫れあがっている。


 テオドも顔をしかめながら俺のを見て呟いた。


「これは酷いな。血もにじんでるぞ。キュア魔法を掛けたほうがいいな」


「そうね」


 フィルナが隣でコクコクと頷いている。


「おまえっ! な、なんで、見てんだ!?」


「見てないわよっ! 聞こえてきただけよ! だいたい、あなたが悪いんじゃない! あなたが誰を好きになろうと勝手だけど、私たちが見てる前であんなことするなんて、信じられないっ!」


「俺が何をしたって言うんだ?」


「そんなこと、口で言えるわけないじゃない! ともかく、あなたはテオドさんに恋焦がれていたんでしょ? それで、テオドさんに自分の恋人になってほしいと拝み倒した。テオドさんは拒絶したけど、あなたは彼の手を握って迫ったのよ。訓練に戻ろうとしたテオドさんを、あなたはムリヤリ押し倒して、そして彼のお尻を……、奪おうとした。そうでしょ!?」


 お嬢さん、そりゃとんでもない誤解だ。どうしてそんなストーリーになるんだ?


「それで、衝動を抑えきれなくなったあなたは、私たちが見ていることも忘れて無我夢中で自分の欲望を果たそうとした。でも、発情のあまりズボンを脱がすことを忘れていたのよ。バカよねっ! 自分でも抑えが利かないまま暴走して、自分の大事なところを傷付けてしまった。そういうことでしょ? そういうことよね!?」


 俺は開いた口が塞がらなかった。フィルナの想像力にも呆れたが、彼女の言葉で俺が何を間違ったのか気付いたのだ。


 そうか!? そういうことなのか? あれは格闘技のスキルではなくて、そういうスキルだったのか?


 俺はテオドに目で尋ねた。テオドは俺が何を疑問に思っているのか分かったのだろう。俺の腫れたところや怪我の具合を調べながら頷いた。


「そうだ。おまえは間違ったんだ」


 テオドの頬がヒクヒクしている。可笑しさを堪えているのか? もしかして、俺の間違いを笑っているのか?


 やはり、そういうことか……。俺は間違ったのだ、スキルの選択を。


 俺が悪いのか? いや! あんな技をスキル登録しているテオドが異常なんじゃないのか!?


 フィルナとダリナさんがそばにいるので、スキルのことは口にできない。テオドを問い詰めることもできない。


「ま、ちょっとした狂いはあったが、発動したな」


 テオドは頬どころか鼻の穴までヒクヒクさせている。そんなに俺の失敗が可笑おかしいか? しかし、テオドの言うとおりだ。スキルの選択は狂っていたが、スキルは正しく発動したようだ。


「そうよ。テオドさんの言うとおりよ。ダイル、あなたは狂って発情したのよ!」


 フィルナは完全に誤解している。


「でも、フィルナ。あたしたちがこの男から襲われる心配は無さそうね。なにしろ、こんなに腫れあがっていては、当分は使えないでしょうから。それに、この男が恋焦がれている相手はテオドさんですからね」


 ダリナさんが俺のをじっと見つめたまま言った。あんたまで、そんなことを言うのか……。


「うっ、酷い誤解だ……」


 俺は痛さに呻きながら抗議した。


「そうよ。先生ったら、それは酷い誤解よ。この人は危ないわ。発情したら止まらなくなるみたいだから、腫れていても見境なく襲いかかってくるかもしれないわよ」


「たしかに、そうね……。テオドさん、この男へのキュア魔法は止めてください。腫れたところはそのままにしておいた方が安心ですから」


 俺は泣きたくなってきた。


「フィルナもダリナさんも俺を色気違いみたいに言うな! テオド、なんとか言ってくれ!」


「そうだな。フィルナさんもダリナさんもダイルには近付かない方がいいだろう」


 なんで、そうなる?


「やっぱり、そうなのね! ダイル! あなたなんか、その腫れたところに塩でも擦り込んでおけばいいのよ!」


 その言葉に俺はHPがゼロになるくらいのダメージを受けた。


 ………………


 その後、俺たちはフィルナたちと別れて行動することになった。フィルナに言わせると原因は俺だ。完全に誤解なのだが、俺のスキルのことは秘密だから説明できない。それがもどかしい。


 フィルナたちは同じ草地だが、俺たちから遠く離れた所に移動して訓練を再開した。俺はテオドにキュア魔法を掛けてもらったが、腫れが引くまでに数時間は掛かるそうだ。今はまだ痛くて歩くこともできない。


 今回の騒動は俺も悪かった。テオドに確認もせずにスキルを発動してしまったことが原因だ。それを反省した俺はテオドから各スキルの説明を受けた。スキル発動後のキャンセル方法はヘルプで調べた。なるほど、調べてみるものだな。スキルについて色々詳しく書いてあるぞ。


 俺は草の上で横になってヘルプでスキルの発動方法や訓練方法の確認を始めた。テオドも俺から少し離れた所で昼寝中だ。


 ………………


 どれくらい経っただろう。突然、悲鳴が聞こえて俺は目を開けた。俺はまた眠ってしまったようだ。下半身の腫れは治まったみたいだから、あれから3時間くらい眠っていたのかもしれない。痛みもほとんど消えている。


 さっきの悲鳴はフィルナたちだろうか? 彼女たちの方に目を向けると、男たちに取り囲まれているのが見えた。男たちは十人以上いるようだ。ここから200メートル以上離れている。


「ダイル、ここで待ってろ。バリアを張ってろよ。もし、攻撃を受けたら反撃して構わない。自分の身は自分で守るんだ」


 テオドは立ちあがって俺に剣を差し出した。俺がアイラ神からもらった剣だ。訓練の間はテオドに預けていたのだ。


 俺が剣を受け取ると、テオドはフィルナたちのところへ走っていった。俺はテオドから言われたとおりバリアを張って、見つからないように身を屈めた。男たちの様子をうかがうのだ。



 ――――――― フィルナ ―――――――


 突然に男たちが雑木林から現れた。人数は二十人くらい。走り寄ってくる。


 海賊なの!?


 ダリナ先生は私の訓練を見ていたが、すぐに行動に移った。私の手を取ってバリアを張ったのだ。さらに何やら続けて呪文を唱えている。


 男たちが私たちを取り囲んだ。どの男も髭面で大きな斧や剣を手に持っている。


 私は男たちのニヤついた顔を見ただけで足がすくんだ。


「おまえたちはマイダール商会の者だな?」


 リーダーらしき男がダリナ先生に尋ねた。


「違う。あんたたちは海賊か? もしそうなら殺す」


「ほう、おれたちを殺すと言ったか? れるものなら殺ってみろ!」


 それを聞いた先生はニコッと微笑んだ。


「キャーッ!!」


 ダリナ先生はいきなり悲鳴を上げた。私も驚いたが、男たちもその声に驚いたようだ。


「どうした!? 今ごろになって怖くなってきたのか?」


 リーダーらしき男が剣の柄に手を掛けながら先生に尋ねた。先生は落ち着いている。笑みも崩していない。余裕なの? 私が震えているのに……。


「大丈夫。あたしに任せなさい」


 ダリナ先生は私に小声で呟いた。そして、海賊のリーダーに向かってはあざけるように言った。


「怖くて声を上げたと思う?」


「アニキ、男がこっちに走って来やすぜ」


 海賊の一人が声を上げた。見ると、テオドさんが凄い速さで駆けてくる。


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