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第15章(最終章):神の実験の終焉(2)

 王都外郭の倉庫街、そこには闇商人の私兵が多数配置され、禁呪や魔道爆弾を放って騎士団を翻弄する。

 騎士団の腐敗兵や裏切り者が内部から撹乱し、連合軍の裏切り部隊も参戦して混乱は極みに達する。

 そこへレイジ・アリシア・ガロン・セト・リオネを中心とした『王都&学院連合』が突撃し、激戦が幕を開けた。


「騎士団の正規部隊はどこだ!?」

「連合軍は?まさか本当に攻め込んでくるのか……!?」


 混乱に乗じてユダの私兵が金品を略奪し、市民を盾にする悪辣な手段を取ろうとする。

 アリシアがそれを阻止しようと先頭を駆け、「市民を守れ!絶対に傷つけさせるな!」と騎士たちを鼓舞する。

 ガロンは大斧で敵兵を薙ぎ払いながら「おらあああ!」と雄叫びを上げ、力押しで道を開く。


 セトは結界魔法で市民を守り、リオネは『歌』で士気を高めながら遠距離支援。

 レイジは再生の魔力を制圧に利用し、爆発的破壊でなく、最小限の衝撃波や拘束術を編み出し、敵の武器を奪ったり足場を崩したりして戦闘不能にしていく。


「破滅を降す救世主なんて冗談じゃない……!」


 レイジの叫びが響き、かつての破滅的暴走の片鱗は微塵もない。


 激戦の只中、ユダは高台からその光景を見下ろし、「ふふ……戦闘が大きくなってきたな。いいぞ、破滅と再生が交わるこの舞台こそ、私の思惑が花開く地だ」と不気味に微笑む。


 アリシアは騎士を差し向け、「ユダを取り押さえろ!」と号令するが、私兵が盾となって阻む。

 長老やセトが遠距離魔法で応戦しても、ユダは軽くかわし、闇の結界を展開しているらしい。


 レイジはアリシアと目を合わせ駆け出す。

 守るための戦いをしてきたが、ユダを止めなければ戦火は終わらないと悟っているのだ。


「ユダ……止めるぞ!」


 高台へ飛び上がるように足場を蹴り、レイジは闇の結界に突っ込む。

 精霊王の力で周囲の空気が穏やかに振動し、ユダの闇魔道具を阻害しようとする。


 ユダは細身の体で軽やかに身をかわし、「来たね、レイジくん。君が再生などと言い始めたせいで、私の計画が狂うところだった。だけどね、まだ『混沌』は終わらない。私が破滅を興せば、君の再生など無駄になる!」と宣言する。



