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断罪

大変遅くなってしまい申し訳ございません…!

少しずつ、最終回に向けて頑張りたいと思います。

 家族に向かって頭を下げた私の耳に次に届いたのは、少々芝居がかった皇帝陛下のお言葉だった。


「……なるほど。貴重な証言をありがとう、クレイン夫人」

「!」


 言葉をかけられたのと同時に、私の肩にポンと手が載る。

 その手の持ち主を見やれば、旦那様と視線が合い頷かれて。


「よく頑張ったな」


 そう柔らかな口調で言ってくださった旦那様の言葉に安堵する。


(良かった。私の意図がきちんと伝わったみたい……)


 私に出来ることはきっとここまで。

 後はただ、彼らの罪が暴かれ、反省してくれることを祈るのみだと固唾を呑んでその時を見守る。

 皇帝陛下は私の言葉を受け、ふむ、と考えるような仕草をして口にした。


「クレイン夫人が勇気を出して証言してくれた内容が事実であれば……、これはベート侯爵家だけの問題ではなく国際問題に発展する事態となるけれど、その自覚はおありかな?

 ヘルツベルク国の王よ」


 皇帝陛下が名指ししたのは侯爵様ではなく国王陛下、だったのだけど……。


「ティ、ティアナは嘘をついています!!」


 声を上げたのは紛れもない侯爵様で。

 そして続いたのは、言わずもがな奥様とビアンカ様だった。


「そ、そうですわ! ティアナは妄言を吐くことがございますの!」

「も、妄想癖があるのです、彼女には!!」


 そうして喚く三人を一蹴する威厳に満ちたお声が会場に響き渡る。


「発言を控えろ」

「「「!」」」


 それは、嫁ぐ間際まで私の身を案じて下さったヘルツベルクの国王陛下のお言葉で。

 強い口調から怒気を孕んでいることにさすがに気が付いたベート侯爵家が三人ともに黙り込む。

 国王陛下はそんな彼らを一瞥してから、不意にこちらに向かって歩いてくる。

 咄嗟に旦那様が庇おうと、前に進み出ようとして下さったのを袖を引いて止めると、国王陛下が私の目の前で立ち止まって口を開いた。


「……ティアナ・クレイン夫人」

「はい」


 威厳に満ちたそのお姿を前に声が上擦らないよう努めながら返事をした私に、国王陛下に静かに尋ねられる。


「先ほどのそなたの証言は、全て真か」

「はい」

「……では、そなたが病弱であるということについては?」

「!」


 国王陛下が言わんとしていることが分かり、息を呑んでから静かに言葉を返した。


「……嘘です。私をお屋敷に閉じ込めるために、侯爵様が嘘をついていたのだと思います」


 次々と明らかになっていく事実に、会場がどよめく。

 私自身も、今まで黙っていた事実が明るみになっていくにつれ、安堵と共に言いしれぬ感情が押し寄せるのをグッと堪える。


(目を背けては駄目だから)


 そう自分に言い聞かせて。


「……そうか」


 私の言葉に国王陛下はそう呟いたかと思うと。


「え……っ!?」


 不意に頭を下げた。

 何の前触れもないその行動に驚き、一拍反応が遅れてしまったけれど慌てて悲鳴交じりに声を上げる。


「お、お顔をお上げください、国王陛下!」

「すまなかった。謝罪だけではとても足りないことを私はそなたにしてしまった。

 おかしいと、気が付くべきだった。

 そなたがヘルツベルクにいる間に公の場に一度たりとも姿を見せなかったことも、こちらへ送り出す時も」

「違います、国王陛下がお謝りになることではございません。むしろ、国王陛下はこちらへ嫁ぐ際十分すぎるほどの沢山のお嫁入り道具を贈ってくださいました。

 私は、そのお心遣いにとても、救われたのです」


 頭を下げ続けたままの国王陛下の真摯な言葉に、泣きそうになるのをグッと堪えて言葉をかけると、国王陛下はお顔を上げた。

 そして、泣き笑いのような表情を浮かべて口にした。


「……そなたの清らかな心こそ、真にあるべき人の姿なのかもしれぬな。

 そなたのその言葉を聞くことが出来ただけ、自分が犯した罪を少しばかり許すことが出来る気がする」

「っ、国王陛下……」


 国王陛下は再度私に申し訳なさそうに微笑んでから、やがて皇帝陛下に向かって口にする。


「国を統べる者として、等しく民を守る義務がある。

 私にはそれが欠けていた。

 よって、ベート侯爵家は奪爵し、宰相と共に私も退位することでどうか、この場を治めてはくれないだろうか。

 バルドゥル・ウィバリー皇帝陛下」

「お、お待ちください!」


 皇帝陛下が言葉を発せられる前に口を挟んだのは、やはり侯爵様で。

 侯爵様は自分の罪を認めたくないようで、必死に言い募る。


「な、なぜ私が宰相の座を退かなければならないのです!?」

「まだ分からぬのか!!」

「「「!」」」


 今度こそ国王陛下が激昂する。

 いつも温和な国王陛下がお怒りを露わにしているお姿を拝見するのは私も初めてで、侯爵家の三人と共に驚いていると、皇帝陛下がやはり芝居がかった口調で発言する。


「なるほど、ここまで愚鈍だとは。恐れ入ったよ、宰相殿。

 では、そんな愚鈍なあなたでも分かるように私が説明してあげよう」


 そういうと、取り出したのは遠目からでも分かる上質な紙で。


「見覚えがあるだろう? 宰相殿。

 言わずもがな、貴国と我が国とで交わした同盟締結の証だ。

 そして、これを交わす際に出した条件の一つが、“英雄アレックス・クレイン辺境伯に相応しい花嫁を”。

 それに対し、貴国が差し出してきた花嫁は、ご存知の通りティアナ夫人、元ベート嬢だ。

 そのティアナ夫人がベート侯爵家では、病弱だか何だか知らないが、いじめられ軽んじられていた存在。

 貴殿達の間では少なくとも“いわくつき”である人間をこちらへ厄介払いとして送ってきた。

 ……つまり我が国は、所詮はその程度の国であると軽んじられていたと捉えられるね?」 


 皇帝陛下のお言葉に、良かった、私の意図をやはり汲み取って下さっていたと安堵したのも束の間、私の隣にいた旦那様が口にする。


「補足しておくが、俺の妻であるティアナは最高の花嫁だ。

 彼女以外の者……、たとえば、そこでみっともなく喚いているもう一人の娘を送ってきていたとしたら、迷うことなく即座に叩き切ってやっていた」

「「「!?」」」


 驚いたのは何も、ベート侯爵家の三人だけではない。 

 私も旦那様の言葉に、顔を赤くさせたら良いのか青くさせたら良いのか分からず戸惑っていたところを皇帝陛下に見られていたようで、皇帝陛下は一瞬クスッと笑ってから、その笑みを不敵な笑みに変えて言葉を締める。


「さて、異論はあるかな?」


 皇帝陛下のとどめを指す一言に、今度こそ侯爵様は押し黙り、ガクリと膝をその場についたのだった。

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