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第9章:連合軍&ユダの襲撃(2)

 戦いのバランスは拮抗しつつも、闇商人の私兵に大きな被害が出たようだ。

 リーダー格の男が横腹を押さえながら後退し、残存兵に向かって怒鳴る。


「くっ、ここまでか……!だが、『破滅の魔術師』はまだ殺してはいない。ユダ様の下へ引き上げるぞ。連合軍もここまで消耗したなら、これ以上は追ってこないはずだ!」


 私兵らは退却命令を聞くと次々に霧散するように走り去る。

 ガロンが「逃がすかよ!」と追おうとするが、アリシアが手で制止する。


「深追いは危険よ! ここで分散すれば、私兵の増援に包囲されるかもしれない。それより、早くここを離れたほうがいい」


 セトも急ぎ足で周囲を見回し、「まだ連合軍兵が残ってる。あまり派手に動けば衝突が再開するかも……」と同意する。


 リオネがレイジに近づき、「ケガはない?」と心配そうに尋ねる。

 レイジは汗でびっしょりだが、大きな外傷は負っていない。


「大丈夫。みんなのおかげで助かった。闇商人も逃げ出して、連合軍も混乱してるなら、今のうちに湖の対岸かもっと奥へ進もう」


 アリシアもうなずき、「そうね。闇商人や連合軍が体勢を立て直したら、またすぐ交戦になるかもしれない」と言う。


 ガロンは斧を肩に担ぎながら、「連合軍の負傷兵を見捨てるのか? 奴らが敵なのは分かるが、人として放っておくのは胸糞悪いな……」と低く唸る。

 リオネも苦い顔をするが、セトが冷静に口を開く。


「時間がない。ここで彼らを助ければ、こっちが見つかってしまう危険が大きいし、何より『排除命令』を受けている連合軍が仕切り直してくる可能性もある。残酷だが、今は撤退が得策だ」


