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胸を張れる自分になるために

「そう、それが貴方達の出した答えなんだね」


 皇帝陛下のお言葉に、旦那様と二人揃って頷く。

 こうして今皇帝陛下に謁見しているのは、私が旦那様を通してお願いしたもの。

 この前皇帝陛下の目の前で体調を崩して倒れてしまったことへの謝罪と、夜会に参加する旨をお伝えするため、旦那様と二人でお城へと登城したのだ。


 そして頷いた私達に、皇帝陛下は「そうか」と口にしてから言った。


「貴女の方から参加の意志を示してくれたことはありがたい。我が国とヘルツベルクの関係は今回の夜会ではっきりさせるつもりだからね」


(やはりそうだったのね。もしここで私が不参加と申し出ていたらどうなっていたことか……)


 皇帝陛下のお言葉に、私の隣に座っている旦那様が顔を顰めたのを見て皇帝陛下が笑う。


「でも、正直驚いたよ。私は貴女が参加してくれるかどうかはどちらかというと不参加にかけていたんだ。貴女の意志、というよりは隣にいる男の意思でね」

「……?」


 どういう意味だろう、と首を傾げた私に反し、旦那様は「バルドゥル」と怒ったように名前を呼ぶ。

 皇帝陛下は「事実だろう?」と笑い、足を組んで言った。


「ここだけの話、アレックスは今回の夜会に限らず貴女を公の場に晒すことに難色を示した。

 なぜだか分かる?」

 

 夜会だけではない、という言葉に少し考えてから答える。


「……私では足手纏いになるから、でしょうか?」

「……はあ!?」


 私の答えを聞いて、旦那様の口からは聞いたことのない素っ頓狂な声が飛び出し、皇帝陛下はお腹を抱えて笑っていた。


「ははは! そうきたか! いやー、本当にアレックスの嫁に来たのが貴女で良かった。おかげでアレックスの見たことのない表情を見られるようになったし」

「……お前、楽しんでいるだろう?」

「これが楽しまずして何になるのかな?

 貴方の鉄仮面を剥がせる唯一の姫君が現れて、兄貴分の私としては喜ばしいことだし最高の気分だよ」

「勝手に兄貴ヅラするな」


 旦那様の言葉に、皇帝陛下は笑いすぎたのか目元の涙を拭う素振りをしてから、私に向き直ると顎に手を載せて言った。


「そんな唯一無二の姫君に教えてあげよう。

 アレックスはどうやら、貴女を大切に想っているらしい」

「大切に……?」

「余計なことを言うな、バルドゥル!」


 旦那様の言葉に、皇帝陛下は悪戯っぽく笑いつつ、「だって気付いていなさそうだったから教えてあげたんだよ」と肩をすくめて言う。

 私は皇帝陛下のお言葉に言葉を返した。


「存じ上げております」

「「え?」」


 お二人がこちらを見たのに対し、にこりと笑うと口にした。


「旦那様は、私を花嫁として大切にしてくださっています。

 ……それはもう、こちらが幸せしか感じないくらいに」

「「……!」」


 ギュッと胸の前で手を握る。

 今回のことも然り、こうして前を向けるようになったのは間違いなく旦那様のおかげだから。

 そう返答したのと同時にこの十日間程旦那様と過ごした日々を思い出し、温かな感情が胸いっぱいに広がっていくのを感じていると。


「見るな」

「えっ」


 不意に旦那様の手が、私の視界を遮るように顔の前に差し出されて。


「だ、旦那様?」


 何事が起きているのか分からず戸惑って旦那様を見上げれば、旦那様は皇帝陛下を睨むように見つめていて。


「独占欲つよ」


 皇帝陛下が小さく呟いたのを辛うじて聞き取ったけれど、それ以上触れることなく皇帝陛下が話題を転換する。


「まあ、その件はまた今度ゆっくり聞かせてもらうとして」

「誰が聞かせるか」

「そう言わずに。誰がこの縁を結んだと思っているのかな?」

「……チッ」


 旦那様は舌打ちしながら私の顔の前に差し出していた手を引いたことにより、にこにこと笑みを浮かべる皇帝陛下と再び目が合うと、皇帝陛下は「それで?」と話を切り出した。


「貴方達がここへ来た目的は?」


 皇帝陛下から切り出されたことで旦那様と目が合った私達を見て、皇帝陛下は面白そうに笑みを浮かべたまま続ける。


「私は夜会の件を招待状を兼ねてアレックスに送ったのだし、返事をするのに何も二人で足を運ぶ必要はないはず。

 となると、今日ここへわざわざ二人が出向いた理由は別にあるということだ。

 たとえば、私にお願いしたいことがあって来た、とかね」

「話が早くて助かる」


 旦那様はそう言うと、私から話すように目配せしたため頷くと、皇帝陛下のお言葉に私が返す。


「はい。僭越ながら、ご相談させて頂きたいことがあり参りました」

「ほぅ。花嫁さんから相談とは何かな?」


 皇帝陛下から話の続きを促され、ギュッと膝の上で拳を握ると意を決して口を開く。


「夜会へ参加する旨をお伝えさせていただいたものの、今の私では旦那様の妻として不十分だと思うのです」


 そう、今の私では旦那様の横に並び立つ資格はない。だから。


「夜会に胸を張って参加出来るよう、私に帝国での淑女教育を一から学ばせて頂けませんか」


 これが私に出来る、今の最善の選択だと信じて願い出れば、皇帝陛下は少しの間の後小さく笑みを浮かべて言った。


「……なるほど。その心意気を買ったよ」

「それでは……!」

「うん。異論はない。私の方から指導者も提案させてもらうとしよう」

「っ、ありがとうございます!」


 嬉しくなって旦那様を見上げると、旦那様もまた小さく笑い返してくれる。

 私も出来る限り口角を上げてみせると、皇帝陛下が「そうだな」と顎に手を当てて、何か考え事をするかのように言う。


「それについては私からも相談があるのだけど……」

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