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荒れ鷹  作者: 雷華
≪第4部 悲しみと憐れみと憎しみと…≫
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【残影の章】

 静まり返った通路には、冷たい石畳の上をドロドロと流れる赤い血と、生々しくこびり付いた肉片とが残っていた。それをできる限り見ないようにしながら、セフィークは口惜しそうに拳を握り締めているティバロを見つめている。ユークはそのまま動かない二人に対して、何度目かの溜息を吐いた。

「いつまでここでこうしてるわけ?」

陰鬱としているこの通路から早く離れたいがために、ユークは2人に言葉を投げかけた。

「ゆーちゃん…」

セフィークには、何故こんなことになったのか解らなかった。何故ティバロはミティーを斬ったのか。何故ティバロはミティーがあの男の人を殺したと言うのだろうか。何もかもが疑問で埋め尽くされていく中、ユークが突然背を向けて歩き出した。

「ボクはもう戻るよ。まーちゃんもれーちゃんも待ってるからね。

 いたいなら勝手にすればいいじゃん」

ユークの冷たい言葉に、セフィークは戸惑う。

「そ…そんなこと言っちゃだめだよぅ。ティバロ君は…」

「ボク達はティバロくんの部下じゃない。家来でも召使でもない。

 過去に何があったか知らないけど、事情も話そうとしない。

 何も知らないボクらが、それに巻き込まれる必要なんてないし。

 そんなに、フェニーシアとかいう人が大切なら、抜けてくんない?

 はっきり言って迷惑。邪魔。チームプレイを乱しまくってんだよね、君。

 いくら前衛で戦うからって、偉いわけじゃないんだよ。解ってる?

 よーするに、ボクらはキミの『仲間』じゃなかったってコト」

淡々と正直な言葉を吐き捨てていくユークに、セフィークは困惑した表情を返す。

「ゆ…ゆーちゃん!?」

ティバロはようやく顔を上げ、ユークを見る。

「…ま、せいぜい頑張ってよね。ボクはもう付き合ってらんない。

 こんなことする為にここまで来たわけじゃないし」

「ゆーちゃんは『古代の魔道書』を探してたんだっけ?」

さりげなく話題を振ってみたセフィークに、ユークは頷いた。

「そうだよ。『竜を守る一族』が持っていたって言われてる。

 魔力の強かった『竜を守る一族』だからこそ使えた魔道書みたい。

 古代の魔法がズラリと書かれてるって話だけど…」

「『竜を守る一族』…かぁ…。…ん?…あれ?

 …『竜』っていえば、今回のこと…『竜』がいっぱい関わってるよねー」

ふと気が付いたようにセフィークが呟くと、ユークは少し考え込む仕草をしてから、頷いた。

「そういえばそうだね。そして、その全てが…」

「あいつに…ミティー・フェン=シューコアにつながってるってわけだ。

 …何だ、お前もあながち関係なくないんじゃないか?

 地味に知ってるかもな、その魔道書のことも…」

まるで仕組まれたかのようにつながっていく糸に、三人はしばし考え込んだ。

「だったら、尚更じゃん。君とはここで別れといた方が良さそうだよ。

 …このままだと、その手がかり失っちゃいそうだもんね」

「おいおい、勝手な事言うなよ。誰がまだあいつを殺したいなんて言った?

 確かに、俺はさっきあいつを斬ったさ。

 …言い訳にしかならないだろうが、俺はフェニーと会ってからどうもおかしい」

眉を潜めて、ティバロは2人に言った。

「…何を今更。そんなの、みんなとっくに気が付いてるよ」

「た…確かに俺はあいつを許せなかった。

 さっきも怒り任せだった事は間違いない。

 でも、何か変だった。怒りに─感情に支配されてるような…。

 とにかく、この状況を変えるにはもう一回フェニーに会う必要があるな。

 それに…あいつにも…」

セフィークはようやくまともなティバロが見れたことに安心したのか、大きく頷いた。

「まったく…行くならさっさと行くよ」

「わぁってるよ!」

スタスタと歩き出すユークの後を、ティバロとセフィークは慌てて追い掛けて行く。

 急ぎ足で出口へと向かう3人は、轟音と共に起こった突発的な揺れに態勢を崩してしまった。地面が大きく揺れ、天井からパラパラと砂が落ちてくる。

「な…何だ!?地震か!?」

揺れが収まると、3人は走り出した。もしかしたら遺跡が崩れるかもしれない。早くここを出る必要があった。しかし、急ぐ時ほど邪魔は多いもので、3人の目の前に機械兵の大群が現れてしまった。だが、足を止めることなく、ティバロは剣を抜き群がる機械兵Α(アルファ)を斬り倒していく。

 機械兵の大群をとりあえず抜けると、ユークは肩越しに振り返り、雷を放つ。それでその場にいた機械兵達はほぼ全滅し、追っては来なかった。

「そこ左!」

「んなこた解ってる!」

最後の十字路を曲がった瞬間、再度、轟音が鳴り響く。先程よりも大きな揺れが遺跡全体を襲った。その揺れの大きさに3人は立っていられなかった。地面や壁に手を付き、揺れが収まるのを待つ。出口はすぐそこに見えているが、この揺れでは辿り着けない。