 激しい魔力の衝突が高台で巻き起こる。

 ユダは闇道具から凶悪な呪いの光を放ち、レイジは精霊王の加護でそれを和らげるように対抗する。

 闇と光が激突し、爆発的衝撃が周囲を揺るがし、建物が崩れかける。

 その瞬間、レイジの頭にまたあの冷ややかな声がこだまする。


「破滅が起きても構わぬ。お前がどうしようと、混沌は消えない。人の欲が世界を壊すかもしれんぞ……」


 レイジは奥歯を噛み、「もう黙れっ!」と心の中で叫ぶ。

 『神の干渉』はかなり弱まっているが、最後の足掻きのように聞こえている。


「闇商人ユダを止められないなら、結局破滅の運命は変わらない」と言わんばかりだ。

 レイジは荒れ狂うユダの闇魔力を真正面から受け止め、精霊王の光で浄化しようと試みる。


「おのれ……何だ、その光は……!」


 ユダは初めて焦燥を見せる。

 レイジの魔力が『破壊』ではなく、『闇を還元する』ような質に変わっているのを感じ取ったのだろう。


「ちっ、世界再生だと? そんな馬鹿げた理想、金にならんわ!」


 ユダは最後の悪足掻きに、周囲の私兵へ「魔道爆弾を全部使え!ここを焦土に変えてやれ!」と指示する。

 すると私兵たちが「う、うおお……」と叫び、一斉に火薬袋や呪爆弾を点火する。

 王都を焼き尽くすには十分な量だ。


「やめろぉおお……!」


 レイジは必死で駆け寄ろうとするが、ユダが邪魔をして視線を割かせる。


「ああ、破滅の華が咲く!これで世界は混沌に染まり、私の思うまま……」


 しかし、その言葉が終わらぬうち、私兵の何人かが別方向から次々に倒れる。

 アリシアやガロン、学院・騎士団の混成部隊が一斉に突撃し、爆弾の点火を阻止しているのだ。


「お前だけ好き勝手やらせるかよ……!」


 ガロンが大斧を振り回し、爆弾を抱えた私兵を弾き飛ばす。

 アリシアは剣で火種を叩き落とし、「あなたたちはユダに踊らされてるだけよ!」と警告する。



 そこへ駆けつけたのは連合軍の一部隊――どうやら連合軍内の穏健派らしい。

 連合軍使者が学院でのレイジの戦闘を目の当たりにし、「破滅でなく再生に向けて動いている」という報告を本国に送った結果、強硬派の影響がやや弱まっている。


「ユダの私兵に連合兵が混じっていると? 我々は知らんぞ。そんな裏切り行為は一部の不届き者だ!」


 連合軍指揮官がそう怒鳴り、反逆兵や私兵を片端から制圧し始める。

 王国騎士団と一時的に共同戦線を張る形となり、ユダの包囲網は急速に崩れていく。

「ま、まさか王国と連合軍が共闘するなんて!」と私兵が驚きの声を上げ、戦線が崩壊する。


 ユダは目を剥き、「バカな……そんな理想論通りには……!」と激しく抵抗するが、レイジの再生魔力が闇の結界をじわじわと浄化していく。

 アリシアが剣を抜いて接近し、横合いからガロンが斧を突き出す。

 ユダは必死に魔道具を振りかざし、「まだだ、まだ混沌を……!」と叫ぶが、ついに破滅の火種は芽吹けず、包囲される。


「くっ……!」


 ユダが膝をつきながら悔しそうに呟く。


「こんな……世界を再生して、何の意味がある? また誰かが争いを起こすだけじゃないか……」


 レイジは深い息を吐く。


「それでも……みんなは生きてる。争いを越えて、再生を望む意志がある限り、世界は変わるんだ」


 ユダは笑いを捨てきれないまま「バカバカしい……」と呟き、騎士団や連合軍の拘束を受ける形となる。

 闇商人の頭目はついに『破滅を煽る』というビジネスを完成させられず、王都で沈黙する結末を迎えるのだ。



 闘いが終わり、王都の空には晴れやかな朝日が差し込む。

 騎士団や連合軍兵も大きな争いにならずに済み、闇商人の私兵は捕縛され、ユダは投獄される運びとなった。

 

 賢者学院の長老やセトは「再生理論」を学問的に王に提示し、封印命令は正式に撤回される方向へ進む。


 王はアリシアを通じて、レイジに「お前を認める。だが、引き続きアリシアの監視下に置く」と宣言。

 連合軍指揮官は「レイジを管理しない代わり、王国が連合軍への攻勢を自粛する」という外交条件を提示。

 ユダの工作は失敗し、大規模な戦争は一旦回避される。


 学院や王都の民衆は、レイジが暴走せず、むしろユダを止めてみせた事実に衝撃を受け、「破滅の魔術師」から「再生の英雄」へと評価を急変させる。

 その転換を信じられない者もいるが、施療院や学院の証拠が後押しする。


 アリシアはそんな様子を見守り、王宮の一室で肩を落とすレイジに軽く微笑む。


「ありがとう、レイジ。あなたが暴走しないと示せたおかげで、王も騎士団も動いてくれたわ」


 レイジは少し照れ、「世界が壊れるのを止められたなら、よかった……」と答える。

 アリシアは「大したことあるわよ。あなたがいなければ、王都は闇商人の手で火の海だった」と断言する。

 レイジは照れ笑いを浮かべるが、その瞳には確かな安堵が広がっている。



 激戦の後、レイジの頭を覆っていたあの『神の声』は一切響かなくなった。

 まるで人間同士が手を取り合い、破滅を回避した瞬間、神の観察は意味を失ったかのように。


(神も、もう興味を失ったのかな……。人がこの世界を壊さなかったことを、もしかしたら納得してくれたのかもしれない)


 レイジは心の中でそう感じ、精霊王の優しい光が胸に宿るのを覚える。

 『神の実験』は、ここで終わったのだ――破滅という結末を迎えず、再生と共存を選ぶ結果を人間たちが勝ち取った。



 数週間後、王都は徐々に平静を取り戻し、王は正式に『レイジ封印の撤回』と『学院の再生研究推進』を布告。

 連合軍にも友好的に協調し、『レイジを外交カードとするのではなく、共に闇商人の残党を鎮圧して世界の安定を図る』という方向へ話がまとまりつつある。

 

