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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不幸を売る猫の話

某掲示板サイトの創作スレに投稿した作品のリファイン版。

ネコが捨てられてたら保護しますが、紫色のアイツが捨てられてたら拾わないでしょうね。

私は猫を飼ってないので猫好きにとってはちがうそうじゃないって思う描写が多いと思いますが、許してクレメンス。

 暑く長い夏も11月に入るころには肌寒い秋の季節になった。

 私は冬用の黒いコートを羽織り、樹木の葉の色が移るのを見に散歩に出かけていた。

 その時に、道にある電柱の下に箱を見つけた。

 箱はカサコソと音を立てており、動いていた。

 不審に思って中を覗いてみた。動きからしてなんとなく虫ではない気がした。

 其処にはつぶらな瞳の愛らしい黒猫がいた。

 黒猫は数枚の粗末な布切れにくるまりながら活発に動き回っていた。

 私は周囲を見渡すが電線に止まるカラス以外は何もなかった。

 黒猫は私に気が付くと、ニーニーと顔を上げて鳴き始めた。

 おなかが減っているのだろうか?

 私は思わず手を伸ばしてその頬を撫でる。

 信じられない程に小さくて暖かい。それでいてふかふかしている。

 これはぁ、ねこだぁ。



 うりうりと頬をなでまわす私の指を黒猫はぺろぺろ嘗め回してくる。

 黒猫の舌はぬるぬるふにゃふにゃしてて指が溶けちゃううう。

 けれども私の指から分泌させるのは乳ではなく、出かける前に塗ったハンドクリームだけだよ、ネコソン君。

 本当に申し訳ない。ふぅー、やれやれ。。。

 それにしても、こんなかわいらしい生き物をAmazonの小箱に入れて捨てるだなんて、どこのドイツだろうか?

 Amazonの箱に入れれば、ベルリンでも猫愛護センターでもどこでも無料で配送してくれると勘違いしているのだろうか?私マジ憤激、激おこぷんぷんソードハイデッカー。


 と、名前を突き止めてやろうという義侠心が芽生え、箱をあさると動き回る黒猫の下に紙きれのようなものがあるのに気が付いた。

 拾い上げると、それはレシートのようなものではなく、きちんと編集ソフトで印字された物だった。

 紙切れには明朝体でこう書かれていた。


【このクロネコを拾うと不幸になります】


「はぁ?」とリアルで口に衝いてでた。

 まずさ、猫を捨てるってところから信じらんないしさ、理由はどうあれこんなかわいらしいねこを陥れようとする神経がまじやばー!こんな粗末な箱に入れてさ、カラスに食べられたらどうするのとか考えなかったのかな?

 まじやばー!

 まじやばー。

 ……。

 私はこの紙切れを凝視した後に、無言でコートの内ポケットに入れた。

 ニーニーなく黒猫を胸に抱き抱えながら、とりあえず自宅アパートに引き返すことにした。

 アパートに向かっている間も、黒猫は頻りに私の指をしゃぶっていた。



 アパートは原則としてペット飼育禁止だった。

 だが、この黒猫のかわいらしい姿を見れば、大家さんもきっと許してくれるに違いないともくろんでいた。

 結果として、大家さんは許してはくれなかった。ちくしょう。

 とはいえ、今すぐ元居たところに戻して来いというわけではなく、保健所に預けたり、新しい飼い主を探したりする間は飼育を許してくれた。

 私は大家さんの心遣いに素直に感謝をし、自室に戻った。

 私はペット可の住まいに引っ越そうと決意した。


 黒猫はこの寒々しい秋風に吹かれてすっかりおなかをすかせているに違いないと思い、餌をあげることにした。

 しかし、黒猫は水をぴちゃぴちゃと飲むだけで、あとは満足したようにタオルケットに寝転んでしまった。

 黒猫は大人しくて、突然見覚えのない環境に連れてこられても、暴れることはなかった。

 ただ、餌を全く食べないのを見て、私は心配になった。

 何か悪い病気をしているのではないか?

