この気持ちに決着を
ものすごくお待たせしてしまい申し訳ございません…!
年内に完結すべく今頑張っておりますので、気長にお待ちいただけたら幸いです(泣)
(皆様の応援のおかげで気付けば10万字を超えておりました、ありがとうございます…!)
翌日。
(……いらっしゃったわ)
旦那様から久しぶりに朝食を一緒にどうかと侍女のローナ伝に言われたけれど、それをお断りして、代わりに時間を作って別の場所でお話ししたいという約束を取り付けた。
その約束の場所というのはダンスの練習をするときに使う天井が高く広いお部屋。そして。
「なっ……」
思わずというふうに立ち止まった旦那様がその場で絶句する。それは私がいつものドレス姿とは打って変わりまるで少年のような格好をしているからか、それとも手にしている物が木剣だからか、将又その両方か。
分からないけれど、私は木剣を持つ手をグッと握り、ここから一歩も引かないわという強い意志で、旦那様に向かって言葉を発した。
「旦那様、私と勝負してください!」
「しょ、勝負?」
「はい!」
「まさかとは思うが……、その木剣でか?」
焦ったような旦那様のご様子を見るに、私のことを心配してのことだということが窺い知れて、嬉しさから笑みがこぼれそうになるのをグッと堪えて真剣な表情で答える。
「大丈夫です、日頃からローナに鍛えてもらっているので」
「ひ、日頃から鍛えているのか!?」
「はい。旦那様の妻として、辺境伯家の夫人たるもの自分の身は自分で守るべきだと思いますので」
「……!」
旦那様は驚いたように目を見開く。
(そんなに驚かれることかしら? 旦那様が日頃から騎士団を率いる団長として鍛錬されているのを見たら、私も弱い自分では駄目だと思ったから……)
私がお願いしたら、辺境伯家の侍従として鍛えているというローナは喜んで引き受けてくれたけれど、旦那様からしたら私に鍛錬なんてして欲しくはなかった……!? と青褪めてからハッとする。
(いけない、今はそれどころではなかったわ)
慌てて頭を振ると、旦那様を見据えてもう一度言う。
「わ、私と勝負してください!」
「だから何故そうなる……!?」
旦那様は困惑していた。
確かに何の前触れもないどころか朝食の席を断った挙句、呼び出された場所に木剣を構えて待っている妻がいたら無理もないわよね……と冷静になった私は、木剣を下ろして口を開く。
「……旦那様は、私のことを避けていらっしゃいますよね」
「……っ」
旦那様が息を呑んだのが遠目でも分かる。
それを是と捉え胸がツキリと痛んだけれど、見て見ぬふりをして言葉を続ける。
「もしかしなくてもきっと、私があの日、告白してしまったことで旦那様を困らせているのだと思います。
……ですから、これは私なりのけじめだと思っていただければ幸いです」
「けじめ……?」
視界が涙で滲みそうになるけれど、深刻にならないようグッと堪えて努めて明るく口にする。
「もし私が勝ったら、旦那様のお気持ちをお聞かせください。
そして、もし私が負けたら……、今後旦那様を困らせるようなことは、決して二度としないと誓います」
「…………!!」
困らせるようなこと。
旦那様も言葉の意味がお分かりになったのだろう。
(つまり、私が今後一切この前のように、自分の気持ちを旦那様に告げるような真似はしないことを)
『俺が君を愛することはない』
旦那様と出会うなり開口一番告げられた言葉は、この言葉だった。
それにもかかわらず、私は旦那様を好きになってしまった。
旦那様にとって、迷惑であることに違いはないのだ。
(でも)
旦那様からはっきりと拒絶されなければ、この気持ちをが諦められる気がしない。
……いえ、拒絶されてもこの感情は育ってしまうかもしれないけれど、それでも。
「最初で最後のお願いです。私と、向き合ってください。
……私から、目を背けないでください」
ポツンと、涙が一筋が零れ落ちた。
(……そうか、私)
拒絶されるよりも、旦那様に無視をされることが……、いないものとして扱われるのが嫌なんだ。
初めて自分の気持ちに気付きながらも、慌てて涙を拭っていると。
「……ない」
「え?」
旦那様が何か言葉を発したかと思うと、置いておいた旦那様用の木剣に目もくれず、私の元へ大股で歩み寄ってきて……。
(っ、怒られる!!)
思わずギュッと目を瞑った私の手から木剣が奪われ、音を立てて地面に落ちる。
ハッと目を見開いた時には、私を痛いくらいに抱きしめる力強い腕と私より少し高い温もりが訪れた。
「だ、旦那様!?」
予想もしていなかった事態にパニックに陥る私に、旦那様は私の肩に顔を埋めて弱々しく言う。
「君に剣なんて、向けられるわけがない……」
「え……、え? そ、そうしたら勝負が」
「分かっている。騎士失格だ。それでも良い。
妻に……いや、君に剣を向けることの方が許せない。
よってこの勝負は不戦勝、俺の負けだ」
(そ、それじゃあ……)
なんて考える余裕はなく、突如としていつかの浮遊感がまた身体を襲った。
「きゃっ!?」
背中と膝裏に回った力強い腕、そして、視界に飛び込んだ旦那様の顔に短く悲鳴をあげる。
旦那様はというと、鬼気迫った顔で私を見て言った。
「しっかり捕まっていろ」
「え……、キャーーー!?」
刹那、旦那様は見たことのない猛スピードで、部屋を出て廊下を走り出す。
侍従の皆が何事かと凝視されるけれど、言葉を返す余裕もなく旦那様の首にしがみつく。
そうして旦那様が向かった先は。
(きょ、共同寝室……!?)
驚く私をよそに、旦那様は私をそっとベッドの上に下ろしてから、旦那様は隣には座らずに佇んだまま私をじっと見下ろした。
……よく見ると、何かを言いかけてやめる、というような動作を繰り返している。
(……これは、旦那様のお言葉を待った方が良さそうだわ)
そうして旦那様のお言葉を待ち、部屋に沈黙が流れていたのを破るように、不意に扉が叩かれた。
「旦那様!? ティアナ様はそちらにいらっしゃるのですか!?」
「アレックス様、公務の時間です! こんな時間からティアナ様を寝室に連れ込まないでください! 何をしていらっしゃるんですか!?」
「「…………」」
どうしよう、と旦那様を見上げると、旦那様は頭をガシガシとかきながら言った。
「放って置けば良い。どうせ入っては来られん」
「で、ですが」
「無視しろ」
「……公務は、やらないとまずいのではないでしょうか……?」
恐る恐る尋ねた私に、旦那様は私の前で床に膝をつく。
(あ……)
久しぶりだ。久しぶりにこんなに近くで旦那様と視線を合わせた、と緩んだ頬を旦那様に軽くつままれる。
「だ、旦那ひゃま……?」
「……必ず約束を果たす。少し遅くなってしまうかもしれないが、夜、ここで待っていてくれ」
旦那様はそう言って、私の頭に大きな手を乗せると言ってしまう。
(あ……)
旦那様が行ってしまう。
そう思うと、自然と言葉が口から出ていた。
「お待ちしております」
そういうと、旦那様は柔らかい表情を浮かべて答えた。
「あぁ。行ってくる」
「……!」
旦那様は今度こそ部屋から外に出る。
私はというと、旦那様の言動や表情を思い出して、ベッドに倒れてしばらく身悶えたのだった。




