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荒れ鷹  作者: 雷華
≪第2部 それぞれの想い≫
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【炎竜の章】

 「機械兵」達が寄り付かない場所というものが、実は二つほどあった。一つは大地の精気が強い場所、これは「機械兵」が人の生き血を動力源とするようになってから半ば常識と考えられていることである。

 そして、もう一つは自分よりも強いものがいる場所だ。人工脳は少しずつ成長している。「機械兵」達は「学習」出来るのだ。自分よりも強いもののいる場所は危険を感じ、近寄らない。人の生き血を求めて彷徨う「機械兵」でも、時として「共食い」をする。同じ動力で動くものを襲い、自分が生き延びようとする。まさに「弱肉強食」である。

 「機械兵」の習性を今一度思い起こしながら、二人は後退していった。

「…走れ、シューコア!」

「やっぱり!?」

身を翻し、ミティーとクライシュードは走り出した。それと同時に、音の正体が姿を現す。通路を塞ぐ程の大きさもある球体に、紅い玉が目のようにギョロギョロと動き、さらに球体から四本の足が伸びている。足は先が鋭く尖った鉄パイプのようなもので、天井近くまで伸びたところに関節があった。

「あれは…機械兵Ζ(ジータ)だな…!」

「Ζ…?って何!?」

Ζと呼ばれる「ひとならざるもの」─機械兵から逃げながら、ミティーは訊き返した。

「Ζというのは、機械兵に付けられたタイプ番号だ」

「そんな事は解ってるよ!

 そうじゃなくて『特徴』を教えて!」

「侵入者を排除する役目を担うのが、主にΖだ。

 並大抵の攻撃じゃ、びくともしない。それに…」

球体についていた紅い目から光線が放たれると、クライシュードは前方に飛び込み、そのまま前転すると再び起き上がり走り出す。

「あの光線が厄介だな…」

「い…今の…何なの!?」

「石だろうが鉄だろうが一瞬で溶かす高熱の光線だ。

 かすっただけでも全身に火が回る恐ろしい攻撃さ」

苦笑するクライシュードに、ミティーは青ざめた。

「いくら俺でも、相手にする気はサラサラないな」

「に…逃げ切れるかな…?」

ミティーも、できることなら戦いたくなかった。Ζの光線を結界で防ぐことが証明されれば戦う事も考えるが、避けられるものならば是非とも避けたい。

「…難しいかもな」

「ウソ!?何で…?」

「この先は行き止まりだ…!」

前方を見据えると、ミティーは愕然とした。通路が瓦礫で埋まってしまい、確かに行き止まりになっていたのだ。

「曲がり損ねたな…。こっちに出口はない」

仕方がないかと、クライシュードは覚悟を決めて剣を抜いた。


─ミティー!ここは俺に任せろよ!


ミティーも槍を出現させ、構えようとしたその時、脳裏に興奮した様子の声が響く。


エン!?

─近頃は俺を呼ばなくなったじゃねぇか。

 だから、体が鈍ってんだ。いいだろ?


ミティーは困ったようにクライシュードを一瞥した。


─でも…クライスが…。

─…いいだろ、別に。途中まで話はしたんだ。


正体を知られることを恐れてか、ミティーは迫るΖの前に決断をできずにいた。


─ミティー、早くしろ!


炎の声に圧され、ミティーは右手を掲げた。

「シューコア!?」

「…クライス、これが…私の秘密だよ…。

 『我が身に宿り仕えし竜よ、呼び声に応え姿を現せ。

 紅の破壊者、炎竜!』」

ミティーの足元を中心に小さな魔方陣が描かれ、それは紅い光を放ちミティーを包む。赤い光はミティーの内に入り、一瞬の静寂の後、彼女の体から強い光となって飛び出した。それはΖの前で竜の姿を形作り、光が消えるとそこには紅い竜がΖを睨み付けていた。