 結局、五人は涙をのむ形で連合軍兵を見捨て、湖の反対岸方面へ移動を開始する。

 無論、強い罪悪感は拭えないが、ここで捕まれば世界を救う道が絶たれるかもしれない。

 アリシアも苦悩を押し殺しながら、「ごめんなさい……」と呟き、足を進めた。



 連合軍と闇商人の戦場となった湖畔から遠ざかり、さらに奥へ進むと、そこには一段と霧が深く、しかし神秘的な雰囲気の場所が広がっていた。

 石碑がいくつも並び、水面に半ば沈んでいる。

 目をこらすと古代文字らしきものが刻まれ、あの霧の森やエルフの里で見た紋様に似ているのが分かった。


「ここが、本当の意味での『結界の湖』かもしれない……」


 セトが感嘆の息を漏らす。

 魔力探査用の魔道具がピリピリと振動しており、強い力場が存在する証拠だ。

 リオネも目を丸くし、「すごい……ちょっと鳥肌が立つくらい、空気がひんやりしてるわ」と言う。


 アリシアとガロンが警戒しながら周囲を回り、魔物の気配がないか確認する。

 一度大きな戦闘を経たばかりで疲労困憊だが、ここを逃せばいつ襲われるか分からない。


「よし、日が暮れる前に、せめて儀式の準備だけしてみよう。リオネ、あなたの『精霊の歌』と、セトの『結界補助』を組み合わせれば、何か道が開けるかもしれない」


 リオネは「あいよ!」とウインクし、セトは「準備するものが多いが、一度やってみるしかない」と腰に付けた小さな袋から道具を取り出す。

 日が沈み、あたりが深い紺色に染まり始める。

 湖面には月が薄く映り、霧の立ち上る様子が幻想的だった。

 皆が息を呑みながら、その光景を見つめる。


 リオネは静かに弦を調整し、唇から柔らかなメロディを紡ぎ始める。

 確かにエルフの里で聞いた伝承――『月夜に捧げる歌』が必要だと。

 リオネの歌は霧の中で響き、セトが同調するように結界の紋様を地面に描く。



 リオネの歌声は、まるで霧を震わせるかのように澄み渡り、セトの結界魔法がそれに合わせて淡い光を放ちはじめる。

 湖面の月影が揺らぎ、水中から小さな光の粒が舞い上がるかのように見えた。


「すごい……なに、この光……?」


 レイジが息を呑むと、セトは驚嘆の表情を浮かべながらも必死に術式を維持している。


「わからない……けど、何らかの古代結界が反応してるのは確かだ。リオネの歌と僕の結界が共鳴してるのかもしれない!」


 湖面の中央付近に一筋の光が差し込み、霧が螺旋を描くように舞い上がる。

 アリシアが手をかざして目を細める。風が吹き始め、水面を波紋が走る。


「まるで……門が開きかけているような……?」


 その光景は、まさに異世界への扉が現れるかのようだ。

 薄く輝く魔方陣が湖上に浮かび、水柱のようなものが立ち上がる寸前、凄まじい力が一気に噴き出す。


 レイジたちは突風にあおられ、「うわっ!」と後ずさる。

 だが、次の瞬間、光は不安定に揺らぎ、魔方陣がバチバチと火花を散らしながら崩れていった。


 リオネが驚いたように弦を抑え、「や、やだ、途中で力が急に乱れた……」と苦悶の声を上げる。

 セトも地面に片膝をつき、「くそ、結界が崩される……強力な干渉が外から加わったんだ!」と叫ぶ。


 彼らの背後から複数の刺すような殺気が漂う。

「なるほど、ここで儀式をしてたのか。おかげで居場所が分かりやすくて助かったぜ」



 その声は冷徹かつ上品な響きを伴っていた。

 振り返ると、そこには黒い礼服を着た細身の男、漆黒の髪を揺らし、不敵な笑みを浮かべている――。

 闇商人の頭目、ユダ・ブラッディだった。


 周囲には闇商人の私兵が十数名配置され、戦闘準備を整えている。

 先ほど逃げ去った私兵の生き残りもいるのか、傷を負いながらも再結集している様子だ。


「まさか、こんな短期間でユダ本人が来るなんて……」


 アリシアは目を見開く。

 ユダは優雅に片手を掲げ、深く一礼する仕草を見せる。


「ごきげんよう、皆さん。破滅の魔術師と、王国騎士の逃亡者、賢者学院の裏切り者に吟遊詩人、そして荒野の大男……これはまたバラエティに富んだ顔ぶれだね」


 ユダの言葉には嘲笑や見下しが込められているが、その瞳には飽くなき欲望と冷徹な知性が光っている。

 レイジはその男を見つめながら、背筋に寒気を覚える。


「どうやら、さきほどの連合軍との小競り合いでは私の部下が労を取ってくれたようだが、彼らにとっては君たちを追い詰めるための時間稼ぎ程度だった。うまくいったよ、私はこうして直接ご挨拶に来られたんだから」


 ユダは上品な微笑を浮かべ、揺れる湖面に視線をやる。

 崩壊しかけの結界の余波がまだ残っており、水柱が不安定に揺らめいている。


「なるほどね……ここで『精霊王』とやらを呼び出そうと? もし世界を救う力があるなら、それは素晴らしい商品になる。むろん、破滅を招く力ならなおのこと。どちらにせよ、君たちがここで何かをしようとしている以上、それを妨害するのも楽しそうだ」


 アリシアが剣を抜き、震える怒りを抑えた声を出す。


「ふざけるな……世界をおもちゃにするつもりか?」


 ユダは笑いをやめ、冷たい瞳を向ける。「おもちゃ、ね。いかにも私は金の流れこそが至上の価値と思っている。戦乱や破滅が訪れれば、市場が激変し莫大な利益が得られる。世界が滅びる? それはそれで別のマーケットが生まれるかもしれない。――私は『破滅も救済も商品』として扱うまでさ」


 その歪んだ哲学に、レイジは怒りで胸が詰まる。

 だがユダはまったく悪びれず続ける。


「レイジくん、だったかな。君の無尽蔵の魔力を使わせてもらえれば、戦乱を引き起こすにせよ、統治の形を作るにせよ、思いのままだ。さあ、私のもとへ来れば、好きなだけ力を振るえるよ?」


