010 スキルの登録はめっちゃ難しい
俺たちは昨日と同じ草地で剣の訓練を行った。テオドが亜空間バッグから取り出した木剣を使って、剣の握り方や基本的な型を教えてもらった。木剣は俺がアイラ神からもらった片手剣と同じくらいの重さに調整されていた。
「体が自然に動くようになるまで、繰り返し練習するんだ」
はいはい。俺は心の中でテオドに返事をしながら基本の型を繰り返した。隣ではフィルナ嬢もダリナさんに指導してもらって同じように練習している。
型に沿って木剣を振っているうちに腕が痛くなってきた。強くなるためには我慢して続けるしかない。それに、これくらいでフィルナ嬢より先に音を上げたら男がすたる。男はつらい。
しかし待てよ。たしか、ソウルオーブのヘルプに、イージーモードであればオーブへのスキル登録が比較的簡単になると書かれてあったな。これを使えば訓練に掛かる時間を大幅に短縮できるかもしれない。もっと早く強くなれるかもしれないってことだ。
俺は反復練習をしながらソウルオーブのヘルプを読んで、スキルのことを詳しく調べ始めた。
スキルについては概要は知っている。以前にもヘルプでざっと調べたことがあったからだ。でも詳しく読むともっと色々分かってきた。
スキルを発動すると、ソウルオーブの魔力と制御機構によって技の動作がアシストされ、スピードや威力、正確性がアップする。その技のスキル値は何倍か何十倍かに増幅されるのだ。ただし、事前にその技をスキルとしてソウルオーブに登録しておかねばならない。ソウルオーブへは武器や魔法の技能だけでなく、戦闘や鍛冶、裁縫、調理などの様々な技をスキルとして登録できるらしい。ハードモードの場合、スキルを登録できる確率は非常に低いとヘルプには書かれていた。
これは逆に言えば、イージーモードであればスキルの登録は簡単ということだ。つまり、俺なら簡単にスキルを登録できるってことだよな?
では、自分の技をソウルオーブにスキルとして登録すると、そのスキル値はどれくらい高まるのか。スキルを何も登録していないときと比べて何倍高まるのかを現した数値をスキル増幅係数というらしい。
スキルに関する計算式がヘルプに書かれていて、「スキル増幅係数=族値+スキル登録数」とある。
族値は人族であれば“1”、エルフなどの亜人であれば“2”だそうだ。亜人は優遇されているようだ。ちなみに魔族は“0”であり、冷遇されているってことだろう。スキル登録数というのはその名称のとおりで、ソウルオーブにスキルを何個登録しているかという個数だ。
計算式が出てくると何だか頭が痛くなるが、ちょっと我慢して自分の場合で考えてみよう。もし俺が何かスキルを1個登録できたとすれば、俺は人族だから族値は1。スキルの登録数は1個目だから1だ。と言うことは、スキル増幅係数は1+1で2となる。つまり、初めてスキルを登録できた場合は、スキルを何も登録していないときと比べるとスキル値は2倍に上がるということだ。
もし2個目のスキルを登録できたとすればスキル増幅係数は1+2で3となる。計算は簡単だ。
これは……、もしかすると1個目のスキルもスキル値が3倍になるということだろうか。そう思って、ヘルプを詳しく調べてみた。どうやら当たりらしい。
例えば1個目に登録したスキルが“剣”の技能で、2個目のスキルが“燕返し”という必殺技だとしよう。2個目の“燕返し”という必殺技を登録できたときに、1個目で登録した“剣”のスキルもスキル値が3倍になるということだ。これは美味しい。
このヘルプを信じて、スキルの登録数をどんどん増やして、スキル増幅係数を高めていけば、登録したスキルはがんがん上がっていくことになる。
ヘルプにはスキルを登録できた場合も訓練を繰り返して技の習熟度を高めればスキルは一層高まると書かれている。スキルの高さは技の習熟度とスキル増幅係数との掛け算になるらしいが、苦しい訓練を続けて習熟度を高めるよりもスキルの登録数を増やした方が楽にスキルが上がるのではないだろうか?
もしそうであれば誰もがスキルをどんどん登録して、みんなが超人のようになっていくはずだけど、そんなふうには見えないぞ?