「な…っ!?」

クライシュードは、目の前で起こっている現実を飲み込めずにいた。

 ミティーが呪文を唱えた後に、伝説の存在である竜が現れた。無論、彼が実物の竜を見たのは初めてである。

 翼を二回ほど羽ばたかせ、炎竜は咆哮した。Ζは容赦なく炎竜に光線を放つが、それは炎竜に届く前に弾かれる。

「炎竜はその名の通り、炎の竜…。

 熱を帯びた光線は、彼には効かない。

 その身が放つ見えない炎の結界は、そう簡単に破れるものじゃない。

 …炎竜、行きなさい!」

ミティーが炎竜に命令すると、炎竜は鋭い爪が光る腕をΖ目掛けて振り下ろした。すぐに後退したΖも、避けきれずに前足を一本切断される。

「シュー…コア?この竜は…!?」

息を呑むクライシュードに、ミティーはふいと顔を背けた。

「私の体に宿る竜の一人、炎竜。

 …体を動かすことがとにかく好きで…」

『ミティー!』

戦いの様子を見ていなかったミティーは慌てて顔を上げた。すると、炎竜の巨体が目の前にある。翼を広げ、ミティーを守るように炎竜は立っていた。

『このバカ!』

炎竜は首だけ後ろに回し、ミティーを見つめる。その無事な姿を確認するとすぐにΖを睨み付けた。何度も光線を放つΖの姿は、炎竜に怯えている様に見える。

「ごめんなさい。少しボーっとしてました…」

ミティーは、人前で竜を喚ぶことを避けていた。竜を見た人間は畏怖するか、その力欲しさにミティーを付け狙うかのどちらかだったからである。クライシュードも、元はといえば竜たちの姿を目撃した為にミティーと行動するようになった。少なからず疑いをかけてはいたが、深入りすることを避けてくれたが為に、ミティーはクライシュードを受け入れた。しかし、それもここまでだと、ミティーは項垂れた。

 炎竜はそのままΖに近付いて行くと、もう一本の前足を切断した。バランスを失い、Ζは前へと転倒する。まるで子供がおもちゃを壊しているかのような光景に、クライシュードは呆然とするしかなかった。それほど、炎竜は圧倒的な強さを見せていたのだ。硬い金属の体も、竜の爪にかかれば容易く切断できる。大抵の魔法くらいでは受け付けない竜の前に、機械兵ごときが勝てるわけはないのだ。

「強い…な。それに、威圧感がある…」

肌にひしひしと感じるその圧力は炎竜が発しているものだと、すぐに解った。久しくそういう感覚に縁がなかったクライシュードは、額から流れる冷や汗を拭いながら溜息を吐いた。


─“フェン”族の末裔…“竜の力”とは…これほどのものだったのか…!?

 それを…こいつは一人で背負ってたっていうのか…?


時折見せる哀しい表情も、人を寄せ付けない素振りも、冷静に物事を考えたりすることも、全てはそこにつながる。自然と、彼の視線はミティーに向けられた。

「…炎…、早く…終わらせなさい」

『まだ暴れたりねーぞ!』

不機嫌そうに、炎竜はΖの残りの足を間接とは逆方向に折り曲げて咆哮した。

「…私の言うことが理解できないわけではないでしょう?

 終わらせなさい!」

きつい口調で言うミティーに、炎竜は逆らうことができなかった。綺麗に並んだ牙のある口を開け、炎竜はΖに向かって炎を吐き出した。折れた足が瞬く間に溶けていく。残った球体は特殊な金属なのか、魔力が強いのか、溶ける様子はなかった。溶けないならば破壊するまでと、炎竜はその球体を踏み潰した。球体は砕け、紅い目のような玉が床に転がっていく。

『…終わったぞ。これでいいのかよ』

Ζを倒し、それでも暴れ足りない様子で炎竜はゆっくりとミティーの方を向いた。

「ありがとう、それと…ごめんなさい…」

俯くミティーに、炎竜は瞳を閉じた。すると、竜の体が紅く光り出し、さらに徐々に小さくなって人の姿を形作った。

「ったく…お前は肝心な所で抜けてるんだよ。

 だからいつもこうなるんだ」

目の前に現れた紅い短髪・紅い瞳のその青年はミティーの頭をコツンと叩いた。

「炎…、だって…」

クライシュードは姿を見せた炎が、ガラスに映っていた4人の青年の一人であることを思い出していた。

「…クライス、ごめん…私は…」

歯切れ悪く切り出したミティーを、クライシュードは無言で見つめている。だがやがて彼は剣を抜き、ミティーの方を睨み付けた。

「え…!?クライス!?」

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