表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒れ鷹  作者: 雷華
≪第2部 それぞれの想い≫
15/38

【話合の章】


「あ、お帰りなさいっ、ティバロくん!」


扉を開け、部屋に戻ってきたティバロをセフィークが迎える。

「あ…あぁ…」

少々驚いた様子で、ティバロは答えた。

「久しぶりだったんだよね…?楽しかった?

 あ…今ね、明日のこと話し合ってたんだよ?

 こんなに早く帰ってくるとは思わなかったけど…もういいの…?」

自分を気遣うセフィークに、ティバロは胸が痛くなるのを感じた。本当のことを聞いたら、この心優しい少女はきっと悲しむに違いない。「そんなの駄目だよ」と心配そうに話しかけてくるに違いない。

 そんな憶測を心にしまい、ティバロは覚悟を決めて口を開いた。

「もう…いいんだよ。あいつは。

 あんまりしつこいんで、絶縁してやった。

 次からあいつらは他人ってことで、よろしく」

セフィークは、すぐにはその言葉の意味を理解できなかった。

「え…ぜ…絶縁…!?…って…え?え!?どどどうして!?」

慌てふためくセフィークに、ティバロは渇いた笑みを浮かべるだけである。

「…話したくないなら、無理に聞かないけどさー。

 自分から敵を作るのは関心できないな。ちゃんと考えて行動してる?

 ウチらは一つの部隊として動いてるんだから、一人の敵はみんなの敵になるんだよ?

 ただでさえ、あの黒ずくめの奴らで手一杯なのに…」

呆れた口調でマティーナが言うと、ティバロは眉を潜め、彼女から視線を逸らした。

「黒ずくめ…?あ!そうそう!

 今ね、荒野に向かったあの二人の救出作戦を立ててたの」

思い出したようにセフィークが説明すると、ティバロは怪訝そうにセフィークを見つめる。

「あいつらを…?助ける義理なんてねぇんじゃねーの?

 何か、俺達のこと嫌ってるみたいだし…」

「俺“達”じゃなくて、君だけだよ、ティバロ君」

一緒にしないで欲しいなとユークがニッコリと笑うと、ティバロは目を細めた。

「…どっちでもいいよ。とにかく、あいつらが勝手に行ったんだ。

 危険なことくらい承知のはずだろ?

 俺達が助けに行く事なんて、ただのお節介にしか感じないと思うけど?」

その言葉を聞き、セフィークは悲しげに首を横に振り続ける。その瞳が行こうよと何度も訴えてくることに、ティバロはしばらく耐えていたが、やがて溜息を付いた。まるで、小動物に懇願されているような、妙な感覚に陥ったようだ。

「…解った…解ったから。行きゃいいんだろ行きゃ…。

 Zのいる遺跡なんか、絶対ごめんだと思ってたのに…ハァ…」

肩を落とすティバロとは裏腹に、セフィークは嬉しそうに笑顔を浮かべている。天使の微笑が悪魔の笑顔にも見えたが、ティバロは仕方がないかと苦笑した。

「さぁて、そうと決まればちゃんと作戦立てて行かないとな!

 相手はあのZだ。ちょっとやそっとの攻撃じゃ倒れないぞ」

そう言うと、ティバロは部屋に備え付けの紙とペンを手に取りテーブルの上で何かを書き始めた。紙の真ん中に大きな四角を一つ描き、その中に小さな四角を幾つか描いていく。それを2本の線─通路で結んでいくと、遺跡の見取り図になった。

「すごぉーい。ティバロ君、覚えてるんだー」

「まぁな。ただ、記憶を頼りに描いてるが、間違ってるかもしれないし。

 今じゃ損壊が進んで、どうなってるか解らん。

 あまり、信用しないことだな」

ライナに褒められたティバロは気を良くしたのか、得意げに微笑んだ。そう言いながら、今度は通路に×印を描いていく。どうやら、崩壊等の理由で通行が不可能なった通路に印をつけているらしい。一通り描き終わると、ティバロは二枚目の紙を取り出し、更に何かを描き始める。

