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自分の性格

「全体的にあなたは優秀です。……ただ一つ、致命傷だと私が感じたのは、あなたのその自信のなさですわ」

「!」


 キャシー先生の指摘に膝に置いていた手が震える。

 キャシー先生は顔を上げ、私を真っ直ぐと見つめて続けた。


「自信一つでその人の見え方や印象は、ガラリと変わるもの。

 たとえば、あなたよりマナーや能力が多少劣っている方が隣にいたとして、お二人のことを知らない赤の他人がお二人を見比べるとしましょう。

 すると、もどかしいことに自信のないあなたより、自信のある方の方が他人の目には魅力的に映ってしまうものなのですわ。それに」


 キャシー先生はそこで言葉を切り、尋ねる。


「貴女のパートナーを務めてくださるお方は?」

「……アレックス・クレイン様です」

「そうですわよね? 貴女はクレイン辺境伯のアレックス様の妻として、お披露目の際隣に並び立つことになる。

 その時に、貴女がおどおどとしている姿が周りの目に映ったとしたら?

 貴女だけでなくアレックス様の評判にも繋がりますわ。もちろん、悪い方に」


 アレックス様の評判。

 キャシー先生の口から改めて告げられた単語に、知らず知らずのうちに背筋が伸びる。

 キャシー先生は私に訴えるようにはっきりと口にする。


「アレックス様は皇帝陛下にその手腕を認められている英雄であらせられる方。

 アレックス様は軍を率いるトップというお立場上、民に情けない姿など見せられないのです。

 現に、今まで誰一人としてアレックス様が気を抜いているお姿を見たことなどございませんわ。

 ……だからこそ、先程貴女の隣にいた時のアレックス様には驚かされたのだけれど」


 キャシー先生の最後の方の言葉が聞こえず戸惑う私に気付いたのか、キャシー先生は「とにかく」と話を戻した。


「それは私達女性とて同じ。私は公爵令嬢として情けない姿など見せられないし、見せたくもありません。

 では、貴女は? 貴女のその性格を()()させた理由が私には分かりかねますが、その姿を民に見せて損をするのは間違いなく貴女の方です。

 もちろん、アレックス様にも恥をかかせることになるでしょう。

 そうしたら、ここぞとばかりに周囲は嘲笑するでしょうね。

 ……アレックス様が力技でねじ伏せているだけで、彼にも弱点はありますから」

「っ、それは、どういう……」


 キャシー先生はもう一口紅茶を飲むと、立ち上がって答える。


「私の口からお話しできることは以上です。

 後はご夫婦間できちんとお話を交わすべきですわ。

 とはいえ私も、アレックス様のことはあまり存じ上げません。

 アレックス様は多くを語りはしませんから、皇帝陛下の口からお聞きするのみです。

 ……だからこそ、私達は貴女にかけているのですわ。

 アレックス様の妻として嫁いできた貴女に」

「え…………」


 キャシー先生は物を言わずじっと私を見つめた後、手を叩いて言う。


「本日の授業は以上ですわ」

「えっ」

「テストの結果を踏まえた上で授業内容を決めます。

 貴女も疲れたでしょうし、本日はここまでとしましょう」

「は、はい……」


 本当はもう少しお話を聞かせて頂きたかったけど、キャシー先生のお考えがあってのことよねと口を噤んだ私に、キャシー先生は「ごきげんよう」と完璧で優雅な淑女の礼をしたのを見て慌てて立ち上がる。


「玄関ホールまでお見送りいたします」

「いいえ、結構ですわ。初日でテストを詰め込んだのですもの、まずは身体をゆっくり休めることが貴女の今すべきことですわ」

「……分かりました。では、こちらで失礼させて頂きます。

 本日はありがとうございました。明日からまた、どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言って頭を下げると、キャシー先生は何も言わず部屋を後にした。

 その後ろ姿を見届けてから、もう一度席に座り直すと、控えていた侍女のローナに声をかけられる。


「お疲れ様です、ティアナ様。紅茶を淹れ直しましょうか?」


 ローナの問いかけに、首を横に振って答える。


「いえ、大丈夫よ。ローナも、レッスンに付き合ってくれてありがとう。

 他の侍従達にもお礼を伝えておいて」

「はい、かしこまりました」

「それから、部屋に戻ったら少し休んでも良いかしら?」

「はい、もちろんです。晩餐の際はお呼びいたしますね」

「ありがとう」


 そうしてローナに伝えた通り部屋に戻り、一人きりの空間でベッドの上で寝返りを打つ。

 本当は、身体は疲れているのだろうけど全く眠れない。

 それでも眠ると言ったのは、一人きりになりたかったから。

 天井をボーッと見ながら思い出されるのは、キャシー先生からのお言葉の数々。


(キャシー先生はきっと、敢えて厳しく指摘してくださった。

 私に考えさせるつもりで)


 全てキャシー先生の言う通りなのだ。

 旦那様の隣に立つということは、それだけの責任を伴う。

 私もそれが分かっていたから、妻として相応しくありたいと、淑女教育を受けたいとお願いしたのだ。


(マナーは完璧だと評価して下さった。

 後、私に必要なのは、自信だけ……)


『貴女の性格を()()させた理由が私には分かりかねますが、その姿を民に見せて損をするのは間違いなく貴女の方です』


 キャシー先生の言葉が蘇ったことで、知らず知らずのうちに拳に力が入るのだった。

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