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荒れ鷹  作者: 雷華
≪第2部 それぞれの想い≫
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【因縁の章】

 「鷹ノ巣」へと戻ってきたセフィークたちは、1階のロビーで一組の「荒れ鷹」と思われる人達と鉢合わせた。1人の女性と2人の男性という、小規模な組である。

 男の1人は帯剣しており、もう1人は弓と矢筒を背負っていた。そして、女性は杖を手にしている事から、バランスの良い少数精鋭の構成と言えなくもない。

 彼女達は下見のつもりで荒野に出たらしく、外で見てきた遺跡の話などを延々と続けていた。ふと、会話の最中で女性がセフィーク達に気が付き、驚いたように駆け寄ってきた。

「ちょっと!オターカくんじゃない!?久しぶりじゃーん!」

ティバロの知り合いなのか、親しげに話しかけてくる女性に、セフィークは首を傾げた。

「ティバっちの知り合い?」

聞きたそうなセフィークの代弁なのか、マティーナがティバロに向かって質問を投げかける。だが、ティバロはさも鬱陶しそうに眉を潜めているだけだ。

「え…?何々?オターカ君ってば、ハーレム状態?」

「おいおいおいおい!マジかよ!

 いい生活してんなぁ。代われよ!」

女性がからかうように言うと、剣士の男がにやけた顔で言い寄ってきた。

「うるせぇなぁ…そっちだって、両手に花の状態だろ?

 …大体何でこんなとこにいんだよ」

セフィーク達が状況を把握できずにいる中で、ティバロと女性達は話を進めていく。

「何だ、つれないじゃないか。俺達腐れ縁だろ?

 どこで会おうが不思議じゃないさ」

もう1人の男がティバロと肩を組む形で話しかけてくる。彼らと遭遇してから、ティバロの表情が少しずつ不機嫌そうに変化していった。

「……あのさ、結局その人達誰なわけ…?」

ユークが痺れを切らしてティバロに訊くと、ティバロは肩を組んできていた男の腕を振り払い、溜息を一つ吐くと口を開いた。

「こいつとは同じ町に生まれ、同じ剣術学校に行った。

 ま、世に言う幼馴染って奴だな。

 ちなみに、町を出た日まで同じさ。

 途中までは一緒に回ってたんだけど、まぁ…色々あってね。

 ただ…何故か行くとこ行くとここいつと遭遇するんだ。

 会う度に絡まれて…ぶっちゃけ俺は迷惑してる」

肩を組んできた男を指しながら、ティバロは呆れた様子で話した。あまり良い思い出はないようだ。

「またそんな…つれない事言わないでよー。

 そうだ!ここで会ったのも何かの縁だしお互い自己紹介といこうか?

 アタシは“ハーサリオ・オーヘイ”…」

「そして、我らが姐御!」

女性—ハーサリオがティバロの愚痴をサラリと流し、勝手に話を進める。弓を背負った男はそんなハーサリオの言葉を遮り、悪ふざけとも取れる発言を始めた。

「だから、そう呼ばないでって何度も言ってるじゃない!」

「いえいえ!姐御は姐御ですよ!どこまでもお供します!」

ハーサリオの言葉に男がすかさず返すと、ハーサリオは笑いながらその男を軽く殴った。

「あはははは!面白い人達だね、ティバロ君!

 え…と、私も自己紹介するねー。初めまして〜。

 今、ティバロ君と一緒に行動してる“セフィーク・クーシオ”です」

「へぇ、セフィークちゃんかぁ、カワイイね」

ハーサリオに絡んでいた男が、満面の笑みで自己紹介したセフィークを見つめた。セフィークは「えー?」と否定するように首を振りながらも、嬉しいのか笑顔のままだ。

「“ティノアーク・ノーマンティオ”だ。

 よろしくね、セフィークちゃん!」

ハーサリオ達を無視して、セフィークを見つめていた男—ティノアークが自己紹介し、セフィークの手を握った。その手を上下に振り、ティノアークはにっこりと笑う。

「よ…よろしく…」

「おい、ティン!彼女、困ってるぞ!まったく…。ごめんね。

 俺はこいつの幼馴染、“アディ・ハロニック”です。

 不肖の幼馴染がご迷惑をおかけしているようで…」

困惑しているセフィークを見て、アディが自己紹介がてら軽く頭を下げた。

「おいお前、誰が迷惑かけてんだよ、誰が!」

不満そうに幼馴染—アディを肘で小突きながら、ティバロは反論する。

 一連の様子を黙ってみていたユークは、溜息を吐きながらパンッと手を叩いて大きな音を出した。皆は驚いて彼女の方を振り返り、ロビーが急に静まり返る。

「私“ユーク・カーウィン”と申します。どうぞよろしく〜」

「さすがユーちゃんナイス!

