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荒れ鷹  作者: 雷華
≪第1部 黒い影≫
3/38

【仲間の章】

 「鷹ノ巣」は3階以上が宿泊所として使えるのだが、3階へ行くにはそれ専用の階段を昇らなければならない。その階段は、1階の受付横にあるが、2階へ行く階段とは別なのだ。よって、3階へ行く者は2階で登録を済ませた後で、1度1階に降りなければならない。

 ミティーが登録を済ませ、1階に降りてくると、そこには登録を済ませた人々が幾つかの輪を作って話し込んでいた。特に興味を持たなかった彼女は、何も考えずにその横を通り過ぎようとした。

「あっ!あのっ、すみません!」

小刻みに走り寄る女性に、ミティーはとりあえず、足を止める。その女性は薄水色のワンピースを纏い、同色のボレロを羽織っていた。その手には杖を持っており、ひ弱な感じからも、彼女が魔法使いであることは明白だった。こげ茶色の髪は肩に掛からない程度の長さで、前髪が少し目に掛かっている。瞳も髪と同色で、優しい輝きを放っていた。

「…何か用ですか?」

うっすらと笑みを浮かべ、ミティーが聞き返すと、その女性は少し戸惑った表情で、口を開いた。

「あ…あの…その…、よければ、一緒に来てくれませんか?

 私、魔法使いなんですけど白魔法しか使えなくて…。

 ここにはたくさんの人が来ると解ってたので、仲間を捜してるんです」

呆気に取られた表情で、ミティーは女性を見つめた。確かに、この「鷹ノ巣」に来れば同じ目的を持った仲間が大勢訪れるだろう。だが、それであっても、攻撃する術を持たない白魔法使いが一人で荒野に踏み出すということは、あまりにも無謀だった。

 白魔法というのは、個人に眠る自然回復力を最大限に引き出し、一瞬のうちに傷を治してしまう回復魔法や、自然の力を借りて浮遊したり、瞬間移動をしたりする補助魔法を得意としている。攻撃魔法も全くないわけではないが、それを扱えるのはごく一部の人間である。

 魔法使いは扱う魔力石によって魔法の種類が異なり、黒水晶は黒魔法を、白水晶は白魔法が扱える。その女性の手に握られている杖には白水晶が光っていた。彼女が特別な存在でない限りは向かって来る敵をなぎ倒す攻撃魔法を使うことは出来ない。

「…後ろにいるのは…仲間じゃないんですか?」

彼女はすでに何人かの仲間を集めていたらしく、彼女を見守るように3人の女性が立っている。内気なのか男性と話すのが苦手なのかは解らないが、彼女は女性にだけ声をかけているらしい。

「あ…そうです。黒魔法使いと弓使いと盗賊なんですけど…。

 剣とか直接攻撃の出来る人がいないんですよ」

にっこりと笑顔を見せる彼女に、ミティーは頭を抱えた。いくら本当のことでも、せめて“短剣使い”とでも言えばいいものを、正直に“盗賊”と言う彼女に返す言葉が見つからない。

「…あの…どうかしましたか?」

そして、当の本人は解っているのかいないのか、きょとんとミティーを見つめている。

「い…いえ…。でも、私、武器を持ってるように見えます?」

両手を肩の高さまで上げ、ミティーは苦笑した。

「…あ…。で…でも、武器も持たずに荒野に行くなんて無謀ですよ」

白魔法のみでここまで来た君に言われたくはない、などとも言えず、ミティーは右腕の腕輪を見せた。

「これ、ここに付いてる石は魔力石なんです。だから、私は魔法使い。残念だけど…」

女性は驚いたようにミティーを見つめ、残念そうに視線を落とした。

「そうですか…。あ…でもでもっ、一緒に行きませんか?

 せっかく同じ目的の元に集まったんですしっ」

「…同じ目的…?あなたの目的は何ですか?」

ミティーは顔から笑みを消し、真剣な眼差しを向けた。

「私『荒れ鷹』に憧れてて…。荒野の遺跡を見て回りたいんです」

彼女が言い終わると同時に、ミティーは出口の方へと踵を返す。

「生憎ですけど、私は『荒れ鷹』が嫌いなんです。

 …『荒れ鷹』で戦士なら、今、上から降りてきますよ、きっと」

「荒れ鷹」に憧れる人と行動するなどとは冗談にも言えない、とミティーは女性が止めるのも聞かずに出口へと歩き出した。

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