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第13章:交錯する思惑(2)

 王都近郊の廃屋にて、ユダ・ブラッディの私兵たちが密談を行っていた。

 黒いマントに身を包む幹部クラスの男が報告する。


「ユダ様、王都の騎士団はますます制御不能の状態にあり、あちこちで暴走が始まっています。レイジへの排除命令は依然として発動中ですが、国の内部が割れ始めている様子です」


 ユダは漆黒の礼服で不敵な微笑を浮かべ、「そうか。つまり、王国は連合軍との緊張で動揺し、騎士団もレイジの捜索に本腰を入れられず、下町は混乱している……。悪くない状況だね」と答えた。


 私兵の別の一人が「しかし、レイジが『精霊王の力』を得たとの噂もあります。実際に湖で我々が一度痛手を受けたのは事実。もしあれが本物の再生力なら、世界が徐々に安定に向かうかもしれませんが……」と不安を表す。


 ユダは鼻で笑い、「世界が安定したら商売が成り立たないとでも言うのか? 馬鹿を言うな。再生が始まろうが、人間同士の利害が消えるわけじゃない。むしろ、力を手に入れたレイジがどう動くかで、また新たな争いが生まれる。再生と破滅が拮抗する『混沌』こそ、私の望む市場だ」と冷酷に言い放つ。


 私兵は畏怖の色を隠せない。


「なるほど、ユダ様は混沌が深まるほど利益を得られると……。では、我々はどう動きましょう? 王都で王を煽るのか、連合軍を刺激するのか……」


 ユダはにやりと笑う。


「両方だ。連合軍にも密使を送り込み、レイジの力を脅威として誇張して教えてやれ。王都には私の部下を潜入させ、王や騎士団を『レイジ排除』に誘導すればいい。――あとはアリシアとガロン、レイジたちがそれぞれどう抵抗するか見物だな。いずれにしても、私は破滅が来ようが再生が来ようが、どちらでも儲けさせてもらう」


 狂気ともいえる冷徹さと商魂を見せるユダ。

 私兵たちは無言で頭を下げ、指示を受ける。

 こうして、王都や学院、連合軍への情報操作がさらに強化され、次なる衝突への布石が打たれていく。



 王都の裏通りで潜伏するアリシアとガロンは、ひとまずロイ騎士の動きを待ちながら、下町の現実に触れていた。

 物価高や治安の悪化だけでなく、所々で「闇商人の高額薬を買ってしまい、破産した」「連合軍が迫っているという噂でパニック状態」といった話が聞こえる。


 ガロンは苛立ちを隠せず、食器を噛みしめるように持って「チクショウ……レイジの力でみんな救えるかもしれないのに、王都は何をしてるんだ」と唸る。

 アリシアは「国民を守るはずの騎士団が逆に傷つけている状況……。私が止めなきゃ」と、さらに決意を燃やす。


 ある夜、ロイから小さな手紙が届いた。


「隊長を支持する騎士仲間が何名か協力を申し出ている。少しずつ王都内部で隊長の復権を画策してみる」との内容だ。

 アリシアは「ありがとう、ロイ……」とほっと胸をなで下ろす。


「時間はかかりそうだけど、私たちはこのまま下町で彼らをサポートしつつ、王への道を切り開くわ。……闇商人や騎士団の腐敗が進む前に、どうにか対策を打たないとね」


 ガロンもうなずき、「そのためにも、あのバカ王を正気に戻させなきゃいけねえんだろ? お前が命懸けでやるなら、オレも付き合うぜ」と頼もしげに笑う。

 アリシアは感謝を込めて微笑み返し、「絶対にレイジの名誉を回復させてみせるわ」と誓う。




 一方、レイジ・リオネ・セトは賢者学院の敷地内へ夜間に潜入し、長老との約束どおり研究室で密談を果たす。

 長老は徹夜のように古文書を読み漁り、「精霊王と神の実験を巡る過去の記録は、断片的にしか残っていない……」と嘆くが、セトとリオネが施療院での事例や、レイジの小規模治癒の成果を詳しく報告すると興味を示す。


「これは驚くべき発見じゃ。『破滅の源』と呼ばれた魔力が、世界を壊すどころか救い始めている。封印する必要などなく、むしろ世界再生を加速させる可能性がある……。だが、封印派をどう説得するか……」


 長老は深く唸り、「まずは学院の有力賢者を集めた『賢者会議』で発表させよう。王国への影響力は強いが、ここで多数を得れば封印派の独断を阻止できるかもしれん」と提案する。


