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悪魔辺境伯の幸福花嫁〜旦那様、私は貴方のお役に立てていますか?〜  作者: 心音瑠璃


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32/49

見つけた自分の幸せ

『自分の本当の気持ちを伝えずに隠し通せる?

 たとえ隠し通せたとして、本当の気持ちを無理矢理心の中に押し込めて、貴女はそれで本当に幸せ?』


「……アナ、ティアナ」

「!」


 名前を呼ばれ我に返ると、旦那様は眉間に皺を寄せて言った。


「……心ここにあらずだな」

「も、申し訳ございません」


 夜。キャシー様とお話をしたこの日も、日課と課している夜会で踊るダンスのために“二人きりの時間”を過ごし、旦那様との特訓“一分間の見つめ合い”を行っている最中にボーッとしてしまったらしい。

 謝った私に、向かいに座っていた旦那様は「謝るな」と口にしてから不意に立ち上がると、長椅子に座っていた私の隣にやってきて座る。


「あ、あの、旦那様……?」

「何か悩み事か?」

「えっ」


 突然の指摘に肩を震わせれば、旦那様は「分かりやすすぎる」と言って言葉を続ける。


「昨日から様子がおかしいとは思っていた。

 疲れているのかと最初は思ったが、特段そのような感じは見受けられない。

 とすると……、考えられるのはコックス嬢に何か言われたか」

「!」

「図星か」


 旦那様はそう言うと、物騒な顔になり言う。


「なるほど、君がそんな顔をするとはコックス嬢に余程酷いことを言われたに違いない。

 公爵令嬢だと大目に見ていたが、やはり教師という名目など解雇すべきか」

「ち、違います! キャシー様のせいではございません!」

「え?」


 旦那様の聞き捨てならない言葉に咄嗟に反論した私に、旦那様は驚いたように固まってから、より眉間に皺を寄せて尋ねた。


「じゃあどうしてそんな顔をしている?」

「……旦那様の目には、どう映っていますか?」

「え?」


 質問に質問で返して旦那様をじっと見つめる私に、旦那様は息を呑んでやや間を置いてから口にした。


「……俺には、悲しそうにも、傷ついているようにも見えるが」


(そんな顔をしているのね……)


 だから、キャシー様を困らせてしまったんだわ、と申し訳なく思いながら言葉を続ける。


「本当に、キャシー様のせいではございません。

 キャシー様は、私にとって優しいお姉様のような存在であり、私と懇意にしてくださる素敵なお方です。

 決して、キャシー様が咎められる謂れはありません」

「……そうか、コックス嬢は君にとってそのような存在なのか。

 それは分かった。勘違いして悪かったな」

「いえ、旦那様がお謝りになることでは」

「だったら、なぜそんな顔をする?」


 旦那様はそう言うと、私の頬に触れる。

 驚く私に、旦那様もまた眉尻を下げて言った。


「……俺は、君にそんな顔をしてほしくない」

「……!」


 旦那様の触れた指先に、言葉に、表情に、息を呑む。そのまま旦那様は諭すように言葉を続けた。


「やっと君が明るい顔を見せるようになってホッとしていたのに、今その顔を暗くさせている理由は何だ。

 ……俺は夫として、その原因を取り除きたい。君の表情に、一点の曇りもなくなるように」

「……!」


 多分、旦那様に他意はない。

 またその言葉が、私と同じ気持ちを抱いているからだとは思わないし、図々しい勘違いはしない、けれど。


「……ふふ」

「!?」


 自然と笑みが、涙と共に溢れ落ちて。


「ティ、ティアナ!?」


 私のことで心配してくれたり、驚いたりしてくれる旦那様を見て、私を思い遣ってくれているのが伝わってきて。


「……不謹慎かもしれませんが、凄く、嬉しいです」

「え?」


 呆気に取られている旦那様に向かって、今度はしっかりと見上げて紡ぐ。


「旦那様の優しいお言葉のおかげで、悩みが吹き飛びました」


 そうだ、私、なんてちっぽけなことで悩んでいたのだろう。

 旦那様は、こんなに私のことを思ってくれているのに。


(たとえ同じ気持ちでなかったとしても、十分幸せじゃない)


