田舎の冬は暑すぎる
あのさ、昔のことを思い出したからちょっとその話を聞いてくれ。
高校2年の夏の日だった。
俺は突然不登校になっていた。
別にいじめられていたわけでも友達がいなかったわけでもない。ただ、なんとなく学校が嫌になった。
こんな言い方だとただのサボりにしか聞こえないが、、、まあそんな認識でいいか。
その時の俺は本当に何もする気がおきなかった。ただ夕方におきてスマホをいじって眠くなったら寝る、そんな生活を送っていた。
こんな生活を送っていたってなにかが変わるわけでも楽しいわけでもない。わかってる。でも体が動かない。
そんなある日、親が俺の部屋に入ってきてこう言った。
「いい加減にしろ。少しくらい外に出ろ。このままじゃ将来ニートだぞ。」
正直だるかった。でも外に出ないともっと怒られる。
俺は渋々外に出た。
意外にも外の空気は澄んでいて、風が心地よかった。
それに気を良くした俺は、少年の心をくすぐられたかのように家の前の道に飛び出した。
そして行く宛もなくただただ歩いた。気が済むまで歩き続けた。
どれくらい歩いただろうか。もうペットボトルの水はなくなっている。
周りの景色はいつの間にか草木が生い茂る。
とりあえず俺は自販機を見つけようと思った。
15分くらいだろうか。歩き回ってようやく見つけた。
ピッ、、、ガコン
俺は買った天然水をぐびっと飲んだ。めちゃくちゃ美味しかった。
するとかすかに向こうのほうからギターのような音がした。
それが無性に気になり音のする方に近づいてみた。
するとだんだん音が連続して聞こえてきて、なにかの音楽を演奏しているようだった。
数段の階段を登り、なにかの石碑を通り過ぎたときに近くの岩にある少女が腰掛けているのがみえた。
手にはギターをかかえ、まだこちらには気づいていなかった。
俺はしばらくギターの演奏というものを聴くことにした。
少女は俺に気づくことなくしばらくギターを演奏していた。
その演奏はいままでの疲れを忘れさせてくれた。
するといきなり音が止まった。
様子を見ると少女がこちらを見ていた。
物陰に隠れられているつもりだったが、すこし服が見えていたらしい。
「だれ?」
少女がおそるおそる尋ねる。
「ごめん、たまたまここを通りかかってギターが聞こえたから気になって」
おれは物陰から姿を現し答えた。
すると少女が
「高校生、、、?学校は、、、?」
おれは今までの安らかな時間が嘘のように緊張状態になった。
「えっと、、、行ってないんだ、、、」
おれはすごく恥ずかしかった。しかし少女は
「え、ほんと?実は私も!」
と、笑顔で答えた。
お互い仲間が見つかって嬉しいのかそれから少女といろいろ話した。
少女は意外にも性格は明るく、話を進んでしてくれた。
少女は現在中3で中2の夏頃から不登校らしい。原因はいじめでそれについても話してくれた。
中2の夏、クラスの端っこにいるような人がいじめられていた。
それをなんとか助けてあげようと頑張っていたら、それをいじめられていた子がいじめっ子に伝えて標的が自分に変わったらしい。
俺は助けようとした人から裏切られるなんて想像するだけでもお腹が痛くなるなんて思いながら聞いていた。
「それってさ、いじめられてた子に裏切r、、」
「ちがうよ!悪いのはいじめっこだからあのこは悪くない。」
俺は、正直彼女がかっこいいと思った。
自分が同じ立場ならこんな事は言えない。
そして彼女は一息置いて俺にこう伝えた。
「私さ、いつもここにいるから不登校なら来なよ!」
俺は断ることができなかった。というか断る理由がなかった。
それから俺は毎日のように彼女に会いに行った。彼女も毎日のようにギターをもってそこに座っていた。
俺が外出するようになったからか親はいつもより優しく接してくれるようになった。
そんなある日、俺がいつものようにあそこへ行くと珍しくギターの音がしなかった。
今日はギターを弾きたくない気分なのかなあ、と思っていたら彼女がいつもの場所で泣きながら座っていた。
