011 スキルの複写はポチっと押すだけ
テオドは怒っているようだ。スキルを複写させてほしいと頼んだことに何か問題があるらしい。
そうか……。神族や使徒は自動的にイージーモードになるとヘルプには書かれていたが、考えてみればアイラ神もテオドもメニューやヘルプが見えないからな。イージーモードで簡単にスキル複写ができることも知らないし、スキル複写ボタンも見えないわけだ。きっとハードモードの方法と同じような感じで、これまで苦労しながらソウルオーブへのスキル登録を行ってきたのだろう。
とにかく、ここは何としてもゴリ押ししよう。
「そうだ。あんたのスキルを複写させてほしい。俺は少しでも早く自分一人で婚約者を捜しに行ける能力を身に付けたいんだ。あんたが死に物狂いでスキルを登録したことは分かった上でのお願いだ」
「イヤだ! 絶対にダメだ!」
テオドは顔を真っ赤にして拒絶した。しかしここで諦めてはいけない。
「どうか……、どうかお願いします」
俺は地面に膝を付けて土下座して伏し拝んだ。
「あなた、何をしてるの!? テオドさんも、どうしてダイルにこんなマネをさせるの? 酷いじゃない!」
少し前から俺たちの様子を見ていたのだろう。フィルナ嬢が飛んできて、テオドに食ってかかった。
「いや、違うんだ。テオドは悪くない。俺が難しいことをテオドにお願いして困らせてしまったんだ。でも、俺はどうしてもテオドにその願いを受け入れてほしくて、こうやって頭を下げてたんだ。心配させてしまったなら謝る。ゴメン」
俺は立ち上がってフィルナ嬢に謝った。テオドは目を閉じて何か考え込んでいる。それを横目で見ながらフィルナ嬢は俺に話しかけてきた。
「ねぇ、ダイル。あなたって、少し変わってるよね。背が低くてヒョロってしていて、見るからに弱々しいことを言ってるんじゃないのよ。あなたの話し方や、あなたがアイラ神様の知り合いだったりするのが、普通の人と違うなぁって、そう思ったの。あなたって、いったい何者?」
え? 相変わらず言いにくいことをズケズケと遠慮なく言う娘だな。たしかに俺の身長は175センチで、テオドや船の船員たちと比べると背は低いし、ヒョロっとしている。でも、外見なんてそれ程大きな問題じゃない。要は中身だ。この世界で俺は中身で勝負するぞっ! で、俺が何者かって?
「たまたまアイラ神と知り合っただけで、俺は普通の人族だ。俺が変わってると言うのなら、おまえのほうがよっぽど変わってるぞ」
「ほら、アイラ神様のことを呼び捨てにしたりするでしょ。だから、あなたは変わってるって言うのよ。それにどうして私のほうが変わってるのよ?」
しまった! この世界では神族は人族から崇拝の対象になっていて、呼び捨てになんてしないはずなのだ。
「俺は田舎者だから、神族を敬うことなんて教わってないのさ。おまえが変わってると言ったのはナゼかって? それは大きな商会のお嬢さんなのに、こうして体を鍛えて自分で頑張ろうとしてるところ……、かな?」
「それのどこが変わってるのよ? それにどうして“おまえ”とか、そんな失礼な呼び方するのよ? 私は今まで誰からも“おまえ”なんて呼ばれたこと無いのよ」
たしかに……。どうしてフィルナ嬢を「おまえ」なんて呼んだのだろう? 俺の友達でも恋人でもないのに……。
「なんとなく、そういう呼び方がおまえに似つかわしい気がしたのさ」
俺の言い訳にフィルナ嬢は不満顔だ。「おまえ」って呼んでしまったのだから「嬢」なんて付けることもないな。今度から呼び捨てにしよう。
「仲良くお話し中のところをジャマするが、ちょっとダイルと話がある。フィルナさんは練習を続けたらどうかな?」
テオドの割り込みにフィルナはふくれっ面のまま練習に戻っていった。もともと俺とテオドの会話にフィルナのほうが割り込んできたのだが。
「スキルを複写する件だが、アイラ神様に念話で相談したんだ」
そうか。テオドが何か考えている様子だったのは、念話でアイラ神と相談していたのか。
「それで?」
「アイラ神様からは、ぜひ、スキルを複写させてあげてほしいと頼まれたよ。おれは心情的には苦労して登録したスキルを簡単に複写されるのはイヤだが、アイラ神様の頼みとなれば別だ。で、どうやって複写するんだ?」
よかった! アイラ神には感謝しなきゃならない。もちろんテオドにも。
「ええと、ヘルプには相手が承諾しているなら、その手を握ってスキル複写ボタンをポチっと押せばよいと書いてあるな。では、やるぞ?」
俺の問いかけにテオドが頷く。その手を握ってスキル複写ボタンを押した。
少し離れたところで訓練を再開したばかりのフィルナが、その動作を中断して、こちらをじっと見ている。それがちょっと気になるが、彼女にスキルの複写がバレルことはないだろう。
お! スキル一覧が出て「複写したいスキルを選択してください」というメッセージが表示された。すごいな。これ全部がテオドが持っている戦闘スキルなのだ。当然、俺はすべてのスキルを選ぶ。そしてボタンをポチっと押すだけでスキル複写が完了だ。
よし、これで複写できたはずだ。
あれ? 何も変わった気がしないぞ?
