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荒れ鷹  作者: 雷華
≪第4部 悲しみと憐れみと憎しみと…≫
28/38

【斬撃の章】


「それで?具体的にどうするつもりさ。えーと…クライス?」


 砂に埋もれた遺跡の入り口の前に、3人は立っていた。クライシュードはマティーナを一瞥すると、懐に手を入れる。

「『道』を作ればいいだけだろ?切り開くのが手っ取り早い」

取り出すのはやはり「ブレイド」だった。すぐに光の刃を出さず、クライシュードは一度中に入れた筒を取り出し、違う筒を入れた。それは今まで入っていた黄色のものではなく、緑色のものだった。

「…うーん…それ、どっかで見たことあるんだけどなぁ」

ふと、クライシュードが作業をしている横からライナが口を挟むと、彼は驚きのあまり手を止めた。

「見たことがある!?それは本当か!?いつ見た!?

 誰が持っていた!?そいつは知り合いだったのか!?」

いきなりまくし立てられ、ライナは狼狽してしまった。クライシュードは咳払いをすると、再度尋ねる。

「これと同じものを持っていた奴がいたのか?」

そうそう同じものはないだろうと思っていたクライシュードはライナの証言に期待した。

「うーん……。あ!そうそう!うん、それだよ!それ!

 確か…一つしかないはずだよ、それ!

 以前、会った人がそれ持ってて自分が作ったやつだって。

 世界に一つしかないんだよって、自慢してたもんっ」

やはりそうかと、クライシュードは小さく溜息を吐いた。この「ブレイド」が二つ以上あれば、他の道が見えると思っていたのだが、想像していた通りの展開に、少し落胆している。

 ライナの証言から導き出せる答えは一つ。ミティーの言っていたことも照らし合わせて、1人の人物が浮かぶ。恐らく、ライナが会ったという人物も、同じはずだった。

「それは…どんな奴だった?」

「んーっとねぇ…。背は私よりは高かったかな?

 スラッとしてるわけでもないし、筋肉隆々ってわけでもなかったんだけど…。

 んと、名前はね、確かぁ…」

クライシュードはその人物の姿形については興味は無かった。

「『ディアシス・ソイデューク』」

ライナが続いて口を開くと同時に、クライシュードも思わず呟いてしまった。

「あれ…?知り合い?…あ、そっか、だから持ってるのか」

マティーナが納得していることに特に否定もせず、彼はライナを見た。

「いつどこで会った?」

「いつだったかなぁ…?1年くらい前…?かな…。

 丁度、この辺だよ。イソロッパスの荒野。私、助けてもらったの」

1年程前─、イソロッパスの荒野─、ディアシス・ソイデューク─。

 そのキーワード全てが、自分の記憶と結びついている。クライシュードにはそんな気がしてならなかった。

「…ディアシスはどこへ行くと言っていた?」

「えー?解んないよぉ。昔の話だしぃ」

「思い出してくれ。大切なことなんだ」

すがりつくようにクライシュードが言うと、ライナは額に人差し指を当て、考え込んだ。

「…うーん……うーん……。あ、そうだ!

 詳しい事は言ってなかったけど、面白いものを見つけたって、喜んでたよ。

 この近くの遺跡に、古代の人達が残した魔機の遺産が残ってるらしくて。

 多分、そこに行ったんじゃないかな」

古代の魔機遺産、それはイソロッパスに限らず、多くの荒野に眠っているらしい。魔機や機械に興味を持つものならば、それを一目見たいと思うのは必然だった。ディアシスもその1人なのだろう。

 クライシュードは止めていた手を動かし始める。緑色の筒が「ブレイド」に挿入されると、彼はそれを構えた。柄からは淡い緑色の光が発せられる。それと同時に、クライシュードを取り囲むように風が巻き起こった。風は次第に強くなり、辺りに砂塵が舞い始めると、彼の手にある「ブレイド」は淡い緑色の刃を宿した。

