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悪魔辺境伯の幸福花嫁〜旦那様、私は貴方のお役に立てていますか?〜  作者: 心音瑠璃


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通じ合う想い

「話してくださって、ありがとうございます。

 不謹慎かもしれませんが、旦那様の口から旦那様のお話を聞くことが出来て……、私が知らない旦那様の過去を知ることが出来て、嬉しいです」

「……!!」


 旦那様の瞳が、これ以上ないほど見開かれる。

 私はその瞳を見て、心外だとばかりに口にした。


「逆に、なぜそんなお顔をなさるのですか?」

「……怖く、ないのか?」

「なぜ?」

「いや、なぜって……」


 旦那様の戸惑ったような表情に息を吐くと、じっと旦那様の瞳から視線を逸らさずに言った。


「“悪魔辺境伯”と呼ばれる所以が前辺境伯様を手にかけたことによるものならば、それはあくまで旦那様の事情も性格もよく知らない方々が勝手につけたあだ名なのですから、気にする必要はありません。……いえ、そうは言ってもやっぱり気になりますから私が触れ回りたいくらいです。

『旦那様はとっても優しくてとっても素敵な英雄様です』と」

「き、気持ちだけは有り難く受け取っておこう、って、そうではなくて」

「ではお話を変えさせていただきますが、旦那様は私の出生を……、私が侯爵家の侍女であって側妻ではなかった母から生まれたことも、すでにご存知ですよね?」

「!」


 旦那様の目が僅かに見開かれる。

 その反応を見るに、知っていたことに違いはないだろう。


(そう、私が侯爵家で厭われていたのは、母が側妻でもないただの侍女であり、侯爵様にお手付きされたことで生まれてしまったから。

 それも、ビアンカ様と同じ年の同じ月に)


「……旦那様もご存知の通り、私は間違いなく望まれて生まれてきた子ではありませんでした。

 この背中に受けた傷も、私が生まれてきたことによる罰が下っているのだと、物心がつく前からずっと思っていました。

 でも、今は違います。以前にも申し上げましたが、私は私として生を受けて、必死に生きてきて良かったと心から思えるようになりました。

 それは、こうして旦那様やウィバリー国の皆様と出会ったことで、私は“本当の私”を見つけることが出来たから。

 心の底から、笑えるようにもなったのです」


 だから、と旦那様に向かい、旦那様のおかげで浮かべられるようになった心からの笑みを浮かべて、再びの言葉を紡ぐ。


「私は旦那様……、いえ、アレックス様のことが好きです。

 アレックス様は、どう思われますか?」

「…………っ」


 アレックス様の瞳が、溢れんばかりに見開かれる。

 そして訪れた沈黙に、俯き気味に口にした。


「……やっぱり、元侯爵令嬢で傷だらけの私は、アレックス様には相応しくな、んっ……!?」


 告げようとした言葉は途中で潰える。

 それは。


(……っ、だ、旦那様……!?)


 それ以上言わせないと言わんばかりに、アレックス様に口付けられてしまったからだ。

 ……それも、触れるだけでもなければ、決して短くもなくて。


「……っ、……んっ!?」


 初めての口付けだけれど、一つ分かることは。


(こ、これは初めてにしては刺激が強すぎるわ……っ!?)


 耐えきれず固い胸を押してみるけれど、離れるどころか深さは増すばかりで。

 パニックに陥った私は、必死の思いでドンッ、ドンッと固い胸を叩いた。

 それにようやく気付いてくださったようで、旦那様は慌てたように身体を離した。


「ティ、ティアナ! 大丈夫か!?」

「…………っ」


 苦しさと恥ずかしさから、生理的にボロボロと涙が溢れる。

 それを見た旦那様の顔が青ざめる。そして、私の涙を不器用に拭ってくれながら必死に謝った。


「す、すまない、可愛いくてつい、衝動で……」

「……っ!?」

「い、嫌だったよな、断りもなく突然本当にすまない……」

「あ、謝らないで、ください……」

「えっ?」


 涙を拭ってくれた大きな手を両手で包むように握ってから、じっと旦那様を見上げて震える声で尋ねた。


「だ、旦那様が私を、か、可愛いと思ってくださって、それから、口付けてくださったということは……、私と、同じ気持ちを抱いてくださっている、ということでよろしいのでしょうか……?」


 旦那様は息を呑む。私がじっと言葉を待っていると、やがて旦那様は私の両手を下ろして握り、私を見つめ返して頷いた。


「……あぁ。俺も君と同じ気持ちだ。君のことが好きだ、ティアナ」

「…………!!」


 旦那様の真っ直ぐな言葉に、心が打ち震える。

 驚き過ぎて言葉が出ない私に、旦那様は頬を赤らめながら、それでも必死な様子で私から視線を逸らさずに続けた。


「『俺が君を愛することはない』、と嫁いできてくれた君に初対面で告げた挙句、“悪魔辺境伯”と呼ばれている俺は、君に相応しくないと思っていた。

 俺の過去を知った時、君が俺を恐れるのではないかと思って怖かった。

 ……だが、君は正面から俺に向き合い、俺が作った壁を壊してくれた。

 その優しい心に、強さに救われたのは、俺の方だ」

「!」


 旦那様の手が頬に触れる。

 そして、私の顔を覗くようにして言葉を続けた。


「最初から間違えてばかりの俺の胸に、君は飛び込んできてくれた。

 だから今度こそ、君が許してくれるのならその想いを君ごと受け止めたい。

 君の告白を受け入れられなかった愚かな俺に、もう一度……、いや、改めて俺からも告白する権利を与えてくれないだろうか」

「!!」


 旦那様の漆黒の瞳が、私の返答をじっと待つ。

 その懇願するような瞳から、旦那様の想いが伝わってきて、涙が一筋頬を伝い落ちるのを感じながら「はい」と噛み締めるように頷くと、旦那様は「ありがとう」と柔らかく微笑む。

 その瞳に涙を滲ませながら、旦那様は私の両手を持ち上げると口を開いた。


「ティアナ。君を……、愛している」

「……! はい、私も……っ、アレックス様を、愛しています」


 そうお互いの想いを確かめて、照れ交じりに笑い合って。

 心からの幸せを感じている私の顔に、旦那様の顔が近付いて……、訪れる感触と幸福な未来を予感して、私はそっと目を閉じた。

ついに結ばれた二人…!♡

そして次話、明日20時の更新をもちまして最終回です!

最後まで二人のもどかしい恋を応援していただけたら嬉しいです。

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