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荒れ鷹  作者: 雷華
≪第1部 黒い影≫
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【結束の章】

「あ…あのっ!私達、剣士を捜してるんですっ。

 良ければ、一緒に来てくれませんか?」


 時間は少し遡り、荒野へ入る許可をもらい、ミティーが「鷹ノ巣」を去った直後のことである。ミティーとほぼ同時に登録を終え、2階から降りてきた2人の青年は、どちらとも無く声を掛けて来たその女性を前に立ち止まった。後にミティーと行動を共にする銀髪の青年─クライシュードは怪訝そうな表情を返し、興味がないのか、何も答えずに真っ直ぐ出口へと向かう。

「一緒に…って、何だよ、女だけしかいないじゃないか。

 危ないなぁ…。

 女だけで荒野に入ろうってのに、見て見ぬ振りなんてできるはずないじゃないか」

何も聞かなかったように去って行ったクライシュードとは対照に、黒髪の青年は4人の女性達を一通り見回すと、笑顔を浮かべる。

「俺は“ティバロ・オターカ”、お望み通り『荒れ鷹』の剣士だ。

 剣の他に魔弾銃も使うけどな。

 よろしく頼むよ。…あー…っと?」

「“セフィーク”、“セフィーク・クーシオ”ですっ。

 よろしくお願いします、オターカさん!」

嬉しそうにセフィークは名乗った。自らの憧れる「荒れ鷹」であり、捜し求めていた剣士であるティバロの登場は、彼女にとって、最高の人材である。

 ちなみに、ティバロの持っている魔弾銃とは、魔法の力を銃の弾丸に込め、それを打ち出す特殊な銃のことである。ティバロはジーンズ、白いシャツというラフな格好に、冒険者特有のベージュ色の膝丈ほどもあるコートを着ていた。魔弾銃はそのコートの裏にホルダーがあり、そこに差してある。

「セフィちゃんか…。後ろの方々のお名前は?

 これから一緒に行動するのに、名前も知らないなんて、笑えない冗談だ」

セフィークの後ろで特に口出しする様子も無く、おとなしく見守っていた3人の女性は互いに顔を見合わせた。

「私、“ユーク・カーウィン”と言います。

 黒魔法なら任せてください。

 それと、女4人の中に入るからには、…解ってますよね?」

にっこりと人当たりのいい笑顔を見せつつ、ユークは、変なことを考えるんじゃねぇよ、という意思を目で伝えていた。

「……あ…あぁ、よろしく…」

すらりと長い指がきれいな、ユークの握手を求める手を握り返し、ティバロは引きつった笑みを浮かべた。

「アタシは“マティーナ・アミカ”。

 盗賊って言う奴が多いけど…。

 できればトレジャーハンターって言ってくれると嬉しいかも。

 短剣の扱いなら自身あるよ。飛び道具は百発百中だし…。

 それに、素早さ!身が軽いって言うのかな?

 まぁそんなとこ。よろしくね~」

はきはきと喋るマティーナとも握手し、ティバロは最後の一人を見る。

「あ…私は“ライナ・ノーク”です。

 でも…ライナよりもレイナって呼ばれる方が好きです。

 …何となく呼び方がかっこいいから。一応弓使いなんだけどぉ…。

 たまーに的を外しちゃいます。私の前にいるときは気を付けてね。

 あと、私を街中とかで一人にしないでください。迷います、確実に。

 自他共に認める方向音痴なもので…」

この時、握手をしながら微笑んだティバロが「こいつが攻撃するときには前に出ねぇぞ」と誓ったことは言うまでも無い。

「それで、出発はいつにするんだ?

 俺はいつでもいいから、セフィーちゃん決めてくれよ」

ティバロに促され、セフィークは困った。声を掛けたものの、いつ出発するかなど決めていなかったのだ。

「え…?わ…私が決めるんですか!?

 えと…じゃあ…明日…かな?

 私今日来たばかりだから…」

控えめに発言するセフィークに、ティバロは大きく頷き、悪戯めいた敬礼をした。

「解りましたっ、隊長!

 明日から我ら『荒野の調査隊』の活動開始ですね!」

「えぇっ!?『荒野の調査隊』って何ですか!?しかも隊長って…」

本気になって狼狽するセフィークに、ティバロは笑った。ちょっとした冗談だとセフィークをからかおうとしているのだ。

「面白そうだねぇ。

 セフィーちゃんは私らを集めたから隊長で、私らは平の隊員ってことで」

ほんの冗談にユークが乗り気になると、マティーナとライナも笑いながら頷いた。

「うん、おもろいよそれ。採用。

 ティバロ君、君はいいことを言うね」

どんどんと話が進む中、最初に言い出したティバロは呆れた様子で話を盛り上げる3人を見ていた。そして、もう二度と彼女達の前で下手な冗談は言わないと、反省すらしていたのだった。

 「鷹ノ巣」に用意されている部屋は「荒れ鷹」の増加により一部屋に5~6人が入るようになっていた。「荒れ鷹」がまだ少なかった頃は一人一部屋を割り当てても部屋が余る程だったが、今では部屋数が足りなくなる始末である。だが、ほとんどの「荒れ鷹」は一人では行動せず、何人かで組んで荒野に入るので、その組-パーティ毎に部屋を割り当てるようになった。