「うわっ…すご…」

マティーナが驚いていると、クライシュードはそれを一振りした。それだけで風が吹き荒れ、その力の強さを物語る。

「この、魔機『ブレイド』っていうのは、魔力を剣の刃に出来るんだって。

 その元になる魔力が強ければ強いほど、威力も絶大。

 だから、今持ってるあの緑色のエネルギー…多分、属性は風だね。

 アレを提供した人は、かなり強い魔力持ってるってことだよ」

恐らくディアシスに言われたとおりに話しているだろうライナの言葉を耳に入れながら、クライシュードは作業に取り掛かることにした。

「…それで、クライスくん、どうするんだい?君は…」

「この入り口付近を両断する」

「はい!?」

クライシュードの言葉に、ライナとマティーナは声を揃えて聞き返した。だが、繰り返すことなく、彼は手に持った「ブレイド」を両手で構えている。

「で…できるの?そんなこと…」

「…さあな。やってみないと解らない」

地面の砂を踏みしめ、クライシュードは入り口があったであろう場所を睨みつけていた。既に、見守ることしか出来なくなっていたライナとマティーナは息を呑む。

「もっと下がった方がいいぞ。…巻き込まれたくないだろ?」

クライシュードに言われ、二人は慌てて後方に下がって行く。彼は両手でしっかりと「ブレイド」を握り締めると、ゆっくりと振りかぶった。風が止み、静寂が辺りを包む。

 次の瞬間、風を切る音が聞こえたかと思うと、振り下ろした「ブレイド」の剣閃が砂に埋もれた地面に、僅かに切れ目を作っていた。その切れ目は一瞬強い光を放つ。それと同時に切れ目から風が吹き出した。それは積もっていた砂を巻き上げ外へと散っていく。マティーナとライナもその余波を受けたが、両腕で顔を覆い、風が収まるのを待っていた。


  *    *    *    *    *    *    *    *  


 ときたま近付く機械音を警戒しながら、3人は張り詰めた空気の中、何かを待っていた。それが訪れるかどうかは解らないが、それしか道はない。少なくとも、彼らの結論はそこに至っていた。空気が薄くなっていないのが救いだと、3人はその場に座り込んだまま、俯いていた。言葉を交わせば、怒鳴り合いになりかねないからである。


 静寂、不安─

 機械音、恐怖──


 それらは苛立ちを生み、3人を狂わせようとしている。この状況を作った奴に対する怒りは、やがてその場にいる者へと向けられてしまうかもしれない。3人は、それにただジッと堪えるしかなかった。

 どれくらい時間が流れたのか、最早解る術はない。空は見えるはずもなく、遺跡は薄暗い。ここに入ったのは昼近かっただろうことは解っていたが、それからどれくらいの時を過ごしたのだろうか。ふと、風が渦巻くような音が聞こえた気がしたが皆は気にも留めない。いくら強い風が吹いたとしても、砂を全て飛ばすことはできないのだから。

「…おなか…すいた…」

小声で、セフィークが久方ぶりに口を開くと、二人が顔を上げる。そういえば、朝食をとってから、何も口にしていなかったなと、ティバロは溜息を吐いた。それから彼は腰に下げた小さな袋を地面に広げ始める。そこには木の実や乾物が転がっていた。非常用の携帯食料だろう。

「あんま、美味いもんじゃねぇけど、腹の足しにはなるだろ」

セフィークはそれを見て、嬉しそうに擦り寄ってきた。

「いいの?食べても…」

「食べなきゃ、何のための非常食だよ…」

聞き返してくるセフィークは満面の笑みを浮かべている。許しが出たので、セフィークは木の実に手を伸ばした。恐る恐る口に運ぶ。少し硬めの皮を破った瞬間に、甘酸っぱい果物の味が口の中に広がった。硬い皮の中は驚くほど柔らかく、口の中でとろけていく。