テオドの手を離して、スキル一覧を開いてみた。
おぉ! すごい! これまでは空っぽだったが、今はぎっしりスキル名が並んでいる。これ全部が俺の戦闘スキルになったのだ。テオドが何十年か何百年か分からないが、死ぬほど苦労して登録したスキルを俺は1秒も掛からないで複写してしまった。なんだかすごく申し訳ない気がするが、まぁ今は良しとしよう。
どれか試しに使ってみよう。ええと、どれがいいかな? 「急所ピストン突き」か。こっちの世界でもピストンなんて機構があるんだな。名前から推測すると敵の急所を連続攻撃する技だろう。これを試しにやってみよう。
俺はこのスキルを選択した。
……あれ? 何も起こらないぞ?
「テオド、スキルの複写はできたようだ。礼を言うよ、ありがとう。それで、試しに何か使ってみようと思ったんだが、発動しないんだ。どうしてだろ?」
「スキルを発動するには条件があるんだ。戦闘スキルの場合は、当然、敵となる相手が必要だ。仮想の敵を想定して空撃ちでの訓練もできるが、実戦のほうが効果がある。試しにやってみるなら、おれが練習台になってやるよ。どうだ?」
「おう、そりゃ助かる。ぜひ、お願いします!」
「練習台だからバリアも切って相手をしてやる。スキルを発動したら、おれをターゲットに選べ。よし! 掛かって来い!」
俺は木剣を正眼に構えて、さっきのスキルを発動した。相手にテオドを選ぶ。すると勝手に自分の口が動いて何かの呪文を唱えた。あ、活性化の魔法だ。体が軽くなって動き始めた。ソウルオーブの魔力でアシストされて俺の体が勝手に動いているのだ。きっとこの動きが「急所ピストン突き」の技なのだろう。逆らわずに動きに体を任せよう。
でも、なんだか予想と違う動きをしてるぞ? 俺の右手は持っていた木剣をポイと捨てた。どうして捨てるんだ? あ、そうか! このスキルは剣技ではないのだ。格闘技らしい。
テオドに向かって駆け寄る。すごい! いつもの俺より動きがずっと速い。
テオドの剣を掻い潜って、あっと言う間に後ろに回り込んだ。テオドの驚く顔がスローモーションのように見える。
背中に体を密着させてテオドを後ろから羽交い絞めにする。筋肉質のテオドの腕を俺の細い腕がガッチリ掴まえた。テオドの両腕は俺の腕で強く締められて、テオドはバンザイをしたかっこうだ。テオドの筋力に負けていないのはオーブの魔力のおかげだ。
しかし、何か変だ。俺の下半身が熱くなってきたぞ?
「おまえ……、なんの……」
テオドが何か喚いているが、なにを言ってるのか分からない。
お? 魔力のアシストで自分とテオドの体勢が変わっていく。左腕だけでテオドの両腕を締める形に移行して、俺の右腕はフリーになった。そうか、右腕で急所を突くのか!? しかし、このままだと本当にテオドを殺してしまうかもしれないぞ。
さらに体勢が変わっていく。俺の右脚が動いてテオドを跪かせた。さらに左腕と俺の体全体でテオドの上半身を地面に押し倒す。関節技が利いているのかテオドは身動きできないようだ。テオドはうつ伏せになって尻だけを上げていて俺がその上に伸し掛かっているかっこうだ。これは……?
変だ……。ぜったい変だ! 何が起こってるんだ? 俺の右手はテオドの胸のあたりを探っている。
なんと! テオドの胸を掴んで揉み始めた!? 革のシャツ越しにテオドの胸の分厚い筋肉をモミモミしているかっこうだ。
同時に俺の腰が前後に動き始めた。熱くなった俺の下半身がテオドの尻にガンガン当たって、すごいスピードで加速していく。尻を猛烈に攻め立てている。が、当たっているのはテオドの尻の堅い筋肉だ。しかも、テオドも俺も分厚い革のズボンを穿いている。俺の下半身が革に当たって痛い。無茶苦茶、痛い! これって!? 俺は何か間違ったのか? それも、とんでもない間違いを……。
「いたい! 痛いっ! いたいーっ!」
高速で前後する動きに耐えきれず俺は悲鳴を上げた。しかし、腰の動きは止まらない。
「お、おまえ、そのスキルは……」
下からテオドの声が聞こえる。だが、俺は下半身のあまりの痛さに、意識が朦朧としてきて理解ができない。
テオドが何やら呪文を唱えるのが聞こえた。薄れていく意識の中で俺が最後に見たのは口をアングリ開けてるフィルナの顔だった。




