この国の過去と未来と祝福と
厳かな雰囲気の中、入学式自体は順調に進められていた。
「・・・・。以上で新入生代表の挨拶とさせていただきます。新入生代表、レイソフィア・ブルース」
挨拶を終え、壇上で一礼する。
会場の拍手と視線が再び彼女に送られる。
「新入生代表、レイソフィアさん。ありがとうございました。それでは最後に、グラム魔術学院・学院長 カラミ・ファランクスより新入生の皆様にご挨拶があります」
カラミ・ファランクス 魔石隊の第十番隊の隊長を務めていた。
幻術を得意とする幻術師であり、『真昼の夜』や『子守虫』、など彼が生み出し有名になった魔術も数多くある。
学院長になってからも教壇に立つことを辞めず、特別講義と称して数多くの学生を集める。
壇上にあがり軽くマイクチェックを済ませる。
「皆さん、こんにちは。私がこの学院の長、カラミです。新入生の皆様に挨拶ということで、まずはねぎらいの言葉をかけさせてください。
内部進学生も外部進学生の皆さんも、厳しい試験をよく乗り越えてくれましたね。たくさんの努力をし自分と向き合ったことでしょう。
それではここからは学長として、皆さんがこの学院生活をよりよく、有意義に過ごしてもらうために心に留めておいてほしいことを話したいと思います。」
そう言って、カラミは指をパチンと鳴らす。
静寂に包まれた会場が段々と薄暗くなる。
天井を見上げると、プラネタリウムのようにまばらに光があった。
そして、人形劇のように人型が動いていた。
「それではこのままはじめましょうか。まずは過去に関する話、この国で生まれた源生術の話をしましょう」
源生術とは、大昔に人類が生み出したとされる叡智の結晶。
実現したいと願ったこと、イメージした理想を叶える力。
そんな大層なことを言っているが、初めて成功させることができた源生術は“指先から水を出す”という、話だけ聞くと手品と間違われそうなことであった。
『水よ』と唱えて目の前のコップに指先から水を注ぐ。
実際に披露しても、始めのうちはどうせ手品だろうと、何かネタがあるんじゃないかと言われた。
ただ、本気で源生術の可能性を信じて、この研究に賛同する者たちが現れたことも事実である。
それから度々源生術は披露され、話題にされていた。
指先から火を出す源生術や、風をそよがせる源生術。
披露するたびに手品の類だろうと吹聴する者たちと可能性を信じる者たちが増えていった。
木の釣竿の強度を鋼鉄並の強度にする源生術、包丁の切れ味を一瞬で元に戻す源生術、道具に源生術の効果を及ぼすことができるようになった。
少しずつ、本当に少しずつではあったが、源生術の存在がこの国に広まり、認められるようになっていった。
すでに源生術が施された目覚まし時計が開発された。
いちいち源生術をかけるのではなく、ねじをひねる・ボタンを押すなど、誰にでもできる操作で源生術の発動条件を設定できる商品として売り出された。
この技術は“時限式源生術”としてさまざまな商品に応用され、売り出された。
源生術が段々と日常生活に馴染みはじめ、源生術の可能性を、存在自体を信じている者たちの方が多くなった。
ついには、誰もが源生術を扱えるようになろう、と源生術の教育と研究のための施設の設立を国が認めた。
この時に作られたのがこのグラム魔術学院であり、この頃から源生術は“魔術”と呼ばれるようになった、と言われています。
そして、このグラム魔術学院の第一期生が卒業するタイミングで、ここにいる皆さんの多くが憧れているであろう、魔石隊が作られたのです。
ここまでが源生術の、この学院の、この国における大切な過去の話です。ここにいる皆さんであれば一度は勉強したことのある内容だったと思います。さて、ここからは、将来に関する話をさせていただきます。
先日、親戚にいる小さな子にこんなことを聞かれたんです。「源生術ってなに?」って。
正直どこで源生術という言葉を聞いてきたんだ、とびっくりしました。私たちのように魔術を専門的に扱っている人間でないと聞かない言葉になりつつありますから。
皆さんなら、その子になんて教えてあげますか?
先ほど私の話した源生術の歴史を話してあげる、というのも間違いではないと思います。
過去の歴史を、この国の発展の歴史を次の世代につないでいく。
では、仮に「魔術ってなに?」と聞かれたらなんと教えてあげますか?
同じように源生術の歴史を話して、こうして魔術が生まれた、と教えてあげる。
それで本当にいいのでしょうか。
源生術は過去の偉人たちが紡いで、発展させてきた産物。
彼らに敬意を表するためにも、正しい歴史を伝えるべきでしょう。
ただし、今。この瞬間、この歴史を、魔術を作り上げているのは君たちを含めたこの時代を生きる私たちなのです。
誰かの言葉を借りたりせず、君たちの経験・知識・感性など、自分自身のすべてを使って、魔術を作り上げてほしいのです。
そのために大切なものが、自分自身と向き合い、自分の魔術とは何かを考え抜くこと。
これから経験することに意味を見いだし、得た知識を正しく使いこなし、きみたちの感性を育んでほしいのです。
魔術において最も大切なものは術師本人の想像力である。
魔術が源生術であったころから、変わらないことであり、過去の、今の、未来の術師たちがこの人類の叡智の結晶を進化させてきた原動力でもあります。
君たち自身が成長することで、君たちの想像力にも進化が生まれ、結果的に魔術の発展へとつながっていくと、私は信じています。
ここまでが、これからの学院生活において、君たちの心にとどめておいてほしい、将来の話です。」
カラミ学長が話を終えると会場は拍手で包まる。
「あ、それと一つ忘れ物をしてしまいましたね」
そう言って、カラミは天井を指さす。
視線を向けると、天井は薄暗いまま。
上映が終了したプラネタリウムとなっていた。
「新入生諸君、我がグラム魔術学院へようこそ。『入学おめでとう』」
次の瞬間、薄暗い天井からきれいな花火が降ってきた。
とてもきれいで幻想的な逆さの花火。
幻だから温度はないので熱くもない。
まばゆいキレイな光が、新入生たちを祝福していた。