「これ、おいしいよっ。ティバロくんっ」

「そうかぁ?俺はちょっと遠慮する味だったが…」

「ほうほう…。これ、おいしかったんだ…。一個もらうね」

ユークも木の実を手に取ると、すぐに口の中に入れた。硬い皮を破ると、何とも言えない生臭さが広がる。思わず吐き戻しそうになったが、貴重な食料を無駄にはできないと、顔を歪めながらもユークはそれを飲み込んだ。その眼には涙が浮かんでいる。

「…せ…せーちゃん…?これ…本当においしかったの?」

「え…?うん。おいしかったよ?」

満足そうに答えるセフィークに、ユークは何度も首を横に振った。疑うわけではないが、お世辞にもおいしいとは言えない。

「生臭くない…?」

「生臭い?え?何で?甘酸っぱくて、口ン中でとろけて…すっごくおいしかったよ?」

ユークとティバロは顔を見合わせた。どうやら当り外れがあるらしい。幸せそうなセフィークを見ていると、何だか悔しくなり、ユークとティバロはもう一つずつ木の実を食べようと手を伸ばした。が、その時、2人は何かに気が付いたように手を止め、天井を見上げた。セフィークは思わず首を傾げる。

「っ…やば!早くここ離れよう!」

突然そんなことを言い出すユークに、セフィークは困惑した。ユークの慌て方が尋常ではない。ティバロも袋をたたみ、立ち上がった。

「それには賛成だ!」

セフィークには何が起こっているのかまったく解らなかったが、置いていかれても困るので、続いて立ち上がる。

「で…でも…どこに行くの…?」

「こっから離れればどこでもいいよ!早く!」

走り出すユークに、セフィークは慌てて付いて行った。そのさらに後ろをティバロが走る。砂に埋もれた入り口付近を離れてすぐに、その場所の天井が割れた。そこを離れて、自分達に被害が及ばないことを確認したユークは、立ち止まり振り返る。

 天井にできた小さな切れ目を見詰めていると、突然、強い風が吹き荒んだ。3人は前方からの風に押し流されないように力を入れる。風が吹き抜けると、今度はその切れ目が先程の風よりも強い力で周りの物を吸い込み始めている。入り口付近の砂が舞い上がり、視界は悪くなっていった。強い力で吸い寄せられていく砂と共に、自分達も引き寄せられているのが解ると、3人は壁に何とかしがみつき、耐えているものの、その状態は長くは続きそうにない。

「何なんだよ…!ったく!」

悪態をつくティバロに、ユークとセフィークは答える余裕もない。段々と風が収まっていくと、視界も晴れ、現状が明らかとなった。入り口付近にあった砂は、以前そこにあった階段が見えるほどにまで減っていた。

 階段にはまだ高く積もっている砂があり、このままでは出ることはできない。しかし、階段の奥からは光が漏れていた。どうやら、先程の風が砂をほとんど巻き上げてしまったらしい。再び積もる前に、ここを出る必要があった。

「よっしゃ!光が見えるぞ!これなら、吹き飛ばせる!」

そう言って、ティバロは懐から魔弾銃を取り出した。緑色の弾丸を装填し、彼は銀色に光る魔弾銃を構える。

「ちょっと下がってろ」

2人に下がるように言ってから、それを見届けると、ティバロは引き金を引いた。銃口から勢いよく飛び出した弾丸は、己の周囲に風を渦巻いていく。それが砂の山に突き刺さると、その場所から砂柱を上げた。それと同時に巻き起こった風が、砂をも乗せ外へと吐き出していった。

「やったぁ!出られるんじゃない?」

文字通り飛び跳ねて喜ぶセフィークに、ユークも安心したように溜息を付いた。ようやく見えた遺跡の入り口からは、弱い光が漏れている。その光が赤みを帯びていたことから、外では陽が沈みかけていると感じられる。

 この暗い遺跡から出られるのなら、今は多くを望まない。まずは出ることを最優先にしたい。3人はそう思いながら、その入り口をしばし見詰めていた。

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