 ウチは“マティーナ・アミカ”です!よろしくねー」

にっこりと笑みを浮かべて自己紹介をしたユークに、パチパチと手を叩きながら、マティーナも名乗る。ユークの満面の笑みに怒りがこもっている事を、周りが気が付かないはずはなかった。落ち着いて名乗れるようになったので、ライナがユークとマティーナに続いた。

「ウチは“ライナ・ノーク”です。よろしくお願いしまぁす」

相変わらずののんびり口調でライナが自己紹介を終えると、皆は今一度互いを見渡しあった。

「ところで、お前らもここにいるってことは、荒野に行くんだろ?」

アディが「俺達はもう下見してきたんだぞ」と少し得意げな笑みを浮かべる。

「あぁ…明日からな。今日は色々と疲れたんで」

それはセフィークも決めたことだったので、ティバロは反対していなかった。

「下見くらいした方がいいかもしれないぜ?

 前とはかなり様子が変わってるから」

「様子が変わった…?」

ティノアークが深刻そうに忠告してくると、その刹那、ティバロの表情が一変した。友人達との戯れ時間は終わり、笑みや不真面目さが消える。ティノアークに続き、アディも真剣な表情で口を開いた。

「あぁ、かなりな。そいつらはここ、初めて入るんだろ?

 だからって、近場から攻めようなんて今回は考えない方がいいぜ。

 今さっき見てきたけど、一番近くにあった『祈りの神殿』。

 あそこはさ昔は体ならしに丁度良かっただろ?

 ところがどっこい、あそこは今や機械兵Zの守る危険な場所になってる」

荒野に入ったことのないセフィークには、機械兵Zがどういうものなのか、そして、どれ程強く危険なものなのかが解らなかった。

「Z!?ちょっと待てよ。んなわけないだろ!?

 Zって言ったらあの『不可侵の城』を守ってたヤツと同じ型だろ!?

 そんな近場にいるわけねぇって!」

『祈りの神殿』『不可侵の城』と知らない名前が出てくる度に、セフィークは困ったようにユークを見る。特に深い意味は無かったが、彼女なら知っているのではと思い、無言の問いを振ったようだ。

「何でボクを見るのかな?セフィーちゃん?」

「え?あ!?いや…そのぅ…知ってたら教えて欲しいなぁ…って…」

相変わらず控えめな言い方に、ユークは「うんうん」と頷きながらセフィークの頭を撫でる。

「機械兵っていうのは解るよね?

 魔機大戦の元凶であり、自分で考えて動く鉄の化け物。

 で、それにもいくつかタイプがあるんだよ。

 Zっていうのは、元々は侵入者を排除するために作られたらしいんだわ。

 ということはどういうことか解るかい?」

一つ一つ納得させる言い方でユークは話を進める。セフィークは難しそうな顔をしながら首を傾げていた。

「侵入者を排除するために作られたんなら、簡単に壊されちゃ意味がない。

 ってことはだ、必然的に普通の攻撃ぐらいじゃびくともしないヤツを作るわな。

 …ということはだ、ココまで来れば、何が言いたいかわかるかな〜?」

聞けば聞くほどセフィークは困惑していく。

「すっごく強いってこと?倒せないってこと?…危ないね〜」

言いたいことは伝わったらしいので、ユークもそれ以上は何も言わなかった。

「そのZがね、入り口に一番近い遺跡…神殿にいるの」

ハーサリオが溜息混じりに言うと、セフィークはようやく事の次第を理解したようだった。

「え!?それ…やばいよ!危険危険!どうしよぅ…?」

その台詞を聞き、皆は肩を落とした。

「どうしようか、今考えてるんだけど…」

「え!?そうだったの!?…ぅみゅ、ごめんなさいです」

何故か、セフィークなら許せてしまうのが、不思議で仕方がないが、皆は「いいんだよ」と笑顔で答えた。

「あぁそれと、もう一つ。俺達も神殿に少しだけ入ったんだ。

 で、すぐに出てきたら、代わりに男女の二人連れが神殿に入ってったのを見た。

 何も知らない様子だったなぁ…。今頃どうなってるかな…?」

ティノアークが思い出しながら言うと、セフィークたちは「鷹ノ巣」に戻ってくる直前のことを思い出した。ミティーとクライシュード—皆はまだ名前を知らない—が荒野の方へ歩いていったのを、皆は見たのだ。

「もしかして、それってさ、男は髪が短くて銀色で…。

 女は武器とかは何も持ってなかったりした?」

マティーナがまさかと思い聞くと、アディが目を丸くした。

「何で知ってんの?もしかして、超能力者!?」

「超能力者って何さ…。

 とにかく、その人たち…まぁ…ちょっとした知り合いなんだけど…」

「大丈夫かなぁ…?ちょっと見に行ってみる…?」

ミティー達を心配したセフィークがそんなことを言い出すと、皆は驚いた。自分達はミティーに貸しはあっても借りはない。そう思うと、行くことに何の利点もなかった。

「まぁ、すぐに逃げてくれば助かるだろうし、心配ないんじゃないの?」

ティノアークが少々投げやりに言うと、セフィークはなおも困惑した表情で俯く。

 結局、もう辺りが暗くなる頃なので、今すぐに行くことは危険と判断され、セフィークたちは自分達の部屋へと戻って行った。ティバロも戻ろうと思っていたのだが、アディに捕まってしまい酒場へと連れて行かれたのだった。

 間もなく、クーオフクを宵闇が包み込む。静寂が支配する夜の町に、乾いた風が吹き荒んでいた。

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