 それに拾い猫はなんであれ動物病院に連れて検査をしてもらうものだと聞いていたので、最寄りのクリニックに電話をして、連れていくことにした。



 黒猫の診療を終えると、先生は朗らかな笑顔を浮かべて言った。

「悪い病気や寄生虫にかかっているわけではないようです。」

 その言葉を聞いて安心した。それから、私は餌を全く食べない理由を聞いたり、世話の方法を聞いたりした。

 先生の言葉に私は熱心にメモを取り、頭の中でその様子をイメージした。

 そうこうしているうちに、ふと先生は黒猫の耳を確認した。

 黒猫は大人しくされるがままだった。

 しかし、朗らかだった先生の顔がサッと青ざめた。

「どうかしましたか」

 と私は聞いたが、

 先生は、いいやべつにと口ごもるばかりで何も答えない。

 私は先生のしたように、黒猫の耳を裏返した。

 黒猫の耳の裏側にはQLーCC-4というタグ番号のようなものが刻まれていた。

「なんですか、これ。去勢するとこういうタグをつけるんですか?」

 しかし、先生は何も答えなかった。

 耳をいじられて、黒猫はくすぐったそうに後ろ足で掻いた。

 ふと、わたしは例の紙切れのことを思い出した。

 紙切れは黒いコートの中に入れられたままだった。



 どうして、私はこれを捨てなかったのだろうか。

 この紙切れを見てから胸に衝く不安が離れなかった。このまま何も聞かずにアパートに帰ることもできた。しかし、逸る好奇心に打ち勝てずに私はその紙切れを先生に見せた。



「このクロネコを拾うと不幸になります、ですか」

 先生は受け取った紙切れをじっと凝視した。

「ええ、いたずらにしても、悪質ですよね?命をもてあそんでいるというか。」

 私はそう言いながらも違う、そうじゃないと心のうちではつぶやいていた。

「……」

 先生は何もしゃべらなかった。悲しいとも怒りともとれない複雑な表情をしていた。

「せ、先生。何か知っているのなら話してくださいな。ネコに、黒猫に何か深刻な異常でも見つかったんですか!?」

 先生の態度に思わず苛立ち私は自分を抑えきれずに怒鳴っていた。

 驚いた黒猫はにゃあと鳴いて机から飛び上がり、棚の上に逃げた。

 がたんっと、医療器具が床に落ちた。

「あ、ごめんなさい、猫が……」

 と慌てて言うと、先生は落ち着いた様子で医療器具を拾い上げる。

「いえ、大丈夫です。」

 先生は、棚の上の黒猫を見上げた後に、観念したようにため息をついた。

 そして私のほうに向きなおった。



「これから話すことは聞いてもただ、不快な気持ちになるだけですが、いいですか?」

 私はごくりとつばを飲み込み、言った。

「ええ、かまいませんよ」

 この時、私はこの世すべての悪を飲み込んでやろうという気概でいた。

「そうですか。では」

 と先生は意を決したように滔々と語り始める。


「この猫ちゃんにはもともと年老いた飼い主がいました。

 その人は足腰が弱かったということもあり、あまり外に出たがらず、人付き合いも少ない難儀な性格をしていたそうなのですが、唯一飼育していた猫にだけは心を開いていたようです。

 ただ、やや偏愛がすぎていたといいますか、飼育している猫もなん十匹といて、部屋中至る所にいました。

 しかも、外に出さないようにしていたので、いったいどうやって面倒を見ていたのかアパートの住人はいつも不思議に思っていたそうです。

 ある日、その人の隣にすんでいた人から通報があって、大家さんと警察がその部屋に向かいました。

 玄関の扉からすでに異臭が漂い、ただならぬ状態であることが容易に想像がつきました。

 部屋の扉を開けると、一斉にサッと飛びのく気配がありました。

 部屋の住人が飼っていたネコでした。

 ネコは玄関から部屋中至る所にいました。

 その視線は部屋の侵入者のほうに一様に向けられていました。

 大家さんと警察は部屋の住人の名前を呼びましたが、返事がありません。

 床は猫の汚したものでまみれていたようで、仕方なく土足でキッチンをぬけて奥の部屋に進むと、布団に横たわる住人の変わり果てた姿がありました。

 住人には猫たちが周囲を取り囲んでおり、まるで遺体を守るようにしていたそうです。

 部屋にはわずかな家具だけがあり、開け放たれた冷蔵庫には食べ物が何もありませんでした。

 部屋の異臭の大元は猫の出した糞だろうと警察は考えました。

 しかし、夏場ということもあり、遺体も腐臭を漂わせてしかるべきでした。

 遺体はすでに骨になっていました。

 そして猫たちは相変わらず健康的な体を維持していました。

 すでに飼い主が死んでいるにもかかわらず……」



「先生、それって、つまり」

 私は震える声で聞いた。先生は言う。

「部屋から引き取られた猫たちは、当然みな去勢手術が行われ、保健所を通じてほかの飼い主に引き取られたと聞きました。しかし……。」

 先生は質問には答えなかった。答える必要もない。

 先生の話はそこで終わった。

 私はひどく気分が悪くなっていた。

 あの紙切れを残した人もこんな気分になったのだろうか。



「ぺちゃぺちゃ」

 はっと気が付くと、クロネコがいつのまにか棚から降りてきて私の指を嘗め回していた。

 あのふにゃふにゃした生暖かい舌で、甘えているつもりなのか、それとも……。


発想の元ネタはラブクラフトのウルタールの猫。

といっても漫画版を読んだだけですがね。

感想評価ありましたらお願いします。

猫と和解せよでもいいです。

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