 セトが目を輝かせる。


「賢者会議……王国騎士や連合軍からも視察が来る可能性がありますけど、それでも学院として公式に『レイジを封印せず、再生を支援すべき』と表明できれば、大きな追い風になるはずです!」


 リオネは頷きつつ「ただ、ユダの手先が学院内に潜んでいるかもしれないわ。会議の場を混乱させたり、暗殺を企てる可能性も……」と不安視する。


 レイジは深い呼吸をして意見する。


「どのみち逃げていても仕方がない。僕この学院で公式に研究を発表し、『世界を壊す存在じゃない』と証明したい。それがアリシアさんたちの努力を支えることにもなると思うんだ……」


 長老はしばし沈黙し、やがて大きく頷く。


「わかった。三日後に賢者会議を開く。王国や連合軍にも通知が届くだろうが、わしが議題をコントロールし、レイジの研究発表の場を用意する。そなたらも入念な準備をしておくがよい。それが……この学院と世界を救うかもしれん」


 セト・リオネ・レイジは決意に燃え、頭を下げる。

 危険を承知で臨む大舞台だが、ここで成功すれば王国や連合軍への強いメッセージになる――『封印ではなく再生を』という。


 同じく三日後、王都と賢者学院の間に密かに情報が飛び交う。

「賢者会議でレイジが再生の力を発表するらしい」「王はレイジ排除のため、騎士団を差し向けるかも」といった噂が錯綜する。

 アリシアとガロンは下町での潜伏を続けながら、ロイから「学院が動き出す」という情報を手に入れ、対応策を検討し始める。



 闇商人ユダは連合軍に密使を送り込み、「レイジが王国と学院を結託させ、連合領を侵略する兵器となる」「いまのうちに連合軍が武力で圧迫すれば、王国は崩壊し、連合が主導権を握れる」と吹聴しているという情報が流れてきた。


 連合軍内部でも強硬派は「レイジは危険だ。連合こそが捕獲し、世界を制圧する糸口にすべきだ」と考える者が増え、国境付近に軍を増強しているらしい。

 もしこのままユダの煽りが成功すれば、連合軍が王国へ攻め込むか、あるいは賢者学院へ武力侵攻を試みる可能性さえある。


 レイジやアリシア、セトたちには重々承知の事態だ。

 神の観察なんて関係なく、人間の欲が争いを起こしているのだ――『神の実験』を超えてもなお、人間同士が自滅に向かう危険は残る。



 王都の下町宿で待機するアリシアとガロンは、ロイから重大な報せを受ける。


「近々、王と騎士団上層が『緊急評定』を開くらしい。連合軍の動向と、賢者学院の動きも絡んで、大きな方針が決まる見通しだ。もし隊長がそこで王と直談判できれば、レイジを擁護する機会があるかもしれない」とのこと。


 ガロンは腕を組んで「ようやく正面突破のチャンスか?」と笑う。

 アリシアは決意に瞳を光らせ、「ロイが私の潜伏先を明かさず、王との直接面談を取り付けてくれるなら、それがベストね。……本当に成功すれば、王国の態度を変えられる可能性がある」と頷く。


「だが、ユダや封印派が出し抜いてくるかもしれねえ。最悪、王が隊長を捕らえた上で『見せしめ』にする恐れもあるんだぞ」とガロンが警戒を促すが、アリシアは微かな笑みで「大丈夫。私も、ただ大人しく捕まるつもりはない。もしダメなら――あなたの斧を借りるわ」と答える。



 一方、賢者学院の長老からは「三日後に賢者会議を開き、レイジとセトが『再生の魔力理論』を発表する。その場に学院封印派や王国代表、連合軍使者も来る可能性がある。緊張は不可避だが、これを乗り越えれば世界再生への大きな一歩を踏み出せるだろう」と通達が出される。


 レイジは胸を押さえて「王国や連合軍の代表が来るなら、アリシアさんとガロンも動いているはず。まさか会議の場で再会するかな……」と呟くと、リオネは「ふふ、それが一番の理想形ね。レイジたちとアリシアたちが同じ場所で『再生』を示せれば、騎士団も連合軍も一度に説得できるかもしれないわ」と微笑む。


 セトは「そう簡単ではないにせよ、アリシアが王都で王を説得し、王国派の偉い賢者を動かしてくれれば、会議の成功率も上がる」と期待を抱く。


 しかし、ユダや封印派の闇謀が激化するのは間違いない。

 三日後の賢者会議が、最終的に大きな衝突の舞台となるかもしれない。

 そして連合軍がいつ仕掛けてもおかしくない状況――神の観察から自由になりかけている世界は、しかし人間同士の欲望によって別の破滅へ転げ落ちる危険をはらんでいるのだ。


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