俺は慌てて近づいて話を聞いた。
「え、えっとね、、、私のギター、、、ウッ、、ス、、、、、、、捨てられたの、、、」
彼女がいつも大切に持っていたギター。楽しそうに弾いていたギター。それが捨てられたらしい。
俺は混乱していたがなんとか冷静を装って彼女が落ち着くまで待った。
「詳しく聞かせてくれる?」
「うん、実は私ねここに来ていた理由が家にいたくないからなんだ。父親は他の女つくって出ていったし、お母さんは毎日酒を飲んで最近は暴力まで振るってくるようになったの。ギターはお母さんに壊されて捨てられた。」
彼女はすべて言い終わるとまた泣き始めた。
俺は話を聞いてて心苦しかった。少し考えればもっと早くわかっていたかもしれない。
なんで毎日十何時間も中学生がここにいることに疑問を持たなかったのだろうか。
自分の非力さと彼女への同情の心とでおれも泣きそうになった。
そんな時彼女がまた話し始めた。
「でもね、私ここ来ることだけでも幸せなの。ただギターを弾いて時間を潰していたあのときとは違う。俺くんがここに来るようになってから毎日ここに来るのが楽しかった。辛い記憶もこのときだけは忘れられた。だからね、ありがとう。」
我慢してた俺の涙が一気に溢れ出した。もう嬉しいのか悲しいのかわからなかった。
30分くらい二人で泣いた。そしてその日はできる限り暗くなるまで彼女のそばにいて帰ることにした。
俺は家に帰ってすぐに親に相談を持ちかけた。
「とおさん、かあさん、おれバイトしたい。どうしたらいい?」
両親は最初こそびっくりしていたものの少しすると笑って履歴書を見せてきた。
「何をするかにもよるが、基本的に履歴書と面接だ。高校に行ってない分こういうのに挑戦してみるのもいいな」
次の日俺は早速準備した。それからは早かった。
バイト先を探し見つけ、見事アルバイトとしてコンビニの深夜バイトに採用された。
それからいつもの生活にバイトが加わった生活が始まった。最初はなれなかったが、しばらくするとすぐに仕事を終えられるようになった。そして仮眠をバイト中に取れるようになった。田舎のコンビニなので夜は人がほぼこない。
もちろん彼女とは毎日会っている。
それからしばらくたち、俺は新しい青いギターを1つ抱え彼女に会いに行った。
「あ、やっときた。今日はなにする、、、ってそのギター何?どうしたの?」
俺は彼女にそっとギターを渡した。
「え、え、わたしにくれるの?すごく申し訳ないよ、、、」
と言いつつも彼女はかわいい顔でニヤニヤしている。
「あげるよ」
その途端彼女は俺に満面の笑みを見せた。
「ほんと?!ありがと!」
俺はその言葉になぜか異様に緊張した。俺は何も言えずコクリと頷いた。
「それにしてもこんなきれいなギター持ってたんだね」
「ずいぶんまえに買ってもらったけど飽きて使わなくてさ」
バイトで稼いだお金で買ったなんて言ったら彼女に余計な心配をかけてしまう。
だから俺はそのことは秘密にすることにした。
ギターを持った彼女は楽しそうにギターを弾き始めた。
夏の青空の下、1つ小さな幸せが生まれた。どこまでも響く、夏の暑ささえ忘れてしまうギターの音。
俺はそんな彼女のギターを聴きながら青い空を見つめていた。
すると彼女が口を開く
「私、不登校になって良かったかも。だって俺くんと出会えたんだもん。」
彼女は笑っていた。
「俺も同感だよ。」
俺も笑ってこたえた。
俺にとって彼女との出会いは本当に素晴らしいものだった。俺はおそらく一生忘れないだろう。この夏の日を。
、、、
俺は昨日雪の中彼女の葬式に参列した。青いギターが彼女の横に横たわっていた。もう一回くらいギター弾いてる笑った顔を見たかったな。これから火葬か、、、暑いだろうねあの夏みたいに。それは暑すぎか、、、
俺は寂しくないよ。だって俺もうすぐに君のところへ行くんだから。君の腐った父親も一緒だけど。
どこに行ったって必ず見つけてあげる。君も君の父親も。
今更だけど大好きだよ
終わり