【序章 -魔機大戦-】
魔法とは自然の力を借り、己の内に在る力とを合わせ、それを思い描く形に具現化するものである。
機械とは鋼で作られた、自然…或いは人工の燃料を使って動かすものである。
機械と魔法─それは、この世界“ディンス”には欠かせないものだった。
しかし、文明が発達するにつれ、人々は強欲になっていった。領土の拡大─そして財力の増幅という、身勝手な欲を満たすために、貧しい民を救うという大義名分を掲げてまで解放することが、世界の大半を巻き込んだ「戦争」という結末なのだ。
戦争とあらば、他国よりも強い戦力が必要になる。多くの武器や兵器が作られる中で、人はついに、禁断の行いだと言われた魔法と機械を掛け合わせるという、最凶の機械兵を創ってしまった。
それが、どんな結果を生むのかも考えずに─。
鋼と魔法でコーティングされた体は、如何なる銃弾も寄せ付けず、それを手にした国は他国へと侵入を開始した。「機械兵」の姿かたちは様々で、人型のもの、獣型のもの、虫型のもの、鋼とワイヤのみのものもあった。
「機械兵」は人工脳を持ち、主の命令には逆らえないように作られていた。だが、人が作り出す物に、「絶対」という言葉はない。それはとても単純なことだったが、愚かな「人」はそれに気付かなかった。やがて、「人」は「機械兵」で軍隊を作り上げた。そして、ようやく気が付いたのだ。「機械兵」が暴走を始めた事によって─。
まるで人工脳にウィルスでも侵入したかの如く、「機械兵」は次々と暴走を始めて行った。初めに国が滅び、そこから「機械兵」は徐々に破壊を繰り返し、大地を荒野に変えていく。戦術兵器として作られたがために、暴走した「機械兵」は本能で破壊を続ける。皮肉にも、その燃料は大地の気だった。破壊する度に、大地の気は吸い取られ、荒野となる。
だが、「人」も破壊を黙視しているわけではなかった。「機械兵」を倒すために、「人」は武器を手に取った。
やがて、「人」は勝利を収めた。長きに渡る戦いで大地はその多くを荒野と変えてしまったが、「人」は勝ったのだ。後世はこの戦いのことを、「魔機大戦」と呼んだ。そして、「機械兵」は荒れ果てた大地の下に埋もれていった。
月日は流れ、大地に少しずつ精気が戻り始めると、「機械兵」が再び現れた。人々は絶望し、町を捨てて逃げ始めた。「機械兵」は息絶えたわけではなかったのだ。「人」が勝利を収めたわけではなかった。結果的にそう見えたとしても、「機械兵」を殲滅したわけではない。「機械兵」が燃料切れを起こしていただけだったのだから。
「機械兵」は大地を再び荒野に変えていった。精気がなくなれば「機械兵」も動かなくなる。人々はそう思い、動かなくなった「機械兵」を破壊する計画を立てていた。しかし、「機械兵」の人工脳は進化していた。自らに宿る魔力の全てを注ぎ、「機械兵」は精気の代わりに生き物の血によって動けるようになってしまったのだ。
「機械兵」はあらゆる生き物を襲うようになる代わりに、荒野から出ることはなかった。何故ならば、生き物の血を求めるようになった「機械兵」は、精気のある場所へは近付くことすら出来なくなったのだ。
荒野に残ったのは、「機械兵」達と、数多くの廃墟だけだった。
「機械兵」が徘徊する荒野に好き好んで近付く「人」はいなかった。だが、ほんの一握りの「人」が、廃墟に残されただろう宝を求めて荒野へと踏み入るようになった。その半数が「機械兵」に殺されてしまったが、何人かは生きて戻って来た。その手に光り輝く宝を持って─。
「人」の欲は限りがない。その命を危険にさらすことになっても、富と名声が欲しいのだ。そうして「人」は今日も荒野へと足を踏み入れる。