 嘲るような口調。

 レイジは歯を食いしばり、瞳に憤怒を宿す。


「そんなの……絶対に嫌だ。世界を壊すために力を使うわけがないだろ!」


 ユダはふう、と面倒くさそうに息をつく。


「ああ、そうかい。なら、この場で排除するまでだね。私の部下が大勢いるし、君たちは疲れきってるだろう? もう逃げ道はないよ。連合軍も近いし、王国騎士団の追手もどこかに潜んでるかもしれない。君たちの時間は尽きたんだ」


 闇商人の私兵が円を描くように五人を取り囲む。

 光を失った夕暮れの湖面が、不穏な風を立てている。

 セトはもう結界を使いすぎて息が上がっており、リオネも矢が残り少ない。

 ガロンも怪我を負い、アリシアも連戦で体力が限界に近い。

 レイジだけが多少余力を残しているが、それは『大魔法を使えば暴走の危険』というリスク付き。


 レイジの思考が堂々巡りを始める。

 だが、アリシアが一歩前に出て、ユダを鋭く見据えた。


「まだ、終わらない。私たちには『守るべきもの』がある。あなたの歪んだ欲望に屈する気はない」


 ユダは嘲笑を深め、「その剣、今にも折れそうだな」と冷たく言い放つ。

 私兵が武器を構え、数秒後には再び激突が始まろうとしている。

 レイジは唇を噛み、仲間へ視線を投げかける。


 リオネはかすかな微笑を返し、弦楽器を握る。

 セトは意識を集中し、残った魔力でどこまで結界を張れるか準備をする。

 ガロンは血まみれの斧を再び構え、アリシアは剣先をユダに向けた。

 レイジの胸中で、魔力が激しく燃え上がるように揺らぎ始める。

 仲間を守るためなら……使うしかないのか?