 私の気持ちはきっと、これから先ももっと大きくなっていく。

 それはもう、認めざるを得ない事実なのだから認めるしかない。


(私は、旦那様のことが好き)


 だから。


「私、頑張ります。旦那様の妻としてのお役目を果たせるように。

 目の前のことから一つずつ……、夜会も、ダンスも頑張ります!」


 迷っている暇があったら旦那様のためになることをする。

 自分の気持ちを無理に押し込めることはせず、旦那様に対するこの想いは全力で、旦那様に御恩という形でお返しをしよう。


(それこそが、私の幸せ)


 キャシー様にもきちんと明日説明しようと誓ったところで、一人置いてけぼりを喰らった旦那様が困惑したように口を開く。


「君の中で悩みが解決したのなら良いが……、結局何が原因だったんだ?」

「それは……」


 確かに、心配をかけさせてしまったのだから旦那様にも多少なりとも説明した方が良いかも、と考えた末恐る恐る口にする。


「……あの。もし、先ほどの悩み事が旦那様のこと、だと言ったらどうしますか?」

「!」


 私の言葉に旦那様は一瞬固まってから、旦那様もまた戸惑ったように言った。


「……そう、だな。思い切り自分の顔を一発、ぶん殴るべきか?」

「え!?」


 驚く私とは裏腹に旦那様の目は本気なようで。

 よく見ると、右手に拳を作っているのが分かり、慌てて制する。


「う、嘘です! 悩んでいたのは、一向に旦那様との“見つめ合い”に慣れず、これではダンスを踊るのも上手くいくか心配になっていたと言いますか……!」


 嘘は言っていない。

 恋心を自覚してから、より旦那様を意識してしまうようになって心配していた気持ちはあるから……。


「それは、俺も同じだ」

「えっ?」


 旦那様が私の両手を取る。

 そして、私をじっと見つめて言った。


「慣れないと、と思っていたが、一向に慣れる気がしない。

 それもこれも全部、君が色々な表情をするせいだ」

「……えっ」

「あぁ、勘違いするな。これは俺の問題であって、君が気にすることじゃない。

 君の感情が豊かになった証拠であって、それは間違いなく良いことなのだから、遠慮する必要はない。

 それどころか、もっと君の色々な表情が見たい。現に、目が離せないでいるくらいだからな」

「……っ」


 早口で捲し立てられた言葉は、どれも信じ難いもので。

 でも確かに旦那様の方を見やると、いつも目が合うような気はしていて……。


「……待て、俺は今何を口走った? 悪い、忘れてくれ。自分でも引いた」


 疲れのせいだ、と顔を赤らめる旦那様を見て……。


「忘れることなんて、出来ません」

「えっ?」


 旦那様が驚いたように私を見る。

 私はその旦那様に向かって、心からの言葉を告げる。


「旦那様がくれる言葉は、どれも全て、宝物ですから」

「……!!」


 旦那様は今までに見たことのないほど目を見開く。

 そんな旦那様の前で立ち上がると口を開いた。


「旦那様とお話をすると、楽しくてつい時間を忘れてしまうのですが、ダンスの特訓をしないとですね。慣れることは難しくても、一緒に頑張りましょう!」


 そう言って手を差し伸べると、旦那様は小さく笑い頷きながら、私の手を取る。




 こうして、二人きりのダンスレッスンの日々は続き……、ついに、妻として初仕事であり大舞台となる波乱の夜会の日を迎えた。

いつもお読みいただきありがとうございます。

この物語は次話から夜会編に入り終盤を迎えるのですが、今日でストックが切れてしまいました…。

リアル多忙続きのため、ここから先はもしかしたら更新が安定しないかもしれませんが、皆様の応援を励みに最後まで必ず執筆を頑張りたいと思いますので(6月中)、引き続き応援していただけたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします!


2024.6.25. 6/26(水)〜連載再開いたします。

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