背中を押されて
大変、大変遅くなり申し訳ございません…!
あと数話ほどで完結する予定なのですが、リアル多忙のため年内には絶対完結したいと思います(泣)
「やはり、私の知らないうちに皆様が裏で動いてくださっていたのですね……」
私の言葉に、背景の青空が映える装いをしたキャシー様が紅茶を一口お飲みになった後、えぇ、と頷く。
「アレックス様を筆頭に、ヘルツベルク王国の調査をされていたそうですわ。
属国にするにしても、その国の実態を調べるのは当然のこと。
特に、貴方の父……、いえ、あんな人は父親とは呼べませんけれど、あの宰相については完全に黒である証拠が沢山出てきたそうですわ。
その上素直に罪を認めれば良いものを、アレックス様だけでなくバルドゥル様まで怒らせてしまったんですもの、情状酌量の余地もないでしょう。厳しい罰が下ることは間違いないですわね」
「…………」
何と言葉を返せば良いか分からず俯く私に、キャシー様は尋ねる。
「あら、嬉しくありませんの?」
「……嬉しい、と思うものなんでしょうか」
「少なくとも私は嬉しいですわね。貴女を長年傷つけいじめていたなんて万死に値しますわ」
「万死……」
「あら、本気ですわよ? ……でも、そんな貴女があの方々の下で真っすぐに育って良かったですわ。
この国へ来てこうして出会えたのも、皮肉なものですけれど、何か一つでも違っていれば出会えていないかもしれないのですし」
その言葉に、私は頷く。
「そう、なんですよね。おっしゃる通り、私がベート侯爵家に生まれ育たなければ、こちらへ嫁ぐことはなかった。
そう考えると、侯爵家の方々に自分達のしてきた悪事についての反省をしてほしいとは思っても、私がされたことについては今となっては癒えているのが本音です。
……ベート侯爵家にいたからこそ、こちらへ嫁ぎ、旦那様を始めキャシー様や皇帝陛下とお会い出来たのですから」
だから大丈夫、と笑みを浮かべてみせたものの、あ、と声を上げる。
「でも、ビアンカ様がキャシー様に手を上げようとしたことと旦那様に酷い言葉を投げかけたことだけは、到底許すことなど出来ません。
今でも思い出してははらわたが煮え繰り返っております」
「! ……本当、貴女っていう人は……」
「キャシー様?」
不自然に言葉が途切れたため名前を呼んだ私に、キャシー様が口にする。
「天然というものはつくづく厄介ですのね。
貴女を見ていると改めてそう思いますわ。
アレックス様も気が気でないでしょうね」
「っ……」
予期せず旦那様の名前が出たことで、心臓が大きく跳ね、分かりやすく動揺してしまう。
そんな私に鋭いキャシー様が気が付かないはずもなく、キャシー様は「あら」と目を細めて尋ねた。
「……何かありましたのね? アレックス様と」
「い、いいえ、何も」
「何もないとは言わせませんわ。何ですの、その分かりやすい顔は。
勿体ぶらないで教えてくださいな。私達のことも知られているのですから、フェアでなくてよ」
キャシー様に迫られ、半泣き状態になりながら勇気を振り絞って口を割る。
「……実は、旦那様に告白をしたのです」
「…………えっ!?!?」
キャシー様が椅子から立ち上がる。
その驚きようにこちらまで驚いてしまうと、キャシー様はハッとしてから顔を赤らめ、「失礼致しましたわ」と椅子に座り直すと、前のめりになって尋ねた。
「そ、それはまた突然ですわね。
この前まで告白しないと仰っていたからどうなることかと思っておりましたが……、それはとても、良いことだと思いますわ!
それで? アレックス様はなんと?」
キャシー様の心なしかキラキラとした瞳に見つめられ、居た堪れなくなりながら答える。
「……実は、お返事をいただけていなくて」
「…………は?」
キャシー様がポカンと口を開ける。
余計に居心地が悪くなり、私も泣きそうになりながら答える。
「馬車の中で告白したのですが、旦那様はその後一言もお話されなくて。
馬車を降りた後に挨拶をしたきりなかなかお会いすることも叶わず、どうやら避けられているようで……」
「…………」
(ち、沈黙が痛い……)
何か話さなければと口を開きかけたところで、先にキャシー様が言葉を発する。
「……夜会からすでに二週間程が経ちますわよね?
それから告白の返事を聞くどころか、一度も顔を合わせていないんですの?」
「は、はい。きっとお忙しいんだと思います。
そういうことに、しています……」
「そういうことにしているって、貴女の気持ちはどうなるのです?
中途半端に放置されていてそれでよろしいんですの?」
「……良くはないです。けれど、避けられているということは、そういうこと、ですよね」
「そういうこと、とは?」
キャシー様の問いかけにギュッと膝の上で拳を握りしめ、視界がぼやけるのを感じながら答える。
「旦那様が、私と同じ気持ちでは、ないということです。
……私の気持ちが、旦那様にとって迷惑だということです」
耐えきれず目からぼやけていた元凶となる涙が、頬をつたいこぼれ落ちる。
それを拭うことも出来ず、ただ溢れるばかりの涙を流す私に、キャシー様は言った。
「それは、アレックス様がそう仰ったんですの?」
「……いいえ」
「では、お互いに逃げていないできちんと対話すべきですわ」
キャシー様は断言してから、すぐに肩を竦めて困ったように笑う。
「……なんて、私だって偉そうに言える立場ではありませんのよ。
夜会での私達を見たでしょう?
バルドゥル様と私は、ずっと昔から婚約していたのですわ」
「……えっ」
「誰にも気が付かれていなかったでしょう? 彼曰く、『私の婚約者だと知られれば、君が狙われてしまうかもしれないから秘密裏に守っているつもりだった』ですって。
そんなことは初耳ですし、最初から言いなさいよ! と思わず突っ込んでしまいましたわ。
でも、本当に婚約者かどうか、私のことをどう思っているのかどうかなんて、今の貴女と同じように私にも聞く勇気はありませんでしたから、今となっては私ももっと怖がらずにぶつかっておけばよかった、なんて思いますわ」
まあ、無理ですけれどね。
と笑うキャシー様は、本当に可愛らしくキラキラしていて。
私もつられて笑みを浮かべると、キャシー様は「とにかく」と言葉を続ける。
「お互いに何を考えているかなんて、腹を割って話し合わなければ分かりませんわ。
アレックス様の場合、一生このままなんてことも有り得そうですし」
「い、一生……」
「貴女がそれで良いと仰るのならばそれで良いですけれど……、貴女はそれを望まないのではなくて?」
キャシー様の言葉に、心の中に火が灯り揺らいでいた決意が固まる。
私はそこで初めて涙を拭うと、迷いを振り切るようにキャシー様に向けて言葉を紡いだ。
「ありがとうございます。おかげさまで、目が覚めました」
「ふふ、それは良かったですわ」
そうしてキャシー様と笑い合ってから、私はそれで、と言葉を続けた。
「改めてキャシー様と皇帝陛下の馴れ初めと言いますか、お二人が婚約者になられた経緯についてお伺いしても?」
「えっ……!?」
話の流れがまさか自分に来るとは思わなかったらしく、キャシー様は頬を赤らめる。
そのお姿を可愛いと思いながら、キャシー様の口から語られるお二人の恋のお話に耳を傾けるのだった。