 3階から5階が宿になっている中で、間の4階には食堂も完備されていた。ただし、そこでの食事は朝以外は有料となっている。完全に無料で宿・食事等を提供できるほど、町の情勢が良いわけではないのだ。その食堂とは別に、酒場も同じ4階に設置されており、「荒れ鷹」達が戦いの疲れを酒で吹き飛ばすこともしばしばあるようだ。

 そんな「鷹ノ巣」の5階に、セフィークたちの部屋が割り当てられた。セフィーク、ユーク、マティーナ、ライナ、ティバロの5人組ということで申請し、一つの部屋にしてもらった。女所帯に男が一人と偏った組編成だが、誰と組もうが自由なので、申請は簡単に受理してもらえる。

 部屋が決まると、5人は早速そこへ向かった。部屋に入ると、5階ということもあり、窓からの景色が中々のものだ。ただ、海側の部屋ではないので、一望できるのは広大な荒野だけだったが。

「わぁ…けっこう広いね~。荒野も見渡せるよ」

部屋に入るなり、セフィークは窓へと向かった。

「もっと汚いかと思ってたけど、まぁまぁやん」

小奇麗な部屋を見回しながら、ユークがそれなりに満足そうに言うと、マティーナもそれに頷いた。

「そだね~。あんまキレイなイメージなかったから、ちょとびっくり」

早い者勝ちの如く、各々が寝台を選び、その上に荷物を置く。部屋にある寝台は6つで枕は壁側に置くよう統一されていた。奥から順に、セフィークとユーク、ライナとマティーナ、そして、一番手前がティバロに決まった。更に、用意されていた衝立をティバロの寝台の横に置き、女達とを区切る。

「…ちっ…用意がいいじゃねぇか…」

悔しそうに呟きながら、ティバロは横目でついたてを睨み付ける。女達には聞こえないように呟いたつもりだったが、静かな部屋の中では筒抜けになってしまっていた。

「当り前じゃないか。何を言っているんだね?君は」

ついたてと言っても、それ程大きいものではなかった。寝台の長さ分しか横幅はないし、高さも2mほどしかない。そんなついたてを挟んで、ユークは呆れたように返した。

「言われなくてもわぁってるんだ、んなことは!

 ちょっとしたネタじゃねぇかよ。ネタ!」

本気にされては困ると、ティバロが反論するも、疑わしい目でユークとマティーナが睨み付けている。ティバロはそんな女どもに溜息をつくことしかできなかった。

「さて、個人個人で休む前に、明日について話しておこうか」

ティバロからセフィークに視線を移し、ユークがそう提案すると、セフィークも嬉しそうに頷いた。

「うん!楽しみだね~。まずはどこ行こうか?」

笑顔でそんなことを言うセフィークに、皆は沈黙してしまった。彼女が一体何を目的として荒野を目指しているのかがまったく理解できない。

「…あのさぁ…セフィーちゃん?」

「え…?何?」

「…君は何をしたいんだい?荒野に入る目的は?」

ティバロは正直に言うと、個人に立ち入ったことを聞くつもりはなかったし、それに干渉しようとも思っていなかった。だが、彼女はあまりにも無防備で、危険な荒野へと赴くというのに、計画すらない状態だ。さすがに、彼の性分からも放っておけるはずもなかった。

「え…?…面白そうだから…?」

再び沈黙が訪れる。

(こいつは危険な場所だってことを解ってるのか!?)

頭を抱え、ティバロは大いに悩んだ。

「…解った。それじゃあ、明日は近場から攻めて行こう。

 慣れない荒野の奥へ入るのは厳しいだろうからな。

 …俺は以前に来たことがあるから、案内は任せろ」

前途多難だと思いながら、ティバロは立ち上がった。

「あれ…?どこか行くの?オターカくん…」

「ティバロだ。“オターカ”の方で呼ばれるのは好きじゃない。

 んで、そっちで呼んでくれるとありがたいかなぁ。

 本題の行き先だけど、ちょっと飯を食いに行こうと思ってね」

一度寝台の上に置いた剣を取り、ティバロは扉に向かった。

「え?え?どうして?食堂は…?」

「…俺は食堂の飯は…好きじゃないんだよ」

苦笑すると、ティバロは部屋を出ていった。食堂の料理が口に合わなかったらしい。

「あ…あ、待って~。私も行くよ」

「セフィーちゃん、行くの?じゃあ、みんなで行こうか?」

「うん!」

ライナの提案に、セフィークはとても嬉しそうに笑った。皆は急いでティバロの後を追う。幸い、ティバロは「鷹ノ巣」を出てすぐの所で捕まえることが出来た。

「…何なんだい?君達は…」

呆れた表情で呟くティバロに、セフィークは相変わらずの笑顔で話し掛ける。

「一緒に食べよう?ティバロくん!」

「……ハァ、隊長命令には逆らえません」

苦笑するティバロに、セフィークは何度か瞬きをする。

「え?隊長命令?…私そんなつもりじゃ…」

困惑するセフィークの反応に、皆は笑い声を上げた。

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