「な…何なんだよ!一体!」

三度目の轟音が響いた時、一瞬出口の辺りが眩く光り、だが、すぐに光は消え変わりに砂が階段を、入り口を埋めていく。同時に天井が崩れ、砂で埋もれた階段への通路を塞いだ。天井から降り注ぐ砂のことなど、気にはしていられなかった。目の前で起こっている惨劇に、成す術もなく立ち尽くしていたのだから。

「…ウソだろ…?」

「埋まっちゃった…!?」

揺れが少しずつ収まり、歩けるようになると、セフィークはよろよろと瓦礫に近付いた。

「ど…どうしよう…!?」

「確か、ここって他に出入り口なかったよね?」

いつでも冷静なユークの表情に焦りと動揺が窺える。

「瓦礫を崩すことはできるかもしれないが…。

 上にもまだ瓦礫があるなら、無駄だろ。しかも、奥の入り口は砂だ。

 砂をかき分けて出るのは上策とは言えない。…さて、どうするか」

3人はこの状況から抜け出すべく考え始める。だが、悪い考えしか浮かばない。

「…状況が悪化することならいっぱい考え付くけどね」

「例えば?」

聞くだけならいいだろうと、セフィークはユークに訊いた。

「強力な魔法であの瓦礫を吹き飛ばす」

「それやったら、下手すると遺跡全部いかれることも考えれるな。

 それに、こっちに被害がこない保障はない」

ティバロは付け足して「悪化する」旨を説明した。

「じ…じゃあ、違う所の天井に打ってみるとか!」

「それこそ危険だって…」

頭を抱え、ティバロは溜息を吐く。

「ぅみゅ…」

「…それに、大きな問題があるよ」

ユークは瓦礫とは反対側を見やった。

「この遺跡の奥には機械兵がわんさかいるんだよね。さっきもいたけどさ。

 …襲ってこられたら、持久戦で負けるよ、きっと。

 考えてる時間、あんまないんじゃないかな」

どんどん追い詰められているような気がして、セフィークは青ざめた。

「ほ…本当にどうしよぅ…」

「外から何とかしてくれれば早いんだが…。あの2人はどうしてるか…」

「さっきのアレ、どう見ても尋常じゃないよね。

 上で何かあったことは確かだし…、もういないかも…」

三人の会話はそれで終わってしまった。何が起こったのかは解らない。だが、あれだけの揺れが起こる何かがあったのだ。遺跡の入り口にいたとしたら、無事では済まない。危険を察知して逃げ遂せたとしたにしろ、近くにいるとは思えない。それはマティーナとライナに決まったことではなかった。大体にして冒険者のほとんどは幻のΗ(イータ)を恐れ、逃げ出している。

 そのうちこの騒ぎを聞きつけて、街から救助隊がやってくるだろう。それまで待たなければならないのだ。ただし、機械兵に襲われることは必至だ。

「どう考えてもさ、悪い方にしか転ばないんだよね」

ユークが溜息混じりに話す。下手に動いて体力を削るわけにもいかないので、3人は途方に暮れた。

「………なぁ、お前ら、どっちか転移の魔法使えないの?」

「ボクは無理。今持ってる雷の魔力石じゃ、転移の魔法は使えないよ。

 …風の魔力石だったら使えたんだけど…」

「私の持ってるのは光の魔力石だから…。癒しの魔法しか使えないの。

 ごめんね、ティバロ君…」

転移魔法が使えるのならば、ここで慌てふためいてなどいないかと、ティバロは肩を落とした。

「ちょっと待って、せーちゃん。

 光の魔力石って、転移魔法使えたんじゃないっけ?」

ユークが気が付いたように言うと、セフィークは首を傾げた。

「え?そだっけ?でも…使ったことないし、呪文解らないし」

「…呪文は書物読んだから知ってるけど…。

 ボクもせーちゃんも使ったことないのを、今ここで使うのは危なすぎるなぁ…」

「なら、お前がセフィーちゃんの魔力石借りてやりゃいいじゃん。知ってんだろ?」

腕を組んでユークを見つめながら、ティバロは言った。それに対し、ユークは大きく溜息を吐いた。

「君さぁ、今の話聞いてた?ボクは書物で読んだことがあるだけ。

 だから、光の魔力石での転移魔法は使ったことないの!」

「何だ。使えねぇやつだなぁ」

目を細めるティバロに、ユークは引きつった笑顔を浮かべた。

「ボクは攻撃魔法専門だからね!

 でも、魔法すら使えない人に言われたかないよ」

「ごめんね…ティバロ君。

 私が使えてればこんな所で終わらずにすんだのにね…」

ユークの隣で謝るセフィークに、ティバロは首を振った。

「いやいやいやいや。まだ終わってないから…。

 ただ、無事にここを出たら、ちょっとは練習しといて」

「はい…」

落ち込みが更に深くなったセフィークに、ティバロは余計な話を振ってしまったかと、後悔した。

「…さぁて、いよいよ困ったな。どうしたらいいもんか」

あれから揺れはなく、遺跡が崩壊する様子も無いのが、まだ幸いだった。

 何の進展もないまま、ただ時間だけが過ぎていく。空気が薄くなるという心配もあったが、現状ではまだ大丈夫である。通路を照らしているか細い炎がゆらゆらと揺れ動き、誰もいなくなった遺跡は何とも不気味な雰囲気を漂わせていた。静寂に包まれた遺跡に、時折カシャンと金属音が響く。それは機械兵が遺跡の中を彷徨っている証だった。

 焦りと不安、そして、微かに芽生える恐怖が、3人を包み込む。3人は覚悟を決めるしかなかった。

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