ヘルプをさらに読むとその理由が分かった。スキルの登録は極めて難しいらしい。しかもスキルの登録数が多くなるほど登録が困難になると書かれている。
登録できるスキルの最大数も30個までと制限されていて、それを超えてスキルを登録しようとすると、既存のスキルが上書きされるそうだ。
スキルの登録は難しいのか……。だけどイージーモードであればソウルオーブへのスキル登録が比較的簡単になると書かれてあったはずだ。ソウルオーブへのスキルの登録方法をもう少し調べてみよう。
まずハードモードのスキル登録方法を見つけた。その方法は二つあるそうだ。一つ目は、誰かに師事して技を指導してもらったり、自分で工夫した技や自分の体に身に付けている技をスキルとしてソウルオーブへ登録する方法。この場合の登録の成功確率は極めて低いらしい。
スキル登録の困難性について、ヘルプにその参考例が書かれていた。登録したい技の反復練習を毎日5時間ほど繰り返して、練習が終わればスキル登録の呪文を唱える。それを半月~1か月ほど続ければ初めの1個目のスキル登録が成功する。2個目のスキル登録には1か月~3か月ほど掛かり、3個目は3か月~半年くらいで、4個目は半年から1年掛かるそうだ。
まぁ、4個目くらいまでなら何とか頑張れるかもしれない。
だが、5個目は1年から2年、6個目は2年から3年というように、スキルの登録数が増えていくほど成功するまでに時間が掛かるようになる。仮にこの反復練習を毎日続けたとして、10個のスキルを登録するには20年から30年くらい掛かることになるらしい。
10個のスキルを登録するためにこんな方法を毎日30年間も続けるってどんだけストイックな奴なんだ。俺には絶対無理だ。
二つ目の方法を見てみよう。それはスキル複写の呪文を唱えて、死人からスキルを複写する方法だ。この方法が使えるのはスキル保有者が死んだ直後で、そのソウルが体に留まっているときに限られる。親や師匠が死んだ場合に、その子供や弟子にスキルを継承するために設けられている方法らしい。スキルが複数ある場合は複写の成否はスキル毎に決まるそうだ。スキル複写がすべて失敗する場合もあるが、それでもスキル登録の成功確率は先の一つ目の方法よりは高いと書かれていた。なお、死人からスキルの複写をできるのは1回だけで、失敗したから再度やり直すとか、別の者がスキル複写をするとかはできないようだ。
この二つ目の方法は要注意だ。親や師匠が死んだ場合と書かれているが、スキルを奪うために誰かを殺そうと考える者がいるかもしれないからだ。スキル保有者は命を狙われる危険性があるってことだ。この世界ではマジで「油断」が命取りになりそうだ。
とにかくハードモードの場合はどちらの方法でもスキルの登録はめっちゃ難しいと分かった。
「ダメッ! 無心よっ! 無心になりなさいっ!」
隣ではフィルナ嬢がダリナさんに発破をかけられている。彼女も俺と同じように木剣を振っているが、ヘロヘロなところも俺と同じだ。ときどきチラチラとこっちを見るから、どうやら俺と張り合っているらしい。こちらが訓練を止めるまで続けるつもりのようだ。意地っ張りなお嬢様だ。
俺も腕が痛いが、我慢して続けるしかない。
いや、待てよ……。スキルを登録すると、訓練がもっと楽になるかもしれない。俺はイージーモードだからスキルの登録も簡単だろう。
ええと、イージーモードでのスキル登録についてはヘルプのどこに書かれているんだろうか?
腕が痛くて上がらなくなってきたころ、その説明を見つけることができた。
それを読むとイージーモードでのスキル登録は簡単だと分かった。相手の承諾さえもらえば、スキルを完全に複写できるそうだ。その場合の成功率は100%だ。スキル複写後に反復練習をして習熟度を上げればスキルをさらに高めることができると書かれていた。この場合のスキルの複写方法は、スキル複写の呪文ではダメで、メニューの中のスキル複写ボタンをポチっと押すだけのようだ。
俺はこれだな。よし、やってみよう。
「テオド、ちょっと相談したいことがあるんで、こっちに来てくれるか?」
俺は木剣での反復練習を止めて、テオドを引っ張って草地の片隅に移動した。フィルナ嬢も俺が練習を中断したのを見て、ヘナヘナと地面に座り込んだ。
「テオド、頼みがあるんだ。あんたのスキルを俺のソウルオーブに複写させてもらえないか?」
イージーモードならスキルの複写ができることをテオドに説明した。フィルナ嬢たちには聞こえないように小声で話をしている。
「そんな反則技があるのか!? そもそも、ソウルオーブへのスキル登録というのは死ぬような思いをして成し遂げるもんだぞ! 同じ動きを何万……、いや、何十万回も繰り返して体に技を覚え込ませるんだ。それに数えきれないほどスキル登録の呪文も繰り返さなきゃいけない。ずっと失敗が続いて諦めかけた頃にスキル登録ができるんだ。それだけやっても、登録できない者も大勢いるんだぞ。
おれだって、神族の使徒ではあるが、スキルの登録は死に物狂いでやってきた。それを……、スキルを複写させろだとぉっ!?」
いつもは冷静なテオドが真っ赤な顔をしている。