 だが、暴走すれば彼らまで巻き込んでしまう。


 緊迫した空気のなか、ユダが手を振り下ろし、私兵たちが一斉に襲いかかる瞬間――。

 リオネの歌声が再び響いた。


「――闇を裂く、あの大いなる調べよ……」


 彼女は力強く弦を弾き、仲間の士気を高めるような旋律を奏でる。

 セトがそのリズムに合わせて保護結界を展開し、ガロンとアリシアが同時に突撃する。


「うおおおお!」

「はあああっ!」


 激しい剣戟と斧打がユダの私兵たちを切り裂く。

 リオネの音色が精神を鼓舞する効果を持っており、仲間の動きが普段より研ぎ澄まされるのだ。

 セトの結界が外周を覆い、敵の魔法攻撃をある程度防ぐことに成功する。


「なにっ……!? こんなにボロボロのはずなのに、どうしてこれほど……」


 私兵の一人が驚きの声を上げるが、その間にガロンの斧が振り下ろされ、敵は吹き飛ぶ。

 アリシアの剣も閃き、先ほどまでの疲労を感じさせない鋭い動きで敵を屠る。


 レイジは仲間の奮闘を見つめながら、魔力がいまにも溢れ出しそうになるのを必死に抑える。

 アリシアやガロンが前衛を支え、リオネとセトが支援する。

 彼が出る幕は最小限でいい。


 ユダはその想定外の展開に苛立ちを隠さず、冷酷な声を響かせる。


「貴様ら、何をもたついている!私兵の名に恥じるつもりか!」


 私兵リーダーが「しかし、奴らの連携が……」と弁解するが、ユダは「もういい、私がやる」と呟き、懐から漆黒の魔道具を取り出す。

 歪んだ水晶に刻まれた紋様が妖しく光ると、周囲の空気が震えるのを感じた。


「その魔道具……やばい雰囲気がするぞ!」


 ガロンが警戒した刹那、ユダが水晶に魔力を注ぎ込み、濃密な闇の波動が周囲を覆った。

 風がうねり、湖面がビリビリと震え、まるで結界を侵食するような禍々しい気が流れ出す。


「ふふ……『闇の封呪』と呼ばれる代物だ。もともと禁じられた魔道具だが、闇商人たる私には関係ない。これで君たちの保護結界など一瞬で打ち消せるだろう」


 セトが「くっ……結界が崩される!」と悲鳴に似た声を上げた。

 リオネの歌もかき消されるように揺らぎ、ガロンとアリシアの動きに影響が及び始める。

 体感的に筋力や意志が引き下げられる感覚――まるで闇の圧力が精神を浸食するかのようだった。


「このままでは仲間が危ない……!」


 レイジは限界を感じ、魔力の制限を解こうとする。

 自分が暴走しない程度で攻撃魔法を発動できれば、ユダの闇魔道具を破壊できるかもしれない。

 胸の奥で高まる熱量を感じ、レイジは手をかざす。

 ユダが薄く嘲笑を浮かべるのが見えた。


「おやおや、君が大魔力を使うのかい? なら、もっと面白いことになる。世界を壊す力、ここで見せてみなよ」


 レイジは拳を握りしめ、魔力を収束させる。

 頭の中で警鐘が鳴るが、仲間を守るためなら――。


 地面が震え、彼の足元から奔流のような魔力が湧き上がる。

 周囲の空気が振動し、湖面に大きな波紋が立つ。


「レイジ、やめろっ!」


 アリシアの悲鳴じみた声が響く。

 彼女もユダの闇の波動に苦しみながら、必死でレイジを制止しようとする。

 だがレイジも内心でブレーキを掛けられず、力があふれていくのを感じた。


 暴走寸前の意識。視界がチカチカと白んでいく。

 『神の神殿』が頭をよぎるが、そんなことを気にしている余裕はない。

 むしろ、この力を解放して闇商人を一瞬で消し飛ばすしかないと思い始めていた。

 が――、その腕を何者かが強く抱きしめる。


「レイジ、落ち着いて!」


 声はアリシアだった。

 彼女は全身で闇の圧力を受けながらも、レイジを抱きとめるようにして必死に呼びかける。


「あなたが暴走すれば、私たちもこの場所も全部……ダメになるかもしれない!」


 その瞬間、レイジははっと我に返る。

 視界に入ったアリシアの横顔、頬から血が滲むほど苦しみながらも、必死に自分を止めようとしている。


 苦悶の末、レイジは魔力の暴走をギリギリのところで抑えこむ。

 歯を食いしばり、息も絶え絶えになりながら、無理やりエネルギーを胸の奥に閉じ込める。

 体内に激痛が走るが、それでも世界を守りたい意思が勝った。


「……っ……!」


 レイジがうずくまるように膝をつき、アリシアがその背中を支える。

 ユダは口笛を吹くように嘲笑する。


「おや、やめてしまうの? この場で破滅を起こせば、君の仲間も連合軍も、みんな吹き飛ぶけど面倒が一掃されるというのに。もっと愉しませてくれないのかな」


 ガロンが血走った目でユダを睨み、「てめえ……」と唸るが、闇の波動はまだ続いている。

 セトやリオネも力を振り絞って対抗しているが、圧倒的に不利だ。

 アリシアは苦渋の決断を下す。


「ガロン、リオネ、セト……レイジを連れて退くわよ! ここは一度引き下がるしかない!」