 闇商人ユダは王都の地下牢に拘束され、死刑を免れる代わりに『全財産没収』と『永久投獄』が宣告される。

 彼に属した私兵や取引先の多くは取り締まりを受け、そのビジネス網は壊滅状態だ。

 戦乱の種は完全に消えたわけではないが、大半の陰謀は潰された。


 賢者学院では、セトや長老を中心に「再生理論」をさらに発展させようという動きが盛んになり、辺境の施療院や各国に『命輝石の制御術』を派遣する計画を進めている。

 リオネはそれに協力しつつ、新たに『歌』の研究を深め、世界を癒す音楽を広めようとしている。


 連合軍穏健派が主導権を取り戻し、強硬派は粛清を受ける形で終息へ向かっている。

 辺境の一部ではまだ不穏な動きがあるが、レイジや学院が介入すれば戦争にまでは発展しづらい状況だ。



 王都城壁の上で、レイジとアリシアは穏やかな風に吹かれながら、新たな旅の話をしていた。

 アリシアは正式に『レイジの監視役』として騎士団に復帰しながらも、王都を守る責務を果たす立場に。

 レイジは学院に籍を置きつつ、辺境を巡り『再生』を広める可能性を探っている。


「また遠くへ行くの?」


 アリシアが少し寂しげに尋ねる。

 レイジは苦笑し、「俺は世界を回って人々の苦しみを減らしたい。学院にはセトがいるし、王都にはあなたがいる。ユダの残党もいつ現れるか分からないし……」と答える。


「そっか。でも、監視役としてはそばにいないとね。……王も『お前を放っておくのは危険だ』と仰ってたし。私も騎士としてあなたと共に戦っていきたいの。――嫌かな?」


 レイジは目を細め、軽く首を振る。


「むしろ頼もしいよ。いまはもう神に観察されてないと思うけど、あなたに見守ってもらえるなら安心だ。世界が本当に再生へ向かうかどうか、これから長い道のりだし……」


 アリシアは微笑み、「騎士として、そしてあなたの仲間として、歩んでいくわ」と言って手を差し出す。

 レイジはそれをそっと握る。



 王都の空は晴れ渡り、多くの人々が『破滅が回避された』安堵と、『再生が始まる』期待を抱いている。

 神の実験は終わり、人間同士の争いも一段落。


 もちろん、将来的に別の戦乱が起きる可能性は否定できないが――それでも、レイジたちは精霊王の力と人々の意志を信じ、歩みを続ける。

 ユダ・ブラッディの言う『混沌は金になる』という発想は否定され、連合軍との全面衝突も回避された。


『破滅の魔術師』から『再生の象徴』へ。

 レイジは世界を背負う責任を少しずつ果たしていくだろう。

 

 遠い空の彼方、もはや『神』の声はない。

 人間が自分たちで結末を生み出したという事実は、神の観察を無化する大きな意義を持つ。

 その最後の声が何かを囁いたとしても、レイジはもうそれを聞かない。



 数日後、王都の門前で、レイジが一行を率いて新たな旅へ出る。


 セトは学院の要請で学院長候補として引き止められそうだが、「レイジの研究に同行する」と強く主張している。

 長老は苦笑しつつ、「外でのフィールド研究も大切だ」と応援してくれる。


 リオネは「世界中の人々に再生の歌を届けたい」として、各地の施療院や村を回ると宣言。


 アリシアは王都の騎士仲間に「しばしの間、出仕は離れる。レイジ監視の任務で辺境へ行く」と伝えており、ガロンは「お前らだけに楽しませてたまるか」と同道する気満々だ。


 王都の空は青く澄み、門前でアリシアが最後に王への挨拶を終え、レイジたちと合流。

 市民が「破滅を止めた英雄」「学院の若き賢者」と噂する声も聞こえ、まだぎこちないながらも称賛と期待が含まれている。


 レイジは少し照れながら、「神が実験を仕掛けたとしても、人間自身が未来を選べるんだね」と呟く。

 アリシアは微笑み、「そうよ。私たちは『破滅』なんて望んでない。ユダや闇商人の残党が現れても、あなたがいればきっと大丈夫」と力強く言う。

 

 ガロンが斧を肩に、「連合軍ともいずれ折衝しなきゃならねえが、ま、順番にやってけばいいさ。無茶しなきゃ死なねえだろ?」と笑う。

 リオネは弦を爪弾いて軽快な調べを奏で、「さあ、新しい旅の始まりね。世界が少しずつ再生する様子を見届けながら、多くの人を救いましょう!」と張り切る。


 セトは苦笑交じりに「やれやれ、また大移動か。でも、研究サンプルがいっぱい採れそうだな……」と言いつつも心底楽しそうだ。

 

 こうして、観察者たる神が干渉できぬほど、世界は人間の意思で未来を切り開く道を選び取った。


 レイジはふと空を見上げ、「神……もしまだ見ているなら、こんな結末だってあるんだ。破滅しなくても、人は世界を壊さずに守っていけるんだ」と心で呟く。

 風が心地よく髪を撫で、まるで神が興味を失い立ち去ったかのような静寂を感じる。


「行こう、みんな。次は辺境の施療院を回って、そこから連合軍とも話をして……少しずつ、再生の輪を広げよう。世界中に――」


 仲間が笑顔で頷き、王都の門を出る。

 市民の不安げな視線と、期待に満ちた子供の瞳が見送るその光景こそ、人間が『破滅』より『再生』を選んだ証だ。



 そして、『神』は――もはや影も形も見えなくなった。


 観察の終わり。

 人間は自力で破滅を回避し、再生を選んだ。

 その結果こそが神にとって未知の面白い結論だったかもしれないし、あるいはただ興味を失って去っただけかもしれない。

 どちらにしても、レイジたちが意志を示し、世界が前を向いたことは、何物にも代え難い真実だ。


 果てしない青空を仰ぎ、騎士と魔術師、そして仲間の冒険は続く。

 その先にある新しい生活や、他国との触れ合い、命輝石のさらなる再生が、どんな物語を生み出すのか――それはこの物語のあとに用意された未来への余白だ。

 いまのところ、破滅という結末は回避され、『再生』へ舵を切った世界は、人々の手によって守られ続けるだろう。


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