「え…?まだあるの?」

「ここには地下もあるんだ。

 上が通れない時は下を通って上に抜ける道もあるからな。

 ……これでよしっと」

驚いているセフィークに横目で説明しているうちに、地下の見取り図も完成し、ティバロはペンを置いた。皆はそれを覗き込みながら、考え始める。

「…まず、問題のZの出没ポイントが解らないことには動けないよね…?」

「何だ、それくらいすぐ解るだろが」

地図を睨みつけているユークに、ティバロが呆れたように言うと、ユークは少しムッとして顔を上げる。

「Zは侵入者を排除する為に作られたタイプだ。

 なら、居る所なんて、決まりきってるさ」

「あ、そっか」

ポンと手を打ってマティーナも頷く。

「え…?ど…どこどこ?」


「「侵入者のいる所」」


1人だけ解らなかったセフィークに、皆は声を揃えて言った。侵入者を排除する為に、Zは現れる。どこにいるのかなど考えなくて済む分、どうやって乗り切るかを考えなければならないのだ。

「あいつの攻撃で一番厄介なのは熱光線だな。

 あれを受けたらまず助からないだろう。

 防ぐ術は……今の所ない」

始めから壁に突き当たり、重苦しい空気が流れる。

「…あいつらだって、不死身じゃない。

 コアの部分を壊せば、動かなくなるよ」

「だから、それを壊すまでにやられるって」

「そんなの、やってみなくちゃ解んないじゃん」

「お前、あいつと戦ったことあんのかよ?」

ユークとティバロの論争が繰り広げられる中、セフィークは見取り図を見つめて、必死に何かないか考えていた。見取り図を見ても、道が拓けるわけではなかったが、何か思いつくかもしれないと、隅から隅まで視線を動かす。

「せーちゃんせーちゃん、何か解った?」

ライナがセフィークの袖を引っ張りながら聞くと、セフィークは俯いて首を横に振る。

「こういうことって初めてだから…」

「私はね、まーちゃんやゆーちゃんと一緒に旅してきたから、こういうの初めてじゃないんだ。

 結構危ない目にも遭ったしねー。

 大丈夫。何があっても、乗り切れるもんよ?」

不安になっていたセフィークをライナが励ます。それでもまだ不安そうにセフィークは頷いた。

「大丈夫だよ、せーちゃん。

 何かあったらティバっち盾にして逃げればいいだけだから」

「おいちょっと待てお前ら」

笑いながら言うマティーナをティバロは半眼で見つめる。それを見て、皆は一斉に笑い出した。

「ったく…気楽なもんだぜ…。相手はあのZだってのに…」

溜息混じりに呟くティバロの前で、4人はいまだ笑っている。これくらいが丁度いいのかと首を傾げながら、ティバロも笑みを浮かべる。

 それからは大した話にならなかったので、徐にティバロは寝台に横たわった。

「ティバロ君…?」

「わりぃ、ちょい疲れたから寝るわ。

 何かあったら起こしてくれ。んじゃ」

程なくして寝息が聞こえると、皆は起こさないように小声で話を続けた。さすがに、疲労を隠せないティバロを無理矢理起こすわけにもいかない。

 月が高く昇り、ティバロも深い眠りに入ったので、皆もそろそろ寝ようかと考え出していた。ユークが軽く欠伸を漏らしたことで、4人は各々の寝台に横たわろうとする。だが、突然、窓からの光が完全に遮られたので、皆は一斉に窓の方を見やった。窓の外には黒装束を身に纏った人影が見える。セフィークは飛び起きてティバロを揺さぶり起こした。

「ティバロ君、ティバロ君!」

窓が勢いよく開かれ、黒装束は部屋の中へと入ってきた。そして、何かを探すように部屋を見渡している。

「あんた、何者!?」

枕元に置いてあった短剣を素早く構え、マティーナは黒装束に向かって訊く。

「ティバロはどこだ」

意外にも、発せられた声は高く、澄んでいた。だが、その言葉には威嚇するような強い念がこめられている。

「セフィーちゃん…?何かあったの…?」

眠たそうに目を擦りながらティバロが体を起こすと、寝台の横にあったついたてが突然倒れた。部屋の中に黒装束の人影があることに気付いたティバロは、ハッとして咄嗟に剣を構える。

「テメェ…昼間の仲間か!」

「ティバロ…私よ…」

戦闘体勢に入ったティバロをなだめるように、その黒装束は囁いた。その声に、ティバロは眉を潜めている。

「まさか…」

無言で、黒装束は顔を覆っていた布を取る。そこにあったのは端正な女性の顔だった。そして、女は髪を降ろし、ティバロに微笑みかける。月明かりに照らされた髪は、金色に光り輝いていた。

「っ…フェニー…?フェニーシア!?」

「え…?」

「覚えててくれたのね、ティバロ。…嬉しい…」

その美女は優しい笑みを浮かべると、突然ティバロに抱きついた。その勢いで、ティバロは危うく寝台に倒れこむところだったが、何とか持ち堪えると、困惑した様子で女─フェニーシアを見つめる。