「でも、このままじゃ結界の湖が……」


 リオネが悔しそうに声を漏らす。

 セトも「ユダを倒さない限り、いつまた襲われるか分からない……」と歯ぎしりする。

 ガロンは「くそっ、俺はまだ戦える……!」と吼えるが、アリシアが振り返って雷のような声を上げる。


「ダメよ! レイジが暴走しかけてるのが分からないの? これ以上無茶すれば本当に取り返しがつかなくなる!」


 現状、五人でユダの闇魔道具を突破し、私兵の大勢を相手に戦うのはリスクが高すぎる。

 彼らが命を落とせば、世界を守る可能性も完全に潰えてしまう――それがアリシアの下した苦渋の選択だった。


 しかも、夜になれば月夜の歌で聖域への道が開くかもしれないが、このまま戦場で体力を消耗すれば、儀式どころではない。

 ここは一時撤退が最善なのだ。


「……ちっ、仕方ない!」


 ガロンは拳を振り下ろし、斧を振り回して私兵を威嚇しつつ後退を始める。

 リオネも弓を放ち、敵の進路を牽制してアリシアらが動きやすいようにサポートする。

 セトは薄い防御結界を張って、闇の波動を最低限に抑え込みながらレイジを連れて後方へ下がる。


 ユダが「逃がすな」と合図するが、闇商人の私兵も十分に疲弊しているため、一斉に追撃を仕掛ける勢いはない。

 加えて、ここで大規模な戦闘を続ければ連合軍が態勢を立て直して再突撃するリスクもある。

 ユダは手を振り、「まあいい。今はこれで十分だ」と私兵に命じて深追いを控える。


 レイジたちは湖畔の林へ逃げ込み、どこか安全な場所を探しながら足早に移動する。

 レイジを支えるアリシアの腕には震えがあるが、彼女は歯を食いしばって倒れそうなレイジを支え続ける。


「ごめん、俺……また助けられちゃって……」


 レイジは悔しさに涙がにじむ。

 もっと力をうまく使えれば、仲間を危険にさらさずに済むのに。


「あなたが生きてくれるなら、それだけでいい。私たちは仲間だから。それより、暴走を止めてくれてよかった……」


 アリシアの言葉には切なさと安堵が入り混じっている。

 レイジは弱々しく微笑み、仲間の絆の深さを痛感する。


 こうして、ユダとの直接対決は回避された形になったが、同時に『結界の湖』で行おうとした儀式は中断を余儀なくされた。

 夜になれば再挑戦も可能だが、ユダの干渉や闇商人の襲撃が予想されるため、再びリスクを負わねばならない。

 さらに連合軍や王国騎士団がこの地へ進出してきたことも大きな問題だ。

 今後、いつどこで三つ巴の状況になるか分からない。



 夜の帳が降り、五人は湖畔からさらに離れた林の奥深くに小さな隠れ場所を見つけ、そこで野営を張った。

 疲れ切った身体を休ませながら、今後の作戦を練っている。

 アリシアが低い声でまとめる。


「結界の湖が鍵なのは間違いない。でも、ユダが狙っている以上、正面から儀式を行うのは難しい。もっと別の方法で『精霊王』への道を開く必要があるかもしれない」


 セトはノートに書き込みながら頷く。


「たとえば、湖の別の岸辺や地下水脈、月夜の位置……いろんな条件を変えれば、ユダに邪魔されずに儀式を行える可能性がある。時間はかかるけど、手探りで探すしかないね」


 ガロンが腕を組み、「それまで闇商人の連中が黙ってるとは思えねえ。連合軍や王国騎士団も邪魔をしてくるかもだぜ? いずれにせよ、次にユダと当たるときは本気で決着をつけるか逃げるかしないと危ない」と苦い顔をする。


 リオネは歌うように「そうね……けど、大丈夫。みんながいれば、どんな敵だって打ち負かすか、あるいはうまく躱せるって信じてる」と微笑んだ。


 レイジは座ったまま、俯いて手を握りしめる。


「本当は……力を暴走させるんじゃなく、正しく使える日が来るなら。みんなを守りたくて、そのために精霊王を探してるのに、こうして仲間に迷惑ばかりかけて……」


 すると、アリシアがレイジの手に自分の手を重ね、「迷惑なんかじゃない。あなたと一緒に『世界を守る方法』を探すって決めたのは私たちなんだから、共に支え合うのが当然」と優しく声をかける。

 ガロンやリオネ、セトも同意の視線を向け、深くうなずいた。


 仲間の結束を再確認した彼らは、夜の闇の中で静かに目を閉じる。

 明日になれば再び闇商人や連合軍、あるいは王国騎士団の追手が襲いかかるかもしれない。


 それでも、アリシアの覚悟やガロンの力、リオネとセトの知恵、そしてレイジの優しさと意志が一つに結束すれば、きっと道は切り開けると信じたい。

 『破滅の救世主』ではなく、『本物の救世主』として世界を守るために。


 こうして、再び夜明けを迎える前、彼らは短い眠りについた。

 闇商人の暗躍は熾烈を極め、連合軍と王国の対立も激化するなか、五人は結界の湖に秘められた精霊王の力を求めて旅を続けるのだった。


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