「な…何で…お前…」

「死んだと思った…?そうよね…私も…そう思ったもの…」

フェニーシアは悲しげにティバロを見つめると、彼の胸に顔を埋めた。

「でも、私は死ななかった。いえ…死んだけど生き返ったのよ…。

 あの…忌まわしい“竜の血”で…!」

それまで優しく抱きしめていた彼女の腕に力が入る。

「…“竜の血”…?あの…不老不死になると言われてる…?」

セフィーク達は状況が把握できないまま、二人─話しているのはフェニーシアだけだったが─の話を聞いている。

「えぇ…。“竜”は実在したのよ…!

 そして、その血を手に入れた奴らがいた…。

 私は実験のために…飲まされたの…。

 不老不死になることは知っていたけど、死人を生き返らせるなんて知らなかった…。

 それに…副作用があることも…」

「副作用…?」

ティバロから離れ、フェニーシアは黒装束を脱ぎ始めた。

「お…おい、何を…!」

慌てて止めようとするティバロの目に、フェニーシアの体が映る。そこにあるはずの綺麗な肌は、青緑色で、ひびが入っている。それはまるで鱗のようだ。人の形はしているものの、彼女の体は、既に人間のものではなかった。ティバロはその姿を、直視していることができなかった。あまりにも惨たらしい彼女の姿に、思わず目を背ける。

「私…もう昔の私じゃなくなっちゃった…。…ごめんね」

フェニーシアの頬を涙が伝う。ティバロはすぐに顔を上げ、彼女を抱きしめた。

「もういい!何も…言わなくていい…。

 フェニー…生きていてくれて…良かった…」

周りにセフィーク達がいることも気にせず、ティバロは哀れなフェニーシアを強く抱きしめている。

「……誰が…君をこんなに…したんだ…?」

それを聞いてどうするのかなどティバロは考えていなかった。だが、聞かずにはいられない。フェニーシアはティバロの胸で不気味な笑みを浮かべた。それを偶然目撃したセフィークは眉を潜める。

「“ミティー”…“ミティー・フェン=シューコア”。そう言っていたわ…。

 私は“竜の血”を飲まされてから、人間ではなくなった。

 力も、速さも、人間の比じゃない…。

 でも、行き場のない私を助けてくれた方がいたの。

 ミティー・フェン=シューコアを憎んでいる“イヴル”という方よ。

 私は同じ目的を持つイヴル様に仕えることにしたの。

 でも…昼間…、仲間と戦うあなたを見かけて…。

 確かめに来たの…。本当にあなたなのか。

 そして…あの女…ミティー・フェン=シューコアの仲間じゃないのか…」

ティバロは「ミティー・フェン=シューコア」の名をしっかりと記憶した。それから、やさしくフェニーシアの頭を撫でる。

「安心しろよ。俺はそんな女の名すら知らない。

 あの時は、勘違いしちまっただけだよ。

 …あの女と言われて、思わず一緒にいたセフィーちゃんのことかと思ってさ。

 だから、俺はその女の仲間じゃないし、全く関係ない」

あながち関係なくないなどということを一行が知る由もなく、逆に、黒装束から狙われなくて済むのなら喜ばしいことだ。だが、そこでセフィークは気が付いてしまった。あの黒装束達に狙われていた彼女のことを─。

「あれ?でも…狙われてたのって…あの人じゃなかったっけ?

 名前…知らないけど…確か、自分で認めてた…」

皆は我に返り、昼間のことを思い出していた。銀髪の男と共に荒野へと向かった彼女は、「確かに狙われているのは私」と肯定していた。名前を聞くのを忘れていたとはいえ、繋げれば一つの線になる。

「知っているの!?ティバロ!」

「…あいつが…そうなのか…?…名前は知らない。

 ただ、俺達が黒装束に狙われたことを話したら、関与を認めたってだけだ…。

 …変な魔力石持ってる栗色の髪の女だよな…?」

ティバロの言葉にフェニーシアは静かに頷いた。そして、ティバロから離れると、窓へと向かう。

「…お願い…ティバロ、協力して…。あの女だけは…許せないの…。

 それに…あの女を殺せば、私は元に戻れる…」

それだけ言うと、フェニーシアは窓から飛び降り、夜の暗闇に紛れるように消えた。後には呆然と立ち尽くす5人が、窓を